著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.267-277, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
11

患者は40歳代前半の女性。双極II型障害の大うつ病エピソードのため出勤できなくなり、やがて一人暮らしであるのに買い物に行くことさえもできず食欲も低下していったため任意入院となった。入院後約1カ月が経過してもベッドで横になったままの状態が続いていたため、薬物療法に加え行動活性化を施行した。機能分析に基づき、楽しみ、喜び、達成感が得られる活動や復職につながる活動を徐々に増やしていくことによって、大うつ病エピソードが寛解し復職が可能となった。行動活性化は行動パターンを変えることによってうつ病を改善していく技法であり、行動療法の一技法である。双極性障害に対する精神療法に関する研究は少ないが、双極性障害の大うつ病エピソードに対して、特に復職を目指している双極性障害の大うつ病エピソードの患者に対して行動活性化が有効であることが本症例により示唆された。
著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.33-45, 2021-01-31 (Released:2021-05-18)
参考文献数
13

症例は、強迫観念を主症状とする40歳代前半の男性強迫症患者。患者は初診時、悪い人間のオーラが襲ってくるというイメージが生じ、自分も悪い人間になってしまうのではないかという不安に圧倒され、仕事にも行けなくなっていた。無念無想の境地を思い出してもらうために行った剣道の素振りにより、強迫観念に対する望ましい対処の仕方を患者が体得し、imaginal exposure法を入院中集中的に行うことにより、強迫症状の改善に至った。これまで武道やスポーツで無念夢想の境地に入るような体験をしたことがある場合、再度その体験ができるような稽古や練習を行うことによって、強迫観念に対する望ましい対処の仕方を体得することは、強迫症の治療に寄与する可能性があると思われた。筆者なりの工夫を紹介するが、強迫症に対するimaginal exposure法などの行動療法を施行する際、本論文が参考資料になれれば望外の喜びである。
著者
宮崎 哲治 中川 彰子 青木 省三
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.57-66, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)

妊娠中の強迫性障害に対し、薬物療法は行わず曝露反応妨害法を中心とする行動療法のみで奏効した患者を経験したので、若干の考察を加え報告する。患者は28歳女性。結婚後、トイレを汚したのではないか、自分が歩いた所は汚れてしまったのではないかという強迫観念が生じ、夫や実母に何度も汚くないとの保証を要求するようになった。妊娠後さらに強迫症状は悪化した。妊娠28週でA精神科診療所を初診したが、トイレに行った際には、除菌シートで足やトイレの床を拭き、トイレでの行動を克明にメモし、携帯電話のカメラで自分の行動などを撮影し確認していた。また、汚れやばい菌をまき散らしてしまうという強迫観念のため料理などの家事もできない状態であった。曝露反応妨害法を中心とする行動療法を開始したところ、強迫症状は徐々に改善していった。出産後は家事も育児も本人が行えるようになり、約半年後の受診時にも強迫症状は認めなかった。
著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.89-101, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
31

統合失調症患者に併存する強迫症状の有病率は高い。そして、強迫症状を併存する統合失調症患者の場合、重い抑うつ症状、多くの自殺企図、重い社会機能不全、低いクオリティ・オブ・ライフ、長い入院期間を呈する。それゆえ、統合失調症患者に併存する強迫症状の治療は重要である。今回、30歳代前半の女性統合失調症患者に併存するolanzapine誘発性強迫症に対して曝露反応妨害法(ERP)を用いた行動療法を施行した症例を経験した。背景に損害回避がある強迫症状については行動療法により改善を認め、行動療法だけでは改善しないと思われた背景にしっくりこない感覚や不完全さがある強迫症状についてはolanzapineを漸減中止しつつ行動療法を施行することにより改善を認め、強迫症状は寛解に至った。この症例について若干の考察を加え報告する。統合失調症患者に併存する強迫症状に対してERPを施行する際の注意点についても記した。
著者
宮崎 哲治 中川 彰子 青木 省三
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.57-66, 2014-01-31

妊娠中の強迫性障害に対し、薬物療法は行わず曝露反応妨害法を中心とする行動療法のみで奏効した患者を経験したので、若干の考察を加え報告する。患者は28歳女性。結婚後、トイレを汚したのではないか、自分が歩いた所は汚れてしまったのではないかという強迫観念が生じ、夫や実母に何度も汚くないとの保証を要求するようになった。妊娠後さらに強迫症状は悪化した。妊娠28週でA精神科診療所を初診したが、トイレに行った際には、除菌シートで足やトイレの床を拭き、トイレでの行動を克明にメモし、携帯電話のカメラで自分の行動などを撮影し確認していた。また、汚れやばい菌をまき散らしてしまうという強迫観念のため料理などの家事もできない状態であった。曝露反応妨害法を中心とする行動療法を開始したところ、強迫症状は徐々に改善していった。出産後は家事も育児も本人が行えるようになり、約半年後の受診時にも強迫症状は認めなかった。
著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.191-202, 2017-09-30 (Released:2017-10-31)
参考文献数
15

曝露反応妨害法(ERP)や認知療法と薬剤調整の連携により回復し、復職に至ったHIV感染恐怖を伴う遷延したうつ病患者を経験したので報告する。HIV感染恐怖もうつ病の維持要因であったため、薬剤調整を行い、体が楽になったタイミングでHIV感染恐怖に対しERPを導入した。このため、ERPをすればHIV感染恐怖がよくなるというルールは、患者にとって確率の高い結果を記述したルールとなり、従いやすくなったと推察される。効果を教示されたのちにERPをすることはルール支配行動だが、できたときに、生活が楽になるまたはうれしいと直ちに感じられるホームワークを設定することにより、ERPをすることが行動内在的強化随伴性を有することが期待できるようにもした。このような工夫により、本来苦痛を伴う治療法であるERPを容易に導入することができたためHIV感染恐怖が回復し、同疾患の影響を受けていたうつ病も回復したと推測する。