- 著者
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森岡 祐貴
安田 寛二
上村 治
中島 務
- 出版者
- 日本重症心身障害学会
- 雑誌
- 日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.2, pp.308, 2018 (Released:2021-01-21)
症例
40代女性。出生時異常なし。6か月から発語が遅く、発育の遅れを感じていた。30代になりパーキンソンニズムが出現。2015年WDR45の異常を認め、βプロペラタンパク関連神経変性症(以下、BPAN)と診断された。家族内には同疾患発生を認めない。
入所時所見
発語なく意思疎通は不可能。嬉しいときには笑顔を見せることあり。音がする方向へ視線を向ける。2015年まで1−2mの手引き歩行が可能であったが、肺炎で入院したのを機に歩行困難となり、寝返りをうつことが不可能な状態。胃瘻造設あり。食事は経腸栄養。前医よりレボドパ、ロチゴチンが処方されていた。
経過
2016年7月当センターに入所。ロチゴチンを増量し、レボドパは継続投与していた。2017年2月両側気胸のため、近医救急病院へ搬送。転院先ですべての薬剤を打ち切られ22日後、再入所。再入所後49日、表情が硬いため、レボドパ再開。6月血中亜鉛濃度の低下を認め、 酢酸亜鉛水和物を投与したところ、表情が穏やかとなった。11月にレボドパを中止しているが症状の悪化を認めない。その後DHA、グルタチオンをサプリメントで摂取し、表情豊かで眼球運動がスムーズになった。
結論
BPANはWDR45の異常により進行性ジストニア、パーキンソンニズム、認知障害を呈する神経変性疾患である。根本的な治療薬はなく、パーキンソンニズムに対して、パーキンソン病治療薬が投与される。パーキンソン病治療薬はハネムーン期間を過ぎると増量をしなければならず、長期服用によりwearing off現象、ジスキネジア、精神症状などを起こすことが知られている。BPANは小児期から20代に発症することが多く、服用期間は長期間になる。脳内での鉄代謝異常のメカニズムは解明されていないものの、神経変性症に対して亜鉛治療や8−OH−quinolineを基にした除鉄剤が開発されつつある。BPANのように患者数が少ない病気は治療薬の開発が難しいが、オーソモレキュラー的アプローチにより症状の緩和、改善への寄与が期待される。