著者
北中 千史
出版者
国立がんセンター
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

神経芽腫は自然退縮がしばしば見られる癌としてよく知られているが、そのメカニズムについてはほとんどわかっていない。神経芽腫の自然退縮のプロセスにアポトーシスとは異なったプログラム細胞死の関与が示唆されていること、Rasの発現が神経芽腫の予後良好因子であることなどに加え、最近の我々の研究からRasがヒトがん細胞に細胞特異的に非アポトーシス性プログラム細胞死を誘導することが明らかになってきた。これらの事実から我々は神経芽腫におけるRas蛋白質の高発現がアポトーシスとは異なったプログラム細胞死を誘導し、その結果腫瘍の自然退縮が起きているのではないかと考えた。この点を確認するためにまず神経芽腫の腫瘍サンプルを用いた免疫染色を行ったところ、自然退縮を起こしやすい神経芽腫のサブグループにおいてRasの高発現部位に一致してアポトーシスとは異なる細胞変性が高頻度に起きていることを認めた。また、in vitroにおいても、腫瘍サンプルで認められた所見に一致して、Rasの発現が神経芽腫細胞にアポトーシスとは異なった細胞死を誘導することを確認した。これらの結果はRasにより誘導される非アポトーシス性プログラム細胞死が神経芽腫の自然退縮に寄与している可能性を強く示唆している。
著者
小野 眞弓
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、がんの血管新生の誘導のメカニズムとそれに関与するネットワークシステムを明らかにすることによって新しい分子標的を提示し、がんの診断と治療へ貢献するために、がんの血管新生に関与する分子標的の探索を行った。特に間質の細胞とがん細胞の応答に注目しマクロファージやT細胞の関与について検討した。その結果として、1.腫瘍の間質に浸潤してくるマクロファージはメラノーマにおいてその血管密度や悪性度と相関することと同時にそのマクロファージはチミジンホスホリラーゼ(TP)やヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)などを活発に産生していることを見出した。2.活性マクロファージのTPの発現はインターフェロン(IFN)γによって強く誘導され、TP遺伝子プロモーター上のGASエレメントが関与することを見出した。3.TNFαやIL1による血管新生誘導にはVEGFやIL8やbFGFなどの産生亢進が関与していた。4.L4/IL13による血管新生誘導にはsVCAMの発現上昇が関与することを明らかにした。本研究より、我々の提示しているTNFαやIL1による血管新生因子の誘導のモデルがメラノーマや脳腫瘍、その他のがんの血管新生にどれだけ応用できるのかは今後の課題であり、このことをはっきりさせることができればマクロファージが産生する血管新生関連のサイトカインやその受容体などを対象に治療戦略を考案することが可能と思われる。他方、IL4/IL13による血管新生誘導が生体内で各れのがんや他の疾病の血管新生に関与するか、さらにsVCAMの産生を促進する酵素が如何なるものか、また血管新生誘導におけるsVCAM/α4インテグリンのシグナル伝達のメカニズムについて現在、検討中である。腫瘍の微小環境においてpHが酸性領域に傾いた際に、我々が見出した抗血管新生ペプチド(アンジオスタチンなどの)を産生するカテプシンDの生体内の意義についてもはっきりさせていく必要がある。pHに限らず酸素レベルや間質成分から産生するサイトカインの種類やレベルなどダイナミックな微小環境が血管新生へ及ぼす背景について把握していくことが、各腫瘍の血管新生のみならず、浸潤や転移能などの個別化の上でも極めて大切と考えている。
著者
小川 誠司 明石 真言 鈴木 元 前川 和彦 牧 和宏
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

高線量の中性子線被爆がヒトの染色体および遺伝子におよぼす影響について、1999年9月30日茨城県東海村核燃料施設で発生した臨界事故において、中性子線を大量に含む放射線被爆を受けた患者2名を対象として以下の検討を行った。生物学的および物理学的な予測被爆線量は18Gy(Pt1)および8Gy(Pt2)であった。被爆後の末梢血および骨髄血の染色体分析においては、両名ともに著しい染色体の断片化と構造異常が観察された。被爆後両患者ともに造血幹細胞移植が施行され、一名については持続的な造血系が再構築された(Pt1)が、もう一名に関しては一時的に混合キメラの状態になったがもののDayに自己造血が回復し、移植片の拒絶が確認された。興味深いことに、理論的には二次被爆の影響は殆ど無視出来ると考えられる時期に移植が行われたにも関わらず、Pt1においては再構築された造血細胞においても染色体のランダムな異常が20分裂細胞中3細胞に観察され、大量の中性子線被爆後においては、直接的な放射線障害以外に染色体を障害する、細胞を隔てて作用するメカニズムが存在する可能性が示唆された。こ自己の造血が回復したPt2においては、染色体分析において、分裂細胞の60%ないし80%の細胞に細胞ごとに異なるランダムな染色体の異常が観察され、放射線被爆による染色体の異常が自己造血の回復ののちも再生した造血組織に維持されることが明らかとなった。しかし、これらの異常が最終的に造血器腫瘍を誘発するか否かについては、患者が被爆後早期に多臓器不全により死亡したため、検討不能であった。一方、剖検後に患者の遺族の同意を得て検討された被爆組織の遺伝子の突然変異をras遺伝子、p53遺伝子およびp16INK4A遺伝子について検討したが、これらの遺伝子における突然変異率の上昇は証明されなかった。
著者
宮崎 哲郎 熊谷 純
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

放射線による発ガンの引き金は、短寿命の活性酸素ラジカルによるものとこれまで考えられてきた。筆者等は半減期が20時間の長寿命ラジカルが細胞中に生成し、これが引き金になり突然変異やガンを誘発することを発表してきた。活性酸素ラジカルの存在しない照射後にビタミンCを添加すると、長寿命ラジカルを反応によって消去し、突然変異やガンの誘発を抑制する。本年度、ビタミンCとは化学構造が全く違うエピガロカテキンガレートを用いて検討し、長寿命ラジカルモデルをさらに実証するデータを得た。また、アメリカのWaldren教授によってこのモデルの追試がなされ、モデルの正当性が裏付けられた。彼の言葉によれば、長寿命ラジカルによる突然変異やガンの誘発機構は、これまで誰も考えていなかった新しいモデルであり、放射線生物学や発ガンにおいて極めて重要である。またESRスペクトルの解析から、長寿命ラジカルは蛋白質中のCH_2-SO・ラジカルである事を同定した。放射線により生成した長寿命蛋白質ラジカルから損傷シグナルがDNAに伝達され、突然変異やガンが誘発される。これはバイスタンダー効果の分子レベルでの機構と言える。長寿命ラジカルモデルによれば、ラジカル反応からDNA損傷に至る過程でも十分に制御出来る。特に長寿命ラジカルを直接観測しつつ対処出来るので、ガン抑制の新しい方向となろう。長寿命蛋白質ラジカルは紫外線照射によっても生成する事を見出し、紫外線発ガンの誘発に関与すると思われる。さらに、長寿命ラジカルとの反応性を利用して、抗ガン剤を評価する方法を検討した。
著者
西園 晃 中島 一敏 山城 哲
出版者
大分医科大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ヘリコバクター・ピロリ菌の外膜蛋白Omp29のN末端アミノ酸配列を決定し、Omp29遺伝子の分離株間での多様性と発現蛋白の抗原性について検討することを今回の目的とした。分離・精製された分子量29KDaの蛋白分画のN末端アミノ酸配列は26695株のHP78及びJ99株のJHP73遺伝子のN末端配列と同一であった。臨床分離株150例から抽出したDNAをPCRを用いて検討した結果、増幅産物は長さにより770bp、770bp以上の2群に分類され150例5例と76例であった。Omp29遺伝子の構造について短い770bp群は互いにほぼ同じ配列であったのに対し、長いサイズ群は保存された配列の間に5'末端から180bpの位置に、762bp〜1264bpと種々の長さで保存性の低い配列が挿入された構造となっていた。挿入された異なる配列の5'及び3'末端には17bpから成る同方向配列が各々確認された。また各遺伝子のORF構造は770bp群では単一ORFであるのに対し、長いサイズ群では数個のORFに分断されていた。組み換えOmp29蛋白に対するウサギ抗血清を用いたimmunoblotでは、単一のORFから成る770bp群では29kDaの位置に反応が見られたが、長いサイズ群ではORFが分断されているために反応は認めなかった。一方、Omp29発現蛋白を抗原として患者血清中の抗体保有の有無を確認したところ、全ての患者に29kDaの反応物を確認できた。Omp29遺伝子配列中には、2箇所の17bpから成る繰り返し配列が存在し、この間に挿入された塩基配列の長さの違いでゲノム全体の長さが変化するような新規の挿入・脱落機序が存在する事が予想された。このようなメカニズムによりH.pyloriゲノムの変異から、抗原性の変化、さらには宿主の免疫監視機構からの回避により持続感染に至ることが予想された。
著者
黒橋 禎夫
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

自然言語の文章では,人間にとって理解可能な範囲で頻繁に省略や代名詞化がおこる.この問題は,文章を単語集合として扱っている現在の情報検索でさほど表面化しないが,今後,情報検索を高度化していくためには,省略・代名詞に対する照応詞の同定が必須の要素技術となる.省略・代名詞解析には,用言(動詞,形容詞,名詞+判定詞)ごとに,どのような名詞が主語,目的語(格要素)になるかという情報をまとめた格フレーム辞書が必要となる.しかし,数千から数万の用言について,専門分野における特殊な用法までカバーする大規模で実用的な格フレーム辞書はこれまでのところ存在しなかった.格フレーム自動構築における最大の問題は,用言の意味の多義性である.たとえば「(友達に)なる」と「(病気に)なる」,「(塩,調味料などを)加える」と「(砲撃を)加える」では,同じ動詞でも格フレームのパターンがまったく異なる.この多義性を解消しなければ,格フレームは自動的には構築できない.ここでのポイントは,用言の意味を決定づける重要な名詞は用言の直前にあり,かつそれは文章中で省略されることは比較的少ない,という点である.そこで,用言単独ではなく,用言とその直前の名詞のペア,すなわち「友達になる」や「病気になる」を格フレームの単位とし,そのまわりに他にどのような格要素が存在するかを大量のテキストから学習するという手法を考案した.新聞記事を対象とし,約370万文から格フレームを学習したところ,9,900用言について平均6.0個の格フレームが学習された.さらに,この格フレーム辞書を用いて文章中の省略要素を同定する実験を行ったところ,70%程度の正解率が得られた.この手法は言語独立,分野独立であり,必要となるのはある分野の大量のテキストだけである.今後,ゲノム文献を対象としてこの手法の有効性を確認し,これを検索の高度化につなげていく予定である.
著者
工藤 明 猪早 敬二 竹下 淳
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

我々は、細胞間接着分子カドヘリンに骨芽細胞分化制御機能があることを報告する。各種間葉系細胞株におけるカドヘリンの発現を調べた結果、各細胞株はそれぞれが独特なカドヘリンの発現様式を持っており、骨芽細胞系譜では、OBカドヘリン(カドヘリン-11)およびNカドヘリンを発現していることがわかった。同一細胞において複数種のカドヘリンが発現することの意味を調べるために、頭頂骨骨芽細胞と同程度にOBおよびNカドヘリンを発現させたL細胞(L-OB/N)ならびに、それぞれ単独で発現させたL細胞(L-OB,L-N,L-MOCK)を作製した。細胞染色の結果、OBとNカドヘリンは、それぞれが独立してアドヘレンスジャンクションに局在し、共に細胞接着に寄与していると考えられた。また、L-OB/Nにおいては骨芽細胞分化マーカーであるALP,Osteocalcinの発現誘導および骨芽細胞分化のマスター遺伝子であるCbfalの発現上昇が確認された。L-OBでは微弱ながらALPの発現が確認でき、L-N,L-MOCKでは全くそれら発現は確認されなかった。以上のことよりOBカドヘリンは骨芽細胞分化を方向付けし、Nカドヘリンはその作用を増強すると考えられた。NIH3T3においても同様の実験を試みたところALP,Osteocalcinの発現誘導は確認出来なかったが、FGFR2の発現が上昇し、L-OB/Nにおいても同様に発現上昇が確認された。FGFR2は、突然変異が骨格系に多くの異常を示し、Osteopontin発現上昇以前の骨芽細胞前駆細胞において発現することから、骨芽細胞初期分化に重要であると考えられている。これらのことより、OBとNカドヘリンは、未分化な骨芽細胞前駆細胞の細胞分化運命を決定していると考えられる。今回の結果は、複雑な細胞間相互作用が複数種のカドヘリンのよる細胞間認識の結果であると共に、細胞間認識による細胞分化決定機構の存在を示唆するものである。
著者
水落 次男 小島 直也
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

感染症に対する生体防御において細胞性免疫反応の重要性が報告され、病原体に対する細胞性免疫を誘導するワクチンの開発が感染防御や発症の制御に重要であることが指摘されており、そのためには細胞性免疫を誘導できるアジュバントが必要である。しかし、ヒトに対して使用できる安全なアジュバントは見あたらない。そのため、細胞性免疫誘導能をもち、しかもヒトに対して毒性がなく安全なアジュバントの開発は、今後の感染症に対するワクチンの開発にとって非常に重要である。我々は、ヒトの生体内に広く存在する糖蛋白質の特定の糖鎖と脂質から成る人工糖脂質の作製に成功し、この人工糖脂質で被覆したリポソームに封入抗原に対する細胞性免疫を強く誘導するアジュバント作用があることを見いだした。そこで本研究では、この人工糖脂質被覆リポソームを様々な感染症に対する細胞性免疫誘導型ワクチンのアジュバントとして利用するために、感染モデルとしてHIVおよびリーシュマニア原虫を用いて、これら病原体に対する蛋白質・ペプチドワクチンやDNAワクチンを試作し、そのワクチン効果を評価し、抗原提示細胞を用いて人工糖脂質の作用機構を解析する。本年度は、リーシュマニア原虫を用いたワクチン効果の評価系の確立を試みた。マンノペンタオース(M5)とジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)を還元アミノ化反応で化学的に結合させM5-DPPEを合成した。また、リーシュマニア原虫から可溶性蛋白質を調製し、この可溶性蛋白質を抗原とし、この抗原を封入した人工糖脂質被覆リポソームを作製した。この抗原封入人工糖脂質被覆リポソームでBalb/cマウスを免疫後、リーシュマニア原虫をマウスのfoot padに経皮感染させ、感染によるfoot padの腫脹を経時的に測定し、人工糖脂質被覆リポソームワクチンのリーシュマニア原虫感染に対する有効性の評価を行った。その結果、抗原のみあるいは人工糖脂質で被覆していない抗原封入リポソームで免疫したマウス群は著しいfoot padの腫脹が認められたが、この抗原封入人工糖脂質被覆リポソームで免疫した群のマウスではfoot padの腫脹は対照群と比べて顕著に小さかった。この結果は、この抗原封入人工糖脂質被覆リポソームで免疫することによって、リーシュマニアの感染がある程度予防できたことを意味している。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
1999

Ewing肉腫(ES)は悪性骨軟部腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍であるが、その90%以上に染色体転座t(11:22)がみられ、その転座の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。EWS-Fli1は強力な転写因子として働き、正常線維芽細胞をtransformする活性を有するため、ESの癌化の原因そのものと考えられている。これまでに我々は、EWS-Fli1の発現を抑制することでES細胞の増殖が抑制され、その際細胞は細胞周期のG1期に停止すること、EWS-Fli1の標的遺伝子がG1/S期移行に関連した因子であることを明らかにしてきた。本研究の目的は、転写因子EWS-Fli1から標的遺伝子までのシグナル伝達経路の詳細を明らかにし、その経路を阻害することでES細胞の増殖を有効に抑制できるか検討を加え、ESの新しい分子標的治療を開発することである。ES細胞にEWS-Fli1アンチセンスを作用させると、細胞はG1期停止を起こす。そこで、この細胞からmRNAを抽出してプローブを作成し、cDNA microarrayにhybridizationさせた。結果をコンピューターで解析し、EWS-Fli1による細胞癌化に、どのような遺伝子発現変化が伴うか検討した。その結果、G1/S期移行に重要である転写因子E2F1がEWS-Fli1の標的遺伝子であることが明らかになった。EWS-Fli1を強制発現させるとE2F1の発現が誘導され、ES細胞にアンチセンスを作用させるとE2F1の発現は抑制された。ES細胞にE2F1結合配列をもったデコイオリゴを作用させると、細胞の増殖が有意に抑制された。本研究より、E2F1はEWS-Fli1の標的遺伝子であり、ESの増殖に深く関わっていること、ESの新しい遺伝子治療のターゲットとして有用であることが明らかになった。
著者
前田 浩 宮本 洋一 澤 智裕 赤池 孝章 小川 道雄
出版者
熊本大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

固型癌のうち、胃癌、肝癌、子宮癌などの原因が細菌やウイルスによることが次第に明らかになってきた。さらに、胆管や胆のう癌、食道癌も何らかの感染症に起因する容疑が濃くなってきた。これらの感染症と発癌に共通の事象として、それが長期にわたる慢性炎症を伴うこと、また活性酸素(スーパーオキサイドやH_2O_2、あるいはHOCl)や一酸化窒素(NO)などのフリーラジカル関連分子種が宿主の炎症反応に伴い、感染局所で過剰に生成していることである。さらに重要なことは、これらのラジカル分子種はDNAを容易に障害することである。そこで本研究では、微生物感染・炎症にともない生成するフリーラジカルと核酸成分との反応を特に遺伝子変異との関係から解析した。また、センダイウイルス肺炎モデルを作製し、in vivoでの遺伝子変異におけるフリーラジカルの役割を検討した。その結果、過酸化脂質がミオグロビン等のヘム鉄存在下に生じる過酸化脂質ラジカルが、2本鎖DNAに対して変異原性のある脱塩基部位の形成をもたらした。また、上記ウイルス感染においては、スーパーオキサイドラジカル(O_2^-)と一酸化窒素(NO)の過剰生成がおこることを明らかにしたが、この両者はすみやかに反応してより反応性の強いパーオキシナイトライト(ONOO^-)となる。ONOO^-とDNAやRNAとの反応では、グアニン残基のニトロ化が効率良くおこり、さらに生じたニトログアノシンがチトクロム還元酵素の作用によりO_2^-を生じることが分かった。このONOO^-がin vivo,in vitroいずれにおいてもウイルス遺伝子に対して強力な遺伝子変異をもたらすことを、NO合成酵素(NOS)ノックアウトマウスやNOS強制発現細胞を用いて明らかにし、上記の知見が正しいことを確認した。
著者
堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

病原性プリオン蛋白質(PrPSc)と正常型プリオン蛋白質(PrPC)が直接会合することが、PrPScの増殖の第一段階である。そこで、PrPCとPrPScの結合に関与するPrP分子上のドメインを調べることを目的として、各種PrP合成ペプチドがPrPC-PrPSc間の相互作用を阻害するか否かについて検討した。PrPCがPrPSc存在下でPrPSc様のProteinase K(PK)抵抗性分子(PrP-res)に転換する試験管内転換反応で、PrP合成ペプチドaa117-141、aa166-179、aa200-223はPrPCがPrP-resに転換するのを阻害した。これらのPrPペプチドはPrPCと結合することにより、PrPCとPrPScの結合を阻害することが判明した。結合阻害活性を示すPrPペプチドは反応条件下ではβシート構造をとる傾向があることから、PrPペプチドがPrPScのPrPCへの結合ドメインを模倣することでPrPCと結合し、PrPC上のPrPSc結合ドメインを占拠する結果、PrPCとPrPScの結合を阻害する可能性が示唆された。PrPCとPrPScの分子間相互作用を解析する道具として、PrP分子に対するモノクローナル抗体(mAb)パネルを作製した。計34のmAbは認識するエピトープから9群に分類された。グループI〜VIはPrP分子上のリニアエピトープを認識する抗体、グル-プVII、VIIIはPrP分子上の構造エピトープを認識する抗体であった。また、グループIXはPrPSc特異的エピトープを認識する抗体である可能性が強く示唆された。aa59-89のリニアエピトープを認識するmAb、aa143-151を認識するmAb、およびaa1555-231領域内の構造エピトープを認識するmAbはプリオン感染細胞におけるPrPScの合成を阻害した。これらの抗体は細胞膜上に発現するPrPCと強く反応することから、抗体が細胞膜上のPrPCと結合することで正常なPrPC代謝経路が影響を受けるために、PrPSc合成の基質となるPrPCの供給が阻害された結果であると考えられる。
著者
早川 浩
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

酸化RNA(8oxoguanine-RNA)に特異的に、且つ強固に結合する蛋白を大腸菌およびマウス脳抽出液中に検出し、大腸菌についてはそのうちの1つがPolynucleotide phosphorylase(PNP蛋白)であることを同定、報告した。(Biochemistry 40,9977-9982 2001)。この遺伝子を欠損した変異株は、酸化ストレスを引き起こすパラコートに対して耐性となるが、遺伝子を導入すると感受性は元のレベルに回復した。このpnp遺伝子にホモロジーをもつ配列が、ESTデーターベース上に多数登録されていることが判ったので、pnp遺伝子情報を元に仮想配列を想定し、目的とするcDNAを決定し、そのDNAを入手した入手したものについて実際にDNA配列を決定したところ、ほぼ予想した配列に該当した。このcDNAからコードされると期待される蛋白の一次配列は大腸菌PNP蛋白と全域にわたってホモロジーがあった。これとは別に、直接結合活性を指標にヒト蛋白を生化学的に検索したところ、1ヶの蛋白を同定することができた。これは既知蛋白であるが、新たな結合活性を有することが明らかになった。
著者
高橋 政代 高橋 淳
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

我々は過去に成体ラット脳由来の神経幹細胞網膜に移植し生着と神経への分化を確認した。しかし、網膜神経の分化に最適な環境である胎児網膜に移植しても脳由来の神経幹細胞から視細胞を分化誘導することはできなかった。そこで、眼球組織から神経幹細胞/神経前駆細胞を海馬由来神経幹細胞と同様の条件で培養した。ラット胎児網膜からは効率よく視細胞に分化する神経前駆細胞がneurosphereの形で得られた。また、成体ラットの毛様体色素上皮や虹彩上皮を同様の条件で培養して分裂増殖する神経前駆細胞を得、さらに視細胞に特異的なホメオボックス遺伝子を導入することによって視細胞のマーカーであるロドプシンやリカバリンを発現させることができた。海馬由来神経幹細胞ではロドプシンの発現はみられなかった。次いで京都大学医の倫理委員会の承認を受けて、ヒト胎児脳および網膜から神経幹細胞/神経前駆細胞を培養した。ヒト胎児脳からは神経幹細胞のクローンが得られ、網膜からはneurosphere法にて神経前駆細胞が得られた。それぞれ神経およびグリアに分化する多分化能を有することが確認された。また、ラット虹彩細胞と同様にヒト虹彩細胞からも視細胞様細胞が分化するか確認するため、通常の緑内障手術で廃棄される虹彩組織を用いて虹彩上皮細胞の培養を行い、ヒトでも虹彩上皮細胞の培養増殖が可能となった。ラットで神経幹細胞が組織特異性を示したのと同様にヒト胎児脳由来の神経幹細胞も前脳、中脳、菱脳それぞれの由来によって分化してくる神経のphenotypeや発現している遺伝子に差がみられ、組織特異性があると考えられた。
著者
高橋 政代 高橋 淳
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

ヒト胎児脳および網膜からの神経幹細胞の分離培養11週齢のヒト胎児から大脳と眼球を摘出し、眼球からは網膜のみを剥離する。大脳および網膜を機械的および酵素にて細胞に分散したのち、DMEM/F12に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と上皮細胞増殖因子(EGF)を添加した無血清培地にて培養したところ、徐々に増殖、増大する細胞塊が得られた。この細胞塊を形成する細胞の多くはネスチン陽性の未分化な神経系細胞であり、神経幹細胞を含むと考えられているneural sphereと同様の細胞集団と思われた。さらに、この細胞塊をラミニンコートした培養皿でbFGFとEGFを除去して培養すると細胞は培養皿上に接着し、形態を変化させた。神経突起様の突起を伸ばした細胞の一部は免疫細胞化学的検討にてβチュブリンIII陽性の幼若な神経細胞に分化しており、また、一部はGFAP陽性のグリア細胞に分化していた。これらの結果からヒト胎児脳および網膜から神経幹細胞あるいは神経前駆細胞が得られたと考えられる。ヒト成体虹彩神経色素上皮細胞の培養我々は、成体ラット虹彩色素上皮細胞を上記と同様の培養条件で培養することにより、神経とグリアに分化する能力を有するネスチン陽性の神経前駆細胞が得られることを確認している。同様にして、緑内障手術の際に得られるヒト成体の虹彩色素上皮を培養することにより、増殖する細胞を得ている。現在この細胞の多分化能を検討中である。以上の実験はいずれも京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施したものである。
著者
芝 清隆
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ポストゲノム・プロテオーム研究から得られるゲノム知識、特にタンパク質の構造と機能に関する知識を活用するために、これらの知識を人工タンパク質上に人為的に再構成する新しい人工タンパク質創製システムを確立するのを目標とすている。既に確立しているマイクロ遺伝子重合法とマイクロ遺伝子のデザインアルゴリズム、CyberGeneを利用することにより、人為再構成の実例、使用例を蓄積していくことを目標とし、a)アコヤ貝のもつ炭酸カルシウムの結晶化に関与すると思われるモチーフをもった人工タンパク質の作製の試み、b)デザインアルゴリズムの高速化、c)無細胞翻訳系を用いた人工タンパク質の産生の試み、をおこなった。a)では、マイクロ遺伝子のデザインは完了したものの、重合体翻訳産物の精製に手間取っており、期待した機能が再構成されているかどうかの確認がとれていない。b)では、ジペプチドが内包する他の読み枠のコドンにも注目し、あらかじめ終止コドンを内包するジペプチドコドンを排除したコドン表を用いることにより、マイクロ遺伝子のデザイン時間を大幅に短縮することに成功した。この手法に関して特許を申請した。c)ではa)で得られた繰り返し性の高いタンパク質は大腸菌内で発現が見られなかった。そこで、大腸菌、小麦胚芽由来の無細胞翻訳系を用いた発現を試みたが、考えられるあらゆる条件を検討したにもかかわらず十分な発現が確認できなかった。唯一、融合タンパク質としてのみ発現を確認することができた。今後の課題としては、アコヤ貝のモチーフをもった人工タンパク質は、そのマイクロ遺伝子のデザインから再度やりなおす。また、最近、同じように非常に短い単位の繰り返し構造をもつ蜘蛛の絹糸タンパク質が、大腸菌・酵母で発現しないものの、動物細胞で発現した例が報告されているので、動物細胞でも発現も試みてみたい。
著者
岸本 健雄 立花 和則
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

テラトーマなどの胚細胞性腫瘍は胚性がん腫細胞に由来し、これは受精によらない胚細胞の増殖、つまり単為発生に起因している。本研究の目的は、Mosが単為発生を抑制し、その結果として胚性がん腫細胞の形成を抑制する機構の解明である。これらの抑制は、卵母細胞においてMosが減数第二分裂を成立させ、かつその後に細胞周期の進行を停止させるのによることを、筆者らの最近の研究は示している。それらの分子機構について、ヒトデ卵を用いた本研究により、以下の点が判明した。1.Mosが減数第一/第二分裂移行をもたらす機構については、Mos-MAPキナーゼ経路の下流にPlk(pdo-likekinase)が介在すると判明した。PlkはCdc25活性の維持よりはむしろMyt1の抑制維持に関わり、それによってCdc2キナーゼの速やかな活性化をもたらし、その結果、M/M期移行が成立する。この際、Mos-MAPKからPlk活性の維持に至るには、蛋白質合成を必要とする。他方、PlkはMyt1を直接リン酸化できるが、それが活性抑制に関わっているかどうかは、現在検討中である。2.減数第二分裂後のG1期停止の機構を解明する手掛かりとして、G1期での停止状態、つまり、成熟未受精卵ではDNA複製開始装置はどのような状態にあるのかを解析した。その結果、G1期に停止した成熟未受精卵では、Mcm2は未だMcm7と結合しているにもかかわらず、その後のDNA複製の開始にはサイクリンE-CDK2を必要としないことが判明した。これらの事実は、受精後のDNA複製開始は、通常の体細胞におけるDNA復製開始(サイクリンE-CDK2を必須とする)とは全く異なった様式による可能性を示唆している。こうしたS期開始の抑制にMos-MAPキナーゼ経路がいかに関わっているかを、現在解析中である。
著者
八十島 安伸 小林 憲太
出版者
福島県立医科大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

運動制御における大脳基底核神経回路の間接路の役割を探るために、中継核の一つである視床下核(subthalamic nucleus,STN)に着目した。イムノトキシン細胞標的法を適用できるように、ヒトインターロイキン2受容体αサブユニット(IL-2Rα)タンパクをSTN細胞に発現する遺伝子変異マウス(NPIGマウス)を作製し、導入IL-2Rαを抗原として特異的に認識するanti-Tac-(Fv)PE38抗体(イムノトキシン、IT)をNPIGマウスの片側STNに微量注入したところ、STN細胞の特異的な脱落・破壊が認められた。NPIGマウス片側STNへのIT注入処理後、新奇環境に呈示すると、IT処理を受けた大脳半球の反対方向(破壊反対側方向)への自発的な回転運動が生じた。野生型マウスにIT処理を行っても、回転運動は生起しなかった。同一NPIGマウス群にドーパミン非選択的作動薬であるアポモルフィン(APO,2mg/kg)を皮下投与すると、回転方向が破壊同側方向(ipsiversive)へ逆転した回転運動を示した。片側STNにIT処理を行った同一NPIGマウス群を飼育室・ホームケージ環境で回復させ、IT注入操作の28日後以降に自発的な破壊反対側方向への回転量とAPO誘導性の破壊同側方向への回転量を測定すると、両者は有意に減弱することを認めた。また、自発的な定位運動・APO誘導性の定位運動も減少した。ドーパミンD1もしくはD2受容体の各選択的作動薬の単独投与では、APO投与時に認められた回転方向の逆転現象は認められなかった。STN選択破壊によるSTN機能不全は、ドーパミン刺激による運動亢進作用に対して障害が認められたことから、本研究は運動制御における大脳基底核の間接経路の独自機能の解明について示唆を与えると期待できる。
著者
村上 学
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

目的)抗ガン剤の治療において、多剤耐性細胞の存在は重要であるが、近年になり、MRP(multidrug resistance associated protein)というP-糖蛋白が関与しない多剤耐性機構の存在が明らかとなった。MRPは抗ガン剤を排出するポンプ機能を有し、ガン細胞における抗ガン剤の細胞内濃度を低下させることにより多剤耐性を示すと考えられている。各種カルシウムチャネル阻害薬がMRP発現細胞において抗ガン剤の排出を阻害することが知られているが、その機構は不明である。本研究はMRPとカルシウムチャネルとの間における相互作用の存在を仮定し、MRP発現細胞におけるカルシウムチャネルの発現プロフィル、チャネル特性、カルシウムチャネル過剰発現による抗ガン剤の効果を調べることを目的とした。結果)1)MRP発現細胞における電位依存性カルシウムチャネルの発現プロフィルおよびチャネル特性の検討すべてのMRP発現細胞において、カルシウムチャネルalpha1Dの発現が確認された。さらに細胞膜表面におけるチャネル特性を、電気生理学的方法等により解析したが、機能を有するカルシウムチャネルは測定感度以下であった。2)カルシウムチャネルalpha1C遺伝子の過剰発現によるMRP発現細胞における薬剤感受性の変化カルシウムチャネル遺伝子をMRP発現細胞に過剰発現させたところ、エトポシド、およびビンクリスチンに対する感受性が増加し、エトポシドの細胞内蓄積が増加した。考察および総括)MBP発現細胞ではカルシウムチャネルは発現しているが、細胞膜表面における機能的チャネルをほとんど構成しないことが明らかとなった。また、カルシウムチャネル遺伝子の過剰発現がMRPのポンプ機能を低下させたことから、MRP発現細胞においてもカルシウムチャネルがカルシウムチャネル阻害薬の標的分子である可能性が示唆された。
著者
吉村 健清 早川 式彦 溝上 哲也 徳井 教孝 八谷 寛 星山 佳治 豊嶋 英明
出版者
産業医科大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

地域住民を対象とした大規模コホート調査(JACC Study)の調査票情報および保存血清および1997年末までの予後追跡調査データを用いて、胃がんのリスク要因を解析した。死亡を結果指標としたコホート解析では、胃がんリスクを高める要因として、短い教育歴、胃がん家族歴あり(男:RR,1.6;女:RR,2.5)、男の喫煙(RR,1.3;喫煙開始10-19歳:RR,1.9)、女性では生殖歴・出産歴がないこと、胃がん検診未受診(男:RR,2.0)があげられた。家族歴では、特に女で母親が胃がんの塙合に高いリスクを示した。また胃がんには家族集積性があることも示唆された。一方で、これまで胃がん関連要因として報告されてきた緑黄色野菜・高塩分含有食品・緑茶の摂取との関連は明らかでなかった。追跡期間別に分けた分析方法を用いると、干物類は、胃がんがあると摂取が減少する可能性が示唆された。また、コホート内症例対照研究の手法により、調査開始時に採取された血清を用いて、IGF、SOD、sFAS、TGF-b1の4項目を測定、胃がん罹患および死亡との関連を検討した。TGF-b1は、女性において、4分位で最も低い群にくらべ、値が高い群ほど胃がん罹患・死亡のリスクが上昇する量-反応関係を認めた。その他の3項目は、罹患と死亡で一致した傾向は認めなかった。同様の手法により、胃がんとの関連が強いとされる血清項目を測定した結果、Helicobactor pylori陽性のオッズ比は1.2、pepsinogen低値(胃粘膜萎縮あり)のオッズ比は1.9であった。H. pyloriのリスクが比較的低かったことの理由として、本解析集団が高齢であることが考えられる。現在、H. pyloriのCag-A抗体について測定を進めている。