著者
鈴木 雅登 安川 智之 珠玖 仁 末永 智一
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1189-1195, 2005-12-05
被引用文献数
2 10

微生物の膜損傷に起因した生死状態に基づき分離が可能なチップデバイスを作製した.微生物に作用する誘電泳動力の差を利用し, 生菌の捕捉(そく)と膜損傷を与えた菌の排出を行った.微生物分離チップは凹凸を有するバンドを配列させたcastellated型の透明電極(ITO)基板, 直線流路パターン(幅2mm, 長さ35mm)を有したシリコンスペーサ, 入口と出口を備えたアクリル板から構成されている.無処理の大腸菌と熱処理した大腸菌をLive/Dead蛍光染色し, 200mMスクロース水溶液中に混合させた.大腸菌を流量440μm/sでチップへ導入し, 挙動を蛍光顕微鏡で観察した.ITO基板に正弦波(100kHz, 20 Vpeak-peak)を印加すると, 大腸菌に正の誘電泳動が作用し電極間に捕捉された.周波数を7MHzに切り替えると, 死んでいる大腸菌への正の誘電泳動力が弱まり, 電極から解放されチップから排出された.このチップを利用すると簡便で迅速な大腸菌の生死分離ができる.
著者
安川 智之
出版者
兵庫県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ネガティブ誘電泳動を利用して様々な細胞のラインパターニングを行った.マウス繊維芽細胞(3T3swiss albino),マウス筋芽細胞(C2C12),ヒト白血病Tリンパ腫細胞(Jurkat),ヒト単球性白血病細胞(THP-1)および神経モデル細胞であるラット褐色細胞腫(PC-12)のパターニングが可能であった.この中で, 3T3およびC2C12細胞について詳細に誘電泳動特性を評価した.印加する交流電圧を変化させ交差周波数の溶媒導電率依存性を調査した.溶媒の導電率を増加させると交差周波数が増加することがわかった.これらの細胞の培地の導電率(2 S/m)の場合には計測に要する全ての周波数領域にてネガティブ誘電泳動が作用することがわかった.溶媒導電率の増加に伴い,パターニングに要する時間も増加した.しかし,パターニングに要する時間は最大で1-2分程度で,十分迅速性を保てた.また,印加電圧に対するパターン形成率および細胞の生存率を調べた.印加電圧の増加に伴い,パターン形成率も増加した.しかし,生存率は,12 Vp-pが最大でそれ以上の電圧を印加すると強い電場ストレスにより細胞が増殖できず死滅することがわかった.最適電圧(12 vp-p)を3-5分間程度印加し続けると細胞は,基板上に付着して配列パターンを保持したまま固定化された.この配列化微粒子上で細胞を培養すると細胞は配列化微粒子上に選択的に付着し成長した.また,直接固体基板上に配列化された細胞のほとんどが,増殖,伸展し,約1日後にはランダムな状態の戻った.このことから,誘電泳動による電場の印加が細胞のバイアビリティーにほとんど影響を及ぼさないことがわかった.4極独立型マイクロバンドアレイ電極を用いると,迅速で簡便な異種細胞の交互ラインパターンの構築が可能であった.ポジティブ誘電泳動を利用し,微粒子や細胞の海島状構造を作製することができた.