著者
藤木 大介
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、ニホンジカの高密度化に伴う森林下層植生の衰退がツキノワグマ(以下、クマ)の採餌生態や人里への出没に及ぼす影響を解明することを目的とする。調査地域は北近畿西部個体群の分布域である丹後山系とする。定期的に山系を踏査し、クマの糞塊を収集する。そのうえで内容物の組成やその季節変化について把握するとともに、下層植生が衰退してない地域との食性の相違を明らかにする。また、兵庫県域スケールで収集されている森林下層植生の衰退状況とクマの出没情報の長期モニタリング・データを関係解析することで、クマの出没情報の時空間的な変動が下層植生の衰退とどのような地理的関連性があるかを明らかにする。
著者
玉木 敦子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所紀要 (ISSN:18816592)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.37-56, 2007-03-15

出産は女性や家族にとって喜ばしい出来事である一方で、周産期に何らかの精神健康上の問題により苦悩する女性が少なくないことも知られている。特に産後うつ病の罹患率は約13%と高く、また母親の精神状態は、児の発達などにも影響すると報告されている。しかし、わが国では、産後の精神健康状態やソーシャルサポートの実態について十分に明らかにされておらず、支援体制づくりは轍の課題とされている。そこで今回、産後の女性の抑うつ症状を中心とした精神状態とソーシャルサポートの実態およびそれらの関係を明らかにすることを目的として質問紙調査を行った。A県内3市で実施された4ヶ月乳児健康診査に訪れた母親で、研究協力に応じた女性582名に質問紙を配布し、後日郵送にて329名(回収率56.5%)から回答を得た。質問内容は、背景因子、精神健康状態、非専門的・専門的サポートの実態であった。得られたデータについて、SPSSを用いて統計的に分析した。結果は以下の通りである。1) EPDS (Edinburgh postnatal Depression Scale)の平均値は5.19(SD4.40)で、産後うつ病のスクリーニングにおける区分点(8/9点)以上だった者は全体の18.5%(61名)であった。2)パートナーや親などの非専門家からのサポート状況については、様々なサポートを得、それに満足を感じているる者が多い一方で、自分からは全くあるいはあまり支援を求めないという者が47名(14.4%)いた。3)産後に何かの心身の不調を自覚した者は120名(36.5%)で、そのうち専門家・専門機関に相談した者は38名であった。4)EPDS得点に有意な影響力を持つ要因は、自尊感情得点、母親役割に対する自己評価得点、パートナーからサポートに対する満足度、年齢、女性の身体的健康度、子どもの健康状態、義理の親からの「親に話を聞く」サポート、休息のなさに対するストレス認知であった。以上から、周期メンタルヘルスに関する今後の課題や看護の役割として、パートナーや親への教育的関わり、健診を利用した母親への精神的ケア、女性が必要とするときに適切な専門的サポートが受けられるようにすることの必要性について検討した。
著者
井上 寛康 戸堂 康之 藤原 義久 伊藤 伸泰
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

災害などのショックでは連鎖的な破綻など複雑な現象により被害が深刻化するが、従来研究のモデルではこのような過程を検証できない。複雑な現象の原因は企業をとりまくネットワークにあり、実際のネットワークデータなしで現実の現象を把握するのは困難である。そこで、大規模で網羅的なサプライチェーンデータを元に企業の生産活動をモデル化し、富岳コンピュータを用いたシミュレーションにより、災害や感染症対策が経営・経済に与える影響の精細かつ柔軟な推計を行う。本研究では160万を超える企業のサプライチェーンと600万を超える事業所のデータと富岳コンピュータを用いる。
著者
岩國 亜紀子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

つわりを持つ妊婦11名に、1日1回7日間、副交感神経機能を亢進させる足部マッサージと腹式呼吸(以下、本介入)を行った。本介入実施前後にVAS(Visual Analogue Scale)を用いて嘔気程度を測定した結果、全介入期間において6.2~12.8(9.3±2.7)の減少が見られた。加えて、リラックスや、体内の空気や血流の改善を感じて嘔気の軽減が見られたと捉えた妊婦は7名(63.6%)であった。これらより、本介入実施後に嘔気が軽減したことが明らかとなった。また、本介入実施後に収縮期血圧及び/又は脈拍数が低下したものは全実施回数72回の内、58回(80.6%)であった。加えて、副交感神経機能の亢進に伴う変化は10名(91.0%)より述べられており、足先・手・全身の温かさや、それに伴う足の冷えや全身の寒さの軽減、「気持ちがほどける、気持ちのよさ」など精神的落ち着き等が感じられていた。これらより、本介入によって副交感神経が亢進したことが推察された。本研究の妊婦には、交感神経機能が亢進していることが推察された妊婦と、両自律神経機能が亢進していることが推察された妊婦の2パターンが見られたものの、両自律神経機能が亢進した妊婦は少なく、パターンによって本介入の反応に違いは見られなかった。しかし、妊婦に見られるつわり症状には自律神経機能が大きく関与しており、妊婦の自律神経機能を査定することはつわり及びその効果的な対処法を解明する上で重要である。今後は、心拍RR間隔変動、尿中ノルアドレナリン濃度など客観的評価指標を用いて適切に自律神経機能の評価を行い、パターン査定項目の洗練及び本介入の反応の違いを明らかにする必要があると考える。
著者
松村 浩貴
出版者
兵庫県立大学
雑誌
人文論集 (ISSN:04541081)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.25-37, 2010-03-29
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
兵庫県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

都市におけるサブカルチャーのアイコンの存在形態は、さまざまな実施主体による複合的なメディア展開を見せており、それが地域の集客力を向上させ、市民へのサブカルチャーの物語の受容を促すことにより、地域の歴史や風土・伝統に触れる機会を増幅するメディアとして文化的な役割を担い、都市空間におけるモニュメントとしての特質を獲得していることが明らかになった。フィクションとしてのサブカルチャーの物語の受容者は、現実世界をそのフィクショナルな物語に沿う形で読み替えてとらえるようになっており、さらには、フィクショナルな物語に沿う形に現実世界の方が書き換えられているという実態も明らかになった。
著者
小野原 教子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

現代の日本において「服」というとき、それは「洋服」を指すのが自然である。日本人の身体を表現するのにふさわしい、民族衣装ともいえる「和服」は、もはやナショナリティを表現するだけに留まらず、そのナショナリティを「遊ぶ」メディアとなっているのではないか。高度情報社会でもある現代資本主義社会においては、身体は社会のなかで衣服という情報を介して行き交い、コミュニケーションを行っている。つまり、衣服を着るという行為は、創造的表現行為の場であったとしても、それは同時に消費され情報化されるファッションというシステムと身体の戦いの場でもあるのだ。現代日本における「着物」(和服)は、伝統や過去を示すその位置づけが雑誌などを中心としたファッション業界で死守されることで、ひとつのコスチューム・プレイのようにも着用される衣装スタイルになっている。それはモチーフとしての「日本」であり、外国人の目で眺めた着物の表現ともいえる。新しい「着物」の着用ともいえる、本来のデザインの解体や素材の変革、また洋服とのコンビネーションなども、新しさや珍しさとをもったひとつのスタイルとして、ファッションというシステムにひとつの語彙として回収されていく。これは、現代日本のファッションにおいてポピュラーな、古典的な英国スタイルを再解釈した「ゴシックロリータスタイル」にも窺うことのできる現象である。そのスタイル「ゴスロリ」(通称)は、18世紀や19世紀のイギリスのファッションを、衣装だけでなく文化や芸術なども学習しながら、その「イギリスらしい」デザインをまったく新しい日本のファッションスタイルへと変形してしまう。(イギリスというナショナリティについては、15年度にすでに論じた)試合の勝敗に加えて、その衣装で観客を魅了できるかどうかが、レスラーの身体表現にとっては死活問題であり、機能や合理さえファッション化/記号化を免れ得ないことを女子レスラーの衣装分析でも明らかにした(16年度)。身体とは、衣服を通して表現される幾つもののアイデンティティの集合体である。本研究の成果として「ナショナリティ」というアイデンティティが、現代日本のファッション現象を読み解くうえで重要な鍵概念であることが示された。
著者
サンワル マーク R
出版者
兵庫県立大学
雑誌
兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所紀要 (ISSN:18816592)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.17-35, 2007-03-15

アルバート・J・ノック(1870?-1944)は、20世紀初めのリバタリアンの思想と主張の際立った代表者であった。ルードビッヒ・フォン・ミーゼス、マレー・N・ロートバード、アイン・ランドなどの後続の思想に影響を与えたリバタリアンの運動は、今日においてさえ、先駆的な自由の唱道者と評論家としてノックに懐古的な賛辞を送っている。本論文は、ノックがまさに輝かしい作家・ジャーナリストなのか、それ以上の者なのか、またどの程度までそう考えられるかを探求するものである。ノックはどの程度まで社会科学者と考えられるか?この問いは恐らく、少なくともノック自身を困らせることはかったかも知れないが、しかし、現代リバタリアン理論の光りに照らしてこれを浮かび上がらせることは重要である。リバタリアニズムは、自由で公正な社会がいかなる形の強制と両立できないものであることを主張する政治哲学である。ほとんどすべての政治思想家は私的な強制(例えば殺人、窃盗)は犯罪であると見なすけれども、リバタリアンは、公の(とくに国家の)機関への強制力の行使にもまた禁止すべきものと拡張しようとした。現代のリバタリアニズムには、過激主義とプラグマティズム、左翼と右翼、アナーキズムとミナーキズムなどという、ある程度の混乱があり、ある論者たちはその混乱を純粋な形では力の浪費と考えた。ノックは、現代の理論家たちが主張しなければならないことよりも優れた、主張しなければならない何かを今なおもっているか?もしもヒューマニズムが、アービング・バビットによって広い意味で定義されたものと考えられるとすれば、確かに、ノックが今なおリバタリアンのうち最もヒューマニスティックであるということは、安全な主張である。しかしながら、このヒューマニズムゆえにこそ、しばしば社会科学のうち最も厳格であると見なされる経済学者は言うまでもなく、ノックを社会科学者と考えることから排除するように見えるであろう。ノックを経済学者と見るためには、われわれは、経済学が人間科学の一分科になるようなやり方で人間の知識を再組織しなければならないであろう。これは、経済学派のうち最も実証的でないと知られるオーストリー学派のほとんどでさえ妨げるようなステップである。この問題は、オーストリー学派が、実証主義を妨げる一方、論理的カテゴリーを注意深く構築することを進行するのに注意深いということではない。というのは、確かにノックと一致する手続きであるから。むしろ、ノックの討論法とオーストリー学派の演繹法との違いの要点が、後者(オーストリー学派)が心理学と人間行動理論から厳密に離れたことにある。「反心理主義」という基準で考える場合、ノックの論文は非科学的であるかのように見える。しかしながら、まさにこの反心理主義は、人間行動の純粋理論における市場過程に基づくことと同様に重要であるが、一般的な社会学の基礎として経済学を悪くするのである。もしもリバタリアン理論に必要なものが、「市場が機能する」という陳腐な言葉をくどくど言うことよりもむしろ、一般的な社会学であるとするならば、アルバート・J・ノックの大きなスタイルの社会理論への復帰こそが、理にかなうものものであろう。
著者
石倉 和佳
出版者
兵庫県立大学
雑誌
兵庫県立大学環境人間学部研究報告 (ISSN:13498592)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.145-154, 2007-02-28

The aim of this paper is to make clear the characteristics of the culture of science during the Romantic period in England. First, the paper examines the widely accepted idea of 'the two cultures' and Kuhn's 'paradigm' regarding the complexity of the scientific climate in the Romantic age. Next, it deals with Humphry Davy's research in chemistry and Coleridge's relevant scientific speculation. Considering the fact that the phlogiston hypothesis was accepted in the eighteenth and the early nineteenth century, it is made evident that the Romantic age was a time when certain paradigms were being changed into different ones, particularly in the field of chemistry. Davy's hypothetical proposition regarding "some unknown bases" of matter, derived from his experiment conducted by electrolysis, highlights a worldview in which power in matter is fundamental to the understanding of the universe. Stimulated by Davy's research, Coleridge speculated on the relevance of modern chemistry to the writings of Jacob Bohme, a German mystic. Some of these scientific speculations could have been developed into another scientific school of thought, while others appeared to remain inappropriate to the standards of the paradigm. Nevertheless, it is possible to think that in the age of Romanticism the pursuit of science could involve everything concerned with human knowledge and life, and the testing of various ideas to reveal the potentiality of forming another frame of thought.