著者
安村 克己
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.449-463,492*-491, 1988-03-31

本稿は、社会現象の科学的認識に、社会学理論の構成が急務であるという問題意識から、社会学的認識の科学基礎論を検討する。考察にあたっては、社会学史において伝統的な自然主義-反自然主義の哲学的論争には触れず、理想的な科学基礎論として、カッシーラーの精密科学認識論を提示する。さらに、その認識論と、社会学的認識固有の問題を探究したヴェーバーの社会学認識論とを比較.検討することによって、社会学理論構成の哲学的基礎をより明瞭にしてみたい。<BR>カッシーラーとヴェーバーは、伝統的自然科学認識論に対して、概念論と「法則性」概念の観点から、その難点を同様に指摘する。さらに、カッシーラーの精密科学認識論とヴェーバーの社会学認識論には、共通の認識論的特徴として、 (1) 認識における主観的思惟介在の前提、 (2) 科学概念の概念形成論、 (3) 法則と理念型の認識論的特徴、といった点が見られる。ヴェーバー社会学は、社会現象固有の属性ゆえに「自由な創意」に制約を課し、却って社会学的認識の科学的真理を放棄した。しかし、ヴェーバーの提起する社会学的対象の属性に関する問題には、科学的認識が可能であり、それは、カッシーラーの科学基礎論に基づいてはじめて達成されると考えられる。本稿は、カッシーラー哲学が社会学理論構成の哲学的基礎を考察するさいの指針となることを結論とする。

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