著者
新井 陽介
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.71-86, 2016-03-01

谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』は2003年に出版されて以降、ユリイカ(平成23年43巻7号)で特集が組まれたり、静岡大学の『情報学研究』紙上シンポジウムで取り上げられたりと様々な批評、評価がなされてきた。その中で、主人公であるキョンの独特の一人称が特徴である、という評価がある。全ては大きな視点で考えれば、一人称の一部であると考えられるが、彼の立ち位置は多岐にわたり、原点である物語の登場人物としてのキョン、「読者」の視点に立つキョン、「ノベルゲーム」的な性質を持つキョン、物語世界の外部に存在し、時間的にも物語世界の外部に存在するキョンと、きわめて立体的な構造をなしているのである。一人称第四人称キャラクター萌え
著者
岩田(井上) 未来
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要 社会学研究科篇 (ISSN:18834000)
巻号頁・発行日
no.37, pp.37-54, 2009-03

トランスジェンダーについて,近年「性同一性障害」という診断名によって説明がなされるようになった。その治療は,「彼らは心と体の性別が食い違い,心の性を強制することは不可能なので,体の性を変えて男女どちらかに一致させる」というものである。しかし「トランスジェンダー」として自己表明する人々の語りを詳細に見ていけば,「女」と「男」の二元論では語り得ない人々の存在が明らかになる。トランスジェンダーは性別を移行するだけではなく,性別を乗り越え,否定し,無化し,撹乱する可能性を秘めている。性別が一貫した本質的なものとして捉えられる理由について,Sedgwickのホモソーシャル理論から解釈した。すなわち男性中心社会によって,性の自然性についての言説は支えられていると考えられる。故に「心にも性がある」とする主張もまた,男性中心社会の性別規範に則ったパフォーマンスである。トランスジェンダー性別二元論男性中心社会インタビュー
著者
堀岡 喜美子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.127-143, 2020-03-01

柳田國男が「巫女考」において巫女を「神社ミコ」と「口寄ミコ」に分類して以来、多くの先人によって膨大といえる巫女の研究が成されてきた。しかしながら「「巫女」とは何か」についての論究は乏しく、神話世界の女神なども「巫女」とみなし、現実社会に生きた巫女の本質を曖昧にしてしまう傾向が見られる。史料上、古代律令社会には「巫女」の語はほぼ認められず、十二世紀初頭より祭礼神幸記録に巫女が現出してくる。これらの記録を手掛かりに「巫女」の実像を探求した結果、「巫女」とは院政期において、宮廷神事の神社移行に伴い誕生した呪術的女性祭祀者であり、宮廷女性祭祀者である御巫の代理的存在である可能性を見出した。また、祭礼神幸における巫女の役割は呪術性と美麗な様相をもって、祭礼神幸が内包する民衆騒擾を抑制し、かつ、神幸のカタルシス役割を高めるものであったと考えられる。祭礼神幸巫女の現出宮廷祭祀御巫白河院
著者
筒井 大祐
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.197-212, 2018-03-01

本稿は、重要文化財である石清水八幡宮古文書の内、『八幡宮寺巡拝記』(桐之部 桐十一 ― 22)の翻刻である。なお、紙幅の都合で翻刻を前・後として分載し、本誌には、1丁表から30丁表まで掲載する。次号に30丁裏から52丁裏を掲載予定である。石清水八幡宮古文書『八幡宮寺巡拝記』
著者
石坂 誠
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-18, 2016-03-01

「日本の社会をより良い社会に変革するには、ソーシャルワークが社会運動の一環として、改めてマクロ的な視野を取り戻さない限りは不可能ではないのか?」上記の言葉は、訓覇法子が述べたものである。本研究では、構造的に拡大・深化する貧困に対して、社会福祉、ソーシャルワークがどう対峙するのか、そしてそのあり方について明らかにしていきたいと考えた。研究方法としては、先行研究や統計資料等からの貧困の現況の把握と2013年に筆者が行った反貧困運動団体や脱貧困に取り組むソーシャルワーカーへのインタビュー調査結果から得たストーリーラインの分析、そして貧困者支援のソーシャルワークに関する先行研究の検討等から行なった。そして、訓覇の言う「社会正義や人間性の回復という価値基盤・原点」にたったソーシャルワーク実践のためには、ソーシャル・アクションや社会運動との協働が重要であるという結論に至った。貧困社会正義マクロ的な視野ソーシャル・アクション社会運動
著者
竹森 美穂
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.47, pp.19-34, 2019-03-01

本稿は,近年の社会福祉に関する政策動向の中で,ソーシャルワークがマネジメントに矮小化される状況に対する危機感から,ソーシャルワーカーの現代的専門職像を考察することを意図したものである。専門職論の系譜を手掛かりに,自律性と管轄権が専門職の鍵概念であること,そしてこの二者は国家との関係性によって影響を受けるものであることを確認した。新自由主義政策の影響を受けた現代ソーシャルワークは本来の多様な機能が十分に発揮されず,マネジメントの比重が重くなっていることを指摘し,同じく現在の我が国の政策によって共助と公助の衰退の上に成り立つ地域共生社会の担い手としての「参加」を求められる人々と,ソーシャルワーカーの向き合い方を手掛かりに現代的なソーシャルワーカー像を考察した。 ソーシャルワーカーは,政策の意図する人々の「参加」を促すのではなく,共同主体的関係性の再構築に協働的志向で参画することが求められる。専門職像ソーシャルワーカー参加協働性共同主体的関係性
著者
北野 元生
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.115-131, 2016-03-01

西東三鬼の有名な俳句に「水枕ガバリと寒い海がある」がある。「ガバリ」は声喩語である。従来より、この句における「ガバリ」は水枕や水音など水にかかわる修飾語であると説明されてきた。しかし、「ガバリ」をこのような説明だけに任せておいてよいものかどうか、疑問は残る。そこで、歴史的にガバリという声喩語がいつ頃、どのような状況を説明するために成立したのかを検討することとした。その結果、この語「ガバリ」は中世の戦記物語に起源を有する、本来は水とは関係のない修飾語としての声喩語「カハ」を語根として、それから派生して発生してきたことが分かった。この「カハ」は時代を下るにしたがって、意味の変動を伴ったりあるいは伴わずに、その形態をいろいろ変えてきたようである。現在においても、「ガバリ」という語には、水にかかわりない確かなニュアンスが残存していると考えられるのである。ガバリ声喩語語根カハ歴史的変遷
著者
秋山 博志
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.83-100, 2017-03-01

表題にある中原尚雄とは、その言動が西郷隆盛暗殺という密命を帯びたものと見做され、西南戦争開戦のきっかけとなる人物であり、「西南戦争」や「西郷隆盛」を語るときには必ずと言っていいほどに登場する。中原は、西南戦争後に警視庁から高知県へ転出して警察署長となり、その後同県、山梨県、福岡県警部長を歴任することから、その官職が鹿児島での活動に対する褒賞であるとの説も巷間に存在する。本稿においては、中原の経歴を本人の辞令、官報、地誌、墓碑等から追跡し、その上で警部長の身分が褒賞に値するのかという点について、俸給や位階、官等の点から検証し、陸軍憲兵への転出の可能性があったことをも明らかにした。さらには、周辺の群像を洗い出すことにより、鹿児島県人が縁故を辿って立身出世していく、俗に「(薩摩の)芋蔓」と譬えられる人事システムにも着目し、中原の警部長就任との関わりについても併せて考察を行った。中原尚雄西南戦争西郷隆盛暗殺警部長憲兵
著者
千 恵蘭
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.53-68, 2017-03-01

障害者は社会生活上の様々な場面で差別の対象となっており,雇用は,その差別が最も発生しやすい場面である。国際社会は,障害を理由とする差別の排除に向けての取り組みを積極的に行っており,特に,ILOは1955年に「ILO99号勧告」を示し,保護雇用制度など障害者の労働を支援するための方策を明らかにしている。障害のある人の基本的人権を明らかにし,積極的に保障していくことへの必要性がより強くなり,2006年の国連総会では,「障害者の権利に関する条約」が採択された。本研究論文は,誰もが社会に参加できる「排除しない社会」「包摂する社会」の実現と障害者権利条約の「合理的配慮」の精神に基づく障害者の就労に関する社会的支援のあり方について取り組むことを課題としている。福祉的な支援と一般的な就労が同時に実現できる制度の確立に向けて,つまり,福祉と労働の融合をめざすことができる障害者雇用全般に関する具体的な場のあり方を示していく必要がある。障害者権利条約合理的配慮福祉と労働の融合社会的支援
著者
笹部 昌利
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.33-47, 1999-03-01

本稿は、薩長土以外の中小諸藩の個別分析が欠如するこれまで明治維新史研究に介在する問題点を明らかにするために、津山松平藩を析出し、同藩の幕末維新期の政治動向を明らかにしようとするものである。特に中央政局と地方(諸藩)の複雑な推移、対立、相互関係など多元的な政治過程のなかから、個別藩における中央への対応形態がどのように精選されていくのか、諸藩の政治運動が活発化する文久期(一八六一-一八六三)において、津山藩が諸藩の動向および攘夷問題に知何に対応していったのかを明らかにし、幕末期における藩の実像に迫る。津山藩攘夷諸藩の政治運動親兵八・一八政変
著者
石坂 誠
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.81-98, 2018-03-01

現在も貧困は拡大し,深刻化し続けている。それに対して貧困・社会的排除に対する制度・政策とソーシャルワークは機能しているとは言えない状況がある。例えば生活保護受給を窓口で制限する等,「制度からの排除」が日常化しており,制度を利用する権利の擁護等,権利擁護の実践がソーシャルワークに求められている。こうした状況の中,ソーシャルワークは貧困・社会的排除にどう対峙していくのか,貧困・社会的排除に対峙するためのソーシャルワークの理論や方法とは何かについて論じた。研究の方法は,先行研究の検討,生活保護をめぐる2つの事件の分析と筆者が行ったグループインタビューの分析から行った。 結論として,貧困・社会的排除に対峙するためのアセスメントの不足,不十分な権利擁護等が明らかになった。そしてソーシャルワークにおいては,ケアではなくコントロールへの偏重があり,反抑圧主義の実践が重要であることが明らかになった。制度からの排除社会的排除権利擁護反抑圧主義の実践
著者
谷口 勝紀
出版者
佛教大学大学院
雑誌
仏教大学大学院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
no.33, pp.33-48, 2005-03

『簠簋内伝』は「宣明暦」の注釈書として編纂され、中世における陰陽道の重要なテキストとされてきた。しかし、これまでその内容について深く論じられることはなく、巻一に牛頭天王縁起が収録されていることから、祗園社を中心とした牛頭天王信仰の側からの論考が主であった。そこで、本書が暦注の書であることからも、その暦注の部分に改めて注目し、『簠簋内伝』の牛頭天王縁起を祗園社の由来譚としてではなく、暦注の典拠として読み解いていき、そこからこれまで触れられる事のなかった『簠簋内伝』の宗教世界に迫っていきたい。陰陽道『簠簋内伝』牛頭天王暦注祗園社
著者
渡邊 浩史
出版者
佛教大学大学院
雑誌
仏教大学大学院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
no.31, pp.103-111, 2003-03

現在までこの「道化の華」の冒頭に用いられた「ここを過ぎて悲しみの市。」という一節は、ダンテの『神曲』からの引用であり、その翻訳としては、笠原伸生氏によっ提言された森鷗外訳『即興詩人』「神曲、吾友なる貴公子」の一節、「こゝすぎてうれへの市に」であると言われてきた。しかし、検討の結果、実はその翻訳は別にあるのではないか、という可能性が出てきた。小稿はその翻訳として、上田敏訳のテクストにあるものを一番大きな可能性とし、そこに書かれた「こゝすぎてかなしみの都へ」と「われすぎて愁の市へ」という訳稿を太宰が「道化の華」の冒頭に用いる際、一部改変し使用していたのだ、ということを提唱するものである。翻訳森鷗外上田敏ダンテ『神曲』
著者
大西 次郎
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会学研究科篇 (ISSN:18834000)
巻号頁・発行日
no.40, pp.1-17, 2012-03

遠からぬ死を悟った高齢者が,自らの死後の扱いを懸念し,そのことを言いたくて/言えないでいることは稀でない。彼(女)らの悩みはスピリチュアリティ,他者の中に残る自己,自然との合一といった側面に限らない。遺体がいかに処置され,誰が引き取り,いつ火葬を行い,埋葬や遺骨の管理はといった,葬儀とそれに付帯する事項が重要な位置を占めているのである。例えば葬儀は時間軸上死後でありながら,まだ見ぬ"あの世"とは違って,数日内に必発する予測可能な現世のできごとである。高齢者は葬儀を,自らの生の延長線上に見据えている。しかし,本人が亡くなってから発来する事象は当然のように生前のケアより外され,グリーフケアが適応されるのは専ら遺族である。この狭間に援助者は葬儀の捉え所を失い,高齢者の想いへ応えられなかったのではないか。葬送に関する話題をターミナルケアに携わる援助者が積極的に,高齢者本人へ向けて取り上げるべきだし,その行為は専門家だけに委ねられたものでない。葬儀終末期看取りグリーフターミナルケア
著者
髙橋 利博
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.1-18, 2020-03-01

本研究の目的は,岐阜市の繊維産業と高齢者の貧困を縫製加工業に従事してきた高齢者の実態から分析し,その要因を明らかにすることにある。戦後の岐阜市は,縫製加工業が基幹的産業として発達してきた。しかし,グローバル化や安価な製品の輸入により縫製加工業は衰退の危機にあり,これらの事業所に携わる高齢者の生活は,不安定な収入による貧困を伴う。『国民生活基礎調査』は高齢者の貧困層の広がりを示しており,岐阜市の生活保護世帯と国民保険料滞納世帯も増加している。これらの貧困層に対する社会保障が機能しておらず,逆に高い公的保険料が市民生活の困難性をもたらす。このように産業構造の転換と社会保障の後退が労働者層への貧困の要因を作っているが,求められるのは生活に困っている国民を救う社会保障の充実である。高齢者の貧困産業構造国民健康保険生活保護国家責任
著者
松田 尚子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.53-70, 2020-03-01

本研究では,介護現場における人手不足について,その要因と現在展開されている人材確保政策とを対比した上で,人手不足を改善するための方策について検討した。人手不足の根本的な要因は,介護労働の担い手として劣悪な労働条件でも確保し得る人材(女性,若年層,ボランティア等)を充ててきたことと,介護保険法の施行により付加された「営利性」が労働条件のさらなる悪化と介護労働の変容を招いたことにある。ところが,人材確保政策の主軸は「新たな担い手の創出」であり,さらには,介護労働者の労働条件と介護サービスの利便性とが天秤にかけられており,実態に即した対策とは言い難い状況にある。 介護保険制度は国民への介護保障の柱であり,人材確保はそのための手段に過ぎない。このことを踏まえ,まずは,労働環境の改善を図るとともに,それらとサービス利用とを完全に切り離し,「ケア」という一貫した概念を取り入れる必要がある。介護保険制度人手不足人材確保
著者
竹内 正興
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 教育学研究科篇 (ISSN:18833993)
巻号頁・発行日
no.44, pp.19-33, 2016-03-01

本研究は、進学校出身者が非進学校出身者と比べ、大学不本意入学となるリスクが高いことを明らかにし、不本意入学者を出さないための習熟度別クラス編成のあり方を提案することを目的とする。先行研究からの考察、ならびにアンケート調査による検証を試みた結果、進学校出身者は非進学校出身者と比べ、第一志望で大学に入学する割合が低く第二志望以下での入学になると不本意入学となりやすいのに対し、非進学校出身者は第二志望以下でも大学入学への本意度が高いメンタリティを持っていることが示唆された。調査結果と考察より、本稿では、進学校出身者は非進学校出身者と比べた場合、自己選抜機能が働きにくいと考えられる点を踏まえ、進学校でのバンディング型の習熟度別クラスの導入による学業的能力における自己概念の修正機能の強化が、高校での自己の評定を前提とした納得度の高い志望校の選定を促進し、大学進学に際しての不本意感の抑制に寄与できる可能性を指摘した。不本意入学進学校出身大学志望度評定
著者
加澤 昌人
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.93-110, 2020-03-01

米沢城本丸の上杉謙信を祀る御堂(みどう)は、藩政期をとおし藩の安泰を祈る場として崇敬された。明治時代になりその祭祀は仏式から神祭へと転換する。そして旧藩士の発願によりすべて民費によって上杉神社が建立される。明治維新後、職を求めるなどして米沢を離れた旧藩士は少なくない。本論では、彼らの新天地におけるこの神社に対する崇敬のかたちを、『米澤有爲會雑誌』の記事を中心にとらえていく。ひとつは屯田兵として北海道厚岸郡太田村に渡った人々による上杉神社の遥拝式と神社の建立、もうひとつは全国各地の米澤有爲會支部が上杉神社の祭典に合わせて行った遥拝式から明らかにしていく。そこには具体的にその崇敬のかたちが表現されている。米沢の上杉神社の建立に関わった後に米沢を離れた彼らが、遠隔の地に神社を建立し、あるいは遥拝した米沢の上杉神社への思いは、単なる望郷の念ではなかった。彼らの先祖代々から精神的な支えとして受け継がれてきた、謙信の義勇と鷹山の民政に対する強い崇敬の念によるものであった。上杉謙信上杉鷹山上杉神社太田村屯田兵米澤有爲會
著者
谷口 潤
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.111-126, 2020-03-01

『古事記』・『日本書紀』に見える草薙剣は、従来三種の神器のうちの一つとして、受け継ぐことで王権の正統性を保証する神璽の剣であるとされてきた。しかし神野志隆光によってそうした草薙剣の姿は『記』・『紀』には見られないことが明らにされ、『古語拾遺』がそうした言説を生み出したことが示された。本稿ではこれを受け、『古語拾遺』を編纂した斎部広成の側から『古語拾遺』の草薙剣を読み解き、『古語拾遺』の草薙剣をめぐる言説が、九世紀における天皇即位儀礼とどのように関わっていたのかを見ることで、草薙剣と神璽の剣の同一視が斎部氏の固有の祭祀実践によるものであったことを明らかにする。また、『古語拾遺』の神武天皇即位の場面に登場する殿祭の記述から、そうした斎部氏の実践が九世紀における即位儀礼の変化に対応するものであったことを示す。草薙剣『古語拾遺』斎部氏即位儀礼神璽
著者
山口 希世美
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.163-180, 2020-03-01

本論は、院政期天皇の乳母の役割の歴史的変化を論じる。そのためには、乳母が何を目的として任命されたかを明らかにし、任命された時期に注目する必要がある。その視野に立ち、第一章において天皇それぞれの乳母を考察する。その過程で明らかとなった天皇の乳母の定員化・官職化、及び、皇子の乳母から天皇の乳母への分断についてを第二章で論じる。それが顕著に表れる、乳母の交代や践祚後に任命される傾向として、特定の行事がきっかけとなっている。第三章では、乳母典侍が行うことが多い、八十島祭使、賀茂祭女使、即位時の褰帳命婦、立后時の理髪役について検討し、乳母典侍が行うことの意義を論じる。乳母典侍乳父八十島祭平安時代鎌倉時代