著者
安村 克己
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.366-377, 1996-12-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本稿の目的は, 観光の社会学関連文献をレヴューしながら観光社会学の対象領域を俯瞰し, 観光社会学の学問的意義を再考することにある。現代観光の影響は, 個人の行為レベルから世界システムのレベルに至るまで広範囲に及び, 多様かつ多大である。したがって, 観光はいまや社会学者にとって看過できない社会現象であるが, それに対する社会学の取組みはほとんどなされていない。とりわけ日本の社会学者は, 観光研究に無関心であるようだ。こうした観光社会学の現状を勘案し, 本稿は, 観光社会学の現代的意義を検討していく。観光社会学の成果にはすでに注目すべき業績も見られるが, それらの成果を体系的に整理する作業は, いまだなされていない。本稿では, 観光社会学の対象領域を明確にするために, 社会学的空間レベルの4つの区分- (1) 行為者, (2) 社会的相互作用, (3) 社会システム, (4) 世界システム-に対応させて, 観光社会学関連の既存の経験的研究結果を4つの対象領域タイプ- (1) 観光者類型, (2) 観光のホスト-ゲスト関係, (3) 社会的・文化的インパクト, (4) 国際観光とマスツーリズムに分類する。この準拠枠に従って, 観光社会学の射程となる対象領域を概観し, その学問的意義を吟味していきたい。
著者
安村 克己
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.449-463,492*-491, 1988-03-31

本稿は、社会現象の科学的認識に、社会学理論の構成が急務であるという問題意識から、社会学的認識の科学基礎論を検討する。考察にあたっては、社会学史において伝統的な自然主義-反自然主義の哲学的論争には触れず、理想的な科学基礎論として、カッシーラーの精密科学認識論を提示する。さらに、その認識論と、社会学的認識固有の問題を探究したヴェーバーの社会学認識論とを比較.検討することによって、社会学理論構成の哲学的基礎をより明瞭にしてみたい。<BR>カッシーラーとヴェーバーは、伝統的自然科学認識論に対して、概念論と「法則性」概念の観点から、その難点を同様に指摘する。さらに、カッシーラーの精密科学認識論とヴェーバーの社会学認識論には、共通の認識論的特徴として、 (1) 認識における主観的思惟介在の前提、 (2) 科学概念の概念形成論、 (3) 法則と理念型の認識論的特徴、といった点が見られる。ヴェーバー社会学は、社会現象固有の属性ゆえに「自由な創意」に制約を課し、却って社会学的認識の科学的真理を放棄した。しかし、ヴェーバーの提起する社会学的対象の属性に関する問題には、科学的認識が可能であり、それは、カッシーラーの科学基礎論に基づいてはじめて達成されると考えられる。本稿は、カッシーラー哲学が社会学理論構成の哲学的基礎を考察するさいの指針となることを結論とする。