著者
安 哉宣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1. はじめに<br><br> 日本におけるインバウンド観光は2020年に2000万人という目標値を5年も早く達成し、2020年・4000万人という新たな目標値が示されるほど急成長を遂げてきた。並行して観光の形態や対象は多様化しており、旅行者を取り巻く環境も変わりつつある。日本各地では外国人旅行者への受け入れ環境の整備や体制づくりが課題となっている。訪日韓国人旅行者数は、2016年に過去最高値(約500万人)となり、わずか2年間で約2倍近くの増加を見せた。その際,「沖縄」が新たな訪問先として注目されている。沖縄への韓国人旅行者数は2016年に約43万人となり、これは2011年比約20倍以上の値である。この要因として航空路線の新規就航とLCCの増便が挙げられる。韓国から沖縄への定期便(直行便)は2011年に週8便であったが、2016年には週28便、2017年には週61便となった。本報告では、この急増した沖縄への韓国人旅行者を対象とし、アンケート調査に基づき、沖縄における韓国人旅行者の観光行動および受け入れ環境への評価を把握することを目的とする。アンケート調査は2017年8月に実施し、回答者数は130名(女性79名、男性51名)であった。<br><br>2. 韓国人旅行者の特性による観光行動<br><br> 沖縄への韓国人旅行者は、日本旅行の経験者が約74.2%であったが、沖縄旅行を初めて経験する者が92.4%を占めた。沖縄旅行のきっかけは「観光地の魅力(42.7%)」、「家族、友達、知人からのおすすめ(29.0%)」、「LCC航空(8.4%)」であった。恋人・夫婦(30.3%)及び家族旅行者(47.0%)が多く、未就学児同伴の旅行者も約22.7%を占めていた。旅行日程の多くは3泊であり滞在日数はそれほど長くなかった。主な観光スポットは那覇市内の国際通り、美浜アメリカンビレッジ、万座毛周辺、沖縄美ら海水族館,古宇利島などに集中していた。レンタカー利用者が半分以上であるが、公共交通利用も約28%を占めている。海外個人旅行者(FIT)のうち、旅行会社のオプショナルツアーへの参加者は19.7%であった。主なツアー内容は、シュノーケリング(38%)、日帰りバスツアー(35%)、ダイビング(21%)などである。沖縄の魅力として自然景観(21.3%)、海(22.7%)、海水浴(12.3%)、マリンレジャー(8.7%)であった。これらの移動にレンタカーを利用する者が多いものの、沖縄の観光魅力としてドライブが占める割合は3.6%と高くなかった。<br><br>3. 訪沖旅行者の受け入れ環境への評価<br><br> 沖縄への韓国人旅行者の約76%は今回の沖縄旅行に対して満足していると答えていた。しかし、21.3%がFIT観光客に向けた環境整備が必要であると指摘した。「良くない」と評価されたものとして、道路標識・案内板の外国語表記(26.2%)、公共交通利用の便利さ(23.1%)、無料Wi-Fi環境(18.1%)、公共交通機関の外国語表記・案内(16.7%)、レストラン及び観光施設での外国語表記・対応(15.8%)がみられた。沖縄におけるインバウンド観光客の受け入れ環境を充実させるために、交通システムの整備や多言語対応の改善・強化が必要となっている。交通面については、自由回答において、北部エリアまでの直行便、バス本数の増便、利便性の高い公共交通フリーパスの設定など、レンタカー利用せず観光できる交通インフラ整備・拡充の改善が求められていた。この背景として、駐車場、交通渋滞による観光時間のロス、韓国とは異なる交通ルールが沖縄観光の不満足の存在が挙げられる。一方の多言語対応に関しては、韓国人観光者はマリンレジャーに対するニーズは高いものの、まだ外国語対応ができる事業所は少ない状況にある。体験観光分野における外国語対応スタッフの拡充は沖縄魅力の分散・拡散、沖縄での長期滞在へのアプローチにもなりうると考えられる。<br><br>4. おわりに<br><br> 以上のように、外国人観光客の急増する沖縄では、観光スポット間の周遊を促す公共交通移動面の利便性やアクセス改善、外国語対応といった受け入れ環境の整備が求められている。
著者
安 哉宣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><u>1.研究目的</u></p><p></p><p>本報告では,航空自由化や格安航空会社の出現などにより多様化した日韓間の航空市場の動向を把握することを目的とする。特に本報告では韓国側航空会社の対日航空路線に焦点を当てた。</p><p></p><p><u>2.対日航空旅客数の推移</u></p><p></p><p>1990年から2019年までの約30年間にわたる韓国対日本の航空旅客数の推移をみると,1990年には約4,226千人であったが,2000年には約7,450千人,2005年には90年対比約2倍の約8,592千人にまで増加していた。その後も対日航空旅客数は増え続け,2015年には90年対比約3倍の12,169千人,2018年には過去最高の約21,479千人にまで増加した。</p><p></p><p><u>3.韓国の航空会社による対日路線への参入</u></p><p></p><p>現在,日本に就航している韓国籍の航空会社は全部で8社にのぼる(FSC=フル・サービス・キャリア:2社,LCC=ロー・コスト・キャリア:6社)。韓国における航空旅客輸送は大韓国民航空社(1946〜1962)を嚆矢とし,同社は初の対日路線として1951年のソウル−東京便(チャーター便)を就航させた。その後1962年に大韓国民航空社の事業を継承した大韓航空公社(国営)は,1964年に初の対日定期路線であるソウル−大阪間を開設した。大韓航空公社(現,大韓航空)は1969年に民営化され,1988年に至るまで韓国の航空市場をほぼ独占した。</p><p>韓国第2民営航空会社であるアシアナ航空は1988年に設立されたものであり,1989年に初の国際便であるソウル‐仙台間のチャーター便を,翌1990年にはソウル−東京間の定期便が就航させた。その後大韓航空とアシアナ航空の2社は2008年までにFSCとして日本の25都市・35路線に進出した。</p><p>LCCによる対日路線参入は2008年からであり,チェジュ航空による済州−広島,ソウル−北九州,清州−大阪間のチャーター便であった。翌年同社はソウル−大阪,ソウル−北九州間の定期便を就航させた。エアプサンによる対日航空便の初就航は2010年の釜山−福岡,釜山−大阪,釜山−東京(チャーター便)であった。同2010年にはイースター航空も対日航空便を運行し(ソウル−高知,チャーター便),2011年にはソウル−東京間の定期路線を開設した。この2011年にはジンエアー(大韓航空系,ソウル−札幌)やティーウェイ航空(ソウル−福岡)の日本路線開設もみられた。エアソウル(アシアナ航空系)は2016年度にソウル−高松,静岡,長崎,広島,米子,富山,宇部などの路線を開設した。これらによって2018年までにLCCを含めて,対日航空路線は総27都市・50路線にまで拡大したのであった。</p><p></p><p><u>4.対日航空路線の就航パターン</u></p><p></p><p>韓国航空会社による対日航空路線の開設状況は,時代とともに変化してきた。就航都市のパターンをみていくと,1980年代までは,ソウル発着路線は日本の大都市(大阪,東京,名古屋),広域中心都市(福岡,札幌),地方都市(熊本,新潟,長崎)に就航していた。一方で釜山発着路線は日本の大都市(大阪,東京,名古屋),広域中心都市(福岡)に就航していた。1981年に対日路線が開設された済州は大都市(大阪,名古屋)のみに就航していた。これら3都市のいずれも最初の就航先は大阪であった。対日路線の増加した1990年代をみると,その前半は,ソウルと広域中心都市(仙台,広島),地方都市(6か所)間,済州と広域中心都市(福岡,仙台)間の路線が新設され拡大した。後半は,韓国の地方都市(大邱,広州,清州)と大阪とを結ぶ路線の開設がみられた。また,ソウル発着路線は日本の20都市にまで拡大した。</p><p>2000年代は,FSCによる韓国地方空港からのチャーター便での地方都市(長崎,宮崎,松山,高知,徳島,宇部,富山,出雲,鳥取,米子,秋田,青森など)への就航が相次いだ。2008年からはLCCの進出が著しくなり,両国間の航空自由化とも連動し,対日航空路線はいっそうの拡大をみせた。韓国地方都市と日本の大都市や広域中心都市との結合(便数)の増強とともに,日本地方都市との定期路線も拡大した。これらは,両国の地方空港の国際化を支えるものともなった。2015年以降からは,既設路線への新規航空会社の参入など航空便の量的拡大が顕著になった。しかし,2019年7月以降,日韓の政治的関係の悪化により, LCCの地方都市間路線をはじめ,対日航空路線は急激に縮小した。</p>