著者
室田 辰雄
出版者
佛教大学大学院
雑誌
仏教大学大学院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
no.35, pp.61-74, 2007-03

今回主題とする「文肝抄」は鎌倉後期に官人陰陽師の賀茂在材が編纂したとされる賀茂家陰陽道祭祀の次第書である。陰陽道祭祀に関しての研究は、従来、古記録や史書、道教経典、密教の儀軌書からの分析が大半であり、今まで明らかでなかった陰陽道側の言説を確認できる貴重な資料である。「文肝抄」の次第において特徴として挙げられるのは、院政期から鎌倉期の祭祀が見られる点と、地域社会との交渉であると思われる。その中でも、民俗社会における関連が見える「荒神祓」に関する分析を進める。結果、密教から荒神祓を取り込み、鎌倉中期の官人陰陽師賀茂在清が陰陽道儀礼に改編した。また、「文肝抄」における荒神は祓い清める対象であり、呪歌を詠むなど民俗社会への影響がみえる点もあった。また「文肝抄」?荒神祓?の影響を考察するために、中世末期成立安倍泰嗣編の「祭文部類」「荒神之祭文」を分析し、比較対象とした。結果、祓儀礼であった荒神祓は、荒神祭として祭られる対象となった。ただし、祭文の内容は祓の影響を受けている箇所もあり、祓から祭祀への移行した形跡を残している内容であった。「文肝抄」荒神祓賀茂家
著者
室田 辰雄
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.155-163, 2008-03-01

陰陽道において、儀礼や天文・暦といった知識の保証されたものは、本書、本条とよばれる典拠であった。それは時代を経るごとに増え、新たな禁忌や儀礼の典拠とされた。sの中でも鎌倉前期成立の安倍家の陰陽書『陰陽道旧記抄』には二種の神話が収録されている。一つは院政期の歌論書などに散見される「日本記」である。中世において読み替えられた「日本記」が伊勢神道や密教のみならず、陰陽道にも取り入れられ、祓の起源として説かれていることが本書の「日本記」の特徴であった。もう一方の仏典散見される「須弥四域経」は、「日本書記」ではないものの、「日本記」のバリエーションとして諸宗教に読み替えられていた言説であった。本書においても天体の起源を語る為に典拠とされていた。これらの事は陰陽道の典拠に「中世日本紀」を含むことが可能であることを示している。