著者
宮本 雄一
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.207-212, 1959
被引用文献数
1

1) 低温下 (0&sim;2&deg;C) で乾燥し, 無酸素下 (5&sim;10&deg;C) で貯蔵した, 病葉中のコムギ縞萎縮病ウイルス (WYMV) およびオオムギ縞萎縮病ウイルス (BYMV) はともに, 2年後においてもかなり強い感染力を示した。<br>2) 前報より引続き行つた実験の結果, 病土から分離濃縮された粘土部分 (<2&mu;) 粒子の病原性の強いことが, 播種試験および摩擦接種試験により, 再確認された。これらの粘土部分の粒子中には線虫類を全く認めず, また特記すべき頻度であらわれる糸状菌または細菌類を認めなかつた。さらにこの粘土フラクション中には, 根毛と判別できる植物の組織を認めなかつた。<br>3) 罹病植物汁液を粘土鉱物およびその他の土壌に吸着させ, 比較的高温下 (10&sim;15&deg;C) で貯蔵した結果, WYMVおよびBYMVはともに, 約8カ月後の次のシーズンまでわずかながらその病原性を維持した。<br>4) 以上の諸事実とこれまでの実験結果から, ムギ萎縮病ウイルスの土壌伝播機作を説明するためには, 必ずしも特定の微生物的媒介者あるいは罹病植物の残根の存在を必要とせず, 蛋白質を吸着し保護すると考えられる粘土部分の土壌粒子 (無機および有機のコロイドを含む) がこれらのウイルスを吸着して伝播者の役割を果しているものと考える。
著者
宮本 セツ 宮本 雄一
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.79-84, 1971-12

1. モザイク斑紋を呈していたベラドンナから分離されたウイルス(glutinosa necrosis virus; GNV)(仮称)(宮本ら, 1965)は, 寄主範囲, 物理的性質, ウイルス粒子などからCMVに近いウイルスと推定された。このGNVをN. glutinosaに接種した場合, 植物の老若および環境温度にはほとんど関係なく, 常に接種葉に局部えそ斑(LL)を生じたのち頂端えそ(TN)となり, さらに全身えそ(SN)となって植物は枯死する。このようにLL&xrarr;TN&xrarr;SNと進行する現象の詳細と機構を知るために, N. glutinosaの葉位, 葉数, 部位などを変えてGNVを接種し, 頂葉部におけるえそ斑の発現様相, ウイルスの接種葉からの移行の時期とTN出現との関係, さらに頂葉部からのGNV回収可能時期とその濃度などについて1968年に行なった実験の結果をのべた。2. GNVをN. glutinosaに接種した場合, 接種葉のLLが水浸状に拡大, 褐変・癒合する時期(一般に接種後5&acd;7日)にTNが出現し始めた。このTNの発現は, 接種葉がより下位の場合, 接種葉数あるいは接種部分がより少い場合には多少遅れたが, 一般に時間の経過と共に頂葉部全体に拡大した。しかしこのTN発現の様相には常に1つの規則性が認められた。すなわちTN発現初期には, 接種後最初に出た+1葉あるいは+2葉および第2葉にTNが出現するが, 接種時に最も若く未展開であった第1葉へのえそ斑の出現は前記の葉より必らず遅く, 一般に頂葉部全体にえそ斑が拡大する時期まで遅延した。3. N. glutinosaの先端部を切除した個体にGNVを接種した結果, まず接種葉側の上下のわき芽にえそ斑が出て枯死させたのち, 反対側のわき芽にえそ斑が現われるのが常であった。4. GNV接種葉におけるLLの形態は, 葉位が上位の場合ほど輪郭が鮮明で, 下位になるほど不明瞭となりウイルス局所化の不完全さを示した。なおLLの出現数は, 上位葉より下位葉になるに従って増加する傾向が認められ, さらに下位葉では上位葉におけるより出現日が遅れた。5. N. glutinosaの第7葉にGNVを接種し, 接種66時間後にLLが出現し始める条件下においては, 接種72時間後には接種葉からGNVはその葉柄にすでに移行しており, その移行したウイルスのみによってTNをひき起こし, さらにSNとなって植物を枯死させることが, 接種葉切断実験で明らかとなった。すなわちTNの出現および拡大は, 接種後の初期の1時期に到達したウイルスのみで十分であり, それらが頂葉部で増殖・拡大するものと考えられる。6. N. glutinosaの第7葉にGNVを接種し, えそ斑発現の前段階の状態にある接種4日後の+1葉, および頂葉部に広くえそ斑が拡大した7日後における+1葉からGNVを回収した結果, 接種4日後には非常に低濃度で, また7日後にはかなり高濃度でこの+1葉中にウイルスが存在することが確かめられた。7. 以上の結果から次のことが結論される。1) GNVがN. glutinosaにおいてLL&xrarr;TN&xrarr;SNをひき起こす機構は, TMVがN. rusticaにおいて示す現象と同じタイプに属する。2) 接種時に未展開であった第1葉はTNになりにくい。3) LL形成初期にウイルスは既に葉柄に移行しており, そのウイルス量のみでTNおよびSNをひき起こすことができる。4) TNの最初に現われる葉と接種葉との葉序的関係は無視できないが, すべての場合にそれを関連づけることは困難である。