著者
中元 剛 角玄 一郎 安田 勝彦 堀越 順彦 神崎 秀陽
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.82-86, 2007

今回,われわれは診断に苦慮した巨大筋腫分娩の1例を経験したので,臨床経過,文献的考察を加えて報告する.症例は37歳,未婚,経妊0回経産0回.2ヵ月前ごろより腟内に異物感を認めるも放置しており,1週間前より38.5℃前後の発熱を認め,腟口より腫瘤の脱出を認めたため近医受診し,同日精査加療目的にて,当科搬送入院となった.初診時視診にて腟口より約2cm程度の変性をともなった腫瘤の脱出を認め,腟内は腫瘤のため緊満状態で,腫瘤と腟壁の間からは淡血性の膿が約200ml排出された.末梢血検査にてWBC10500/&mu;l(好中球分画84.5%),Hb7.1g/dl,生化学検査にてCRP12.29mg/dlと強い炎症と貧血を認めた.腫瘍マーカー値は,SCCが2.1ng/mlと軽度高値を認めた.画像所見は,経腹超音波検査およびmagnetic resonance imaging (MRI)検査にて腟外から続く巨大腫瘤を認め,その頭側に子宮体部様の像を認めた.子宮と腫瘤の関連については不明であった.入院翌日に,腫瘤が約6cm脱出し,Hb5.9g/dlと貧血の悪化を認めた.入院3日目,計4日間排便がないためグリセリン浣腸120mlを使用したところ排便,出血とともに巨大腫瘤が完全脱出した.その際Hb5.6g/dl,Ht19.0%と貧血がさらに悪化したためMAP3単位を輸血しつつ,巨大腫瘤は変性した筋腫分娩であるとの診断に至り,内子宮口部付近にて腫瘍を結紮のうえ切除術を施行した.摘出腫瘤は組織診にて変性した子宮筋腫であり,筋腫分娩の確定診断となった.術後,炎症と貧血はまもなく回復し,術前軽度高値であったSCCは正常範囲となった.術後2ヵ月後のMRI検査にて大きな子宮筋腫は認めず,正常な位置に子宮を認め,月経の異常も認めず外来定期検診を受けている.〔産婦の進歩59(2):82-86,2007(平成19年5月)〕<br>
著者
岡野 友美 角 玄一郎 梶本 めぐみ 吉村 智雄 杉本 久秀 髙畑 暁 安田 勝彦
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.119-125, 2017

<p>漢方薬は西洋薬に比べて胎児への影響が少ないと考えられ,妊娠時にしばしば投与される.胎児への影響に関しては漢方薬の胎児への移行の有無や程度を理解しなければならない.しかし,漢方薬の胎児移行についてはわれわれの調べた範囲ではこれまでに報告がない.今回,初めて漢方薬由来成分の胎児移行を確認したので症例の臨床経過を文献的考察も含めて報告する.症例は35歳の初産婦,妊娠39週6日で女児3222gを自然分娩した.妊娠前からうつ,てんかん,橋本病があり,妊娠21週3日から分娩まで抑肝散,リスぺリドン,レボチロキシンの3種薬剤を継続服用していた.分娩後に当院で基本検査として実施している臍帯血検査でCRPは正常範囲内にもかかわらず,白血球増多症(26000/µl),好中球増多症(18070/µl),高コルチゾール血症(269 ng/ml)がみられた.しかし,無治療で分娩119時間後(出生5日目)には白血球,好中球,コルチゾールは全て正常化した.漢方薬の甘草由来成分のグリチルレチン酸による白血球増多症,好中球増多症ならびに高コルチゾール血症が疑われたため,検査機関に依頼したところ,液体クロマトグラフィー・マス・マススぺクトロメトリー法にて,臍帯血中にグリチルレチン酸が検出された.漢方薬を服用していない母親から生まれた児の臍帯血3例を対照として検査したところ,3例ともグリチルレチン酸は検出されなかった.また,本症例の血中グリチルレチン酸は分娩119時間後には検出されなかった.これらのことから,グリチルレチン酸が白血球増多症,好中球増多症,高コルチゾール血症に関与した可能性が示唆された.〔産婦の進歩69(2):119-125,2017(平成29年5月)〕</p>
著者
安田 勝彦 石塚 修悟 石原 義恕 林 正春 西川 仁 磯 毅彦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.169-175, 2009-06-30 (Released:2014-11-11)
参考文献数
13

関節リウマチ (RA) は, 関節周囲の滑膜を病変の主座とする原因不明の炎症性疾患である. この滑膜での炎症が進行すると, 軟骨, 骨の破壊が進行し, やがて, 日常生活動作 (ADL) や生活の質 (QOL) が低下してくることが問題になってくる. 近年, 関節破壊が, RA発症後2年以内に引き起こされることがわかり, 発症早期の適切な時期 (window of opportunity) に, 適切な治療を開始すれば, 関節破壊は防げることがわかってきた. したがって, 現在のRA患者の治療は, 関節の軟骨や骨の破壊がおよぶ前に, 抗リウマチ薬を中心とした薬物療法をできるだけ早期から開始し, それと同時に早期からリハビリテーション (リハ) を併用することによりADL/QOLの低下を防ぐことが重要である. RAの薬物治療は, 大きな進歩をとげ, 特に生物学的製剤の開発によって, RAの疾患活動性のいちじるしい改善, 特に骨の破壊の進行が抑えられることが可能となってきた. しかし, その一方で, 感染症をはじめ, 重大な有害事象が問題になっており, 早期のRAや難治性のRAへの投与の時期や適応もまだ多くの問題点をかかえている. よって, 薬物療法だけでは, なかなかRA患者のADL/QOLを維持することは困難である. また, アメリカリウマチ学会 (ACR) における2002年RA治療ガイドラインの中にも, 薬物療法以外に, 理学療法 (physical therapy ; PT), 作業療法 (occupational therapy ; OT), 患者教育が含まれている. 以上のことから, RAの治療において, 薬物療法と並行して, 早期からリハを開始することが, RAの滑膜炎から引き起こされる関節疼痛, 関節変形, 筋力低下等を改善し, 予防する上で, 大変重要なことと思われる.