著者
宮崎 哲郎 荒殿 保幸
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

これまでのトンネル反応はH原子移行型反応であった。今回、2、3-ジメチルブタンカチオンからの水素分子(H_2又はD_2)脱離反応を77Kで調べた。k(H_2脱離)/k(D_2脱離)=1.7×10^4という著しい同位体効果を観測した。これはトンネル脱離反応の場合の理論的予想値とも一致しており、H_2分子がトンネル効果によって移行することを観測した初めての例である。次に、生体系におけるトンネル反応を見出した。哺乳動物細胞又はそのモデル系(高濃度蛋白質溶液)に室温でγ線を照射すると、生成した有機ラジカルは、1日以上も生存する。このラジカルはDNAの突然変異を引き起こし、ビタミンCを添加するとラジカルは反応によって消滅し、突然変異も抑制される。重水素化ビタミンCを用いて長寿命ラジカルとビタミンCとの反応を研究した。大きな同位体効果(≧20〜50)を発見し、この反応がトンネル反応であることを見出した。生体内でもトンネル反応が重要であることを示している。極低温、固体p-H_2を用いると高分解能ESR測定が出来ることを考え出した。この方法を用いてH_2^-アニオンの明確なESRスペクトルを得ることに成功した。H_2^-アニオンの減衰挙動に関する温度効果を調べた結果、この減衰がトンネル効果によることを見出した。
著者
宮崎 哲郎 熊谷 純
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

放射線による発ガンの引き金は、短寿命の活性酸素ラジカルによるものとこれまで考えられてきた。筆者等は半減期が20時間の長寿命ラジカルが細胞中に生成し、これが引き金になり突然変異やガンを誘発することを発表してきた。活性酸素ラジカルの存在しない照射後にビタミンCを添加すると、長寿命ラジカルを反応によって消去し、突然変異やガンの誘発を抑制する。本年度、ビタミンCとは化学構造が全く違うエピガロカテキンガレートを用いて検討し、長寿命ラジカルモデルをさらに実証するデータを得た。また、アメリカのWaldren教授によってこのモデルの追試がなされ、モデルの正当性が裏付けられた。彼の言葉によれば、長寿命ラジカルによる突然変異やガンの誘発機構は、これまで誰も考えていなかった新しいモデルであり、放射線生物学や発ガンにおいて極めて重要である。またESRスペクトルの解析から、長寿命ラジカルは蛋白質中のCH_2-SO・ラジカルである事を同定した。放射線により生成した長寿命蛋白質ラジカルから損傷シグナルがDNAに伝達され、突然変異やガンが誘発される。これはバイスタンダー効果の分子レベルでの機構と言える。長寿命ラジカルモデルによれば、ラジカル反応からDNA損傷に至る過程でも十分に制御出来る。特に長寿命ラジカルを直接観測しつつ対処出来るので、ガン抑制の新しい方向となろう。長寿命蛋白質ラジカルは紫外線照射によっても生成する事を見出し、紫外線発ガンの誘発に関与すると思われる。さらに、長寿命ラジカルとの反応性を利用して、抗ガン剤を評価する方法を検討した。