著者
小田 正人 宝川 靖和
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.457-461, 2011 (Released:2011-11-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

埼玉県富士見市に,無施肥栽培を継続し,地上部作物残渣を全て持ち出しながら標準的な出荷量を実現している圃場がある.圃場の土質は典型的な関東ロームで,作土pHは5.5,NO3—Nは検出域以下,可給態Pは17 mg L-1(一般圃場並),Kは検出域以下であった.この圃場で栽培されるトマトの吸収窒素の由来を,その安定同位体自然存在比(δ15N 値)を使って推定することを試みた.無施肥栽培の対照とした隣接慣行栽培圃場は年一作で,化成肥料(100 g N m-2),堆肥(45 g N m-2)が全量元肥で施用されており, 肥料のδ15N値は各々—1.7,+9.3‰であった.土壌のδ15N値は,無施肥栽培が上層(0—20 cm)で+7.1‰,下層(20—35 cm)で+7.2‰,慣行栽培が上層で+8.9‰,下層で+7.5‰であったのに対し,トマト葉身のそれは,無施肥栽培(+3.2±0.4‰),慣行栽培(+3.0±1.0‰)ともに+3‰程度と,いずれも土壌と比較して低い値であった.慣行圃場ではこれをδ15N値の低い化学肥料の吸収による希釈として説明できるが,無施肥圃場では人為的投入物はなく,またδ15N値の相対的に高い土壌窒素の吸収からも説明できない.この無施肥栽培圃場で得られた結果は,大気窒素の固定など,相対的にδ15N値の低い窒素の流入が系外から相当量あった可能性を示唆しており,本圃場ではそれにより標準的な出荷量が実現している可能性がある.