- 著者
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宮錦 三樹
- 出版者
- 会計検査院
- 雑誌
- 会計検査研究 (ISSN:0915521X)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, pp.39-61, 2021-09-22 (Released:2021-09-28)
- 参考文献数
- 49
本稿は,公立大学の組織構成と財政負担の関係を検証した上で,2014~2018 年度の5 カ年にわたるパネル・データを用いて公立大学の費用関数を推定し,規模の経済性及び範囲の経済性の存在を検証する。 本稿の分析から得られた結論は,第一に,限界費用及び平均増分費用ともに,自然科学系教育(医学系・歯学系・理科系・保健系)が最も高く,人文社会科学系教育(人文科学系・社会科学系・家政及び芸術系),研究の順に続く。また,人文社会科学系教育に対する自然科学系教育のコスト比率は大学規模が大きくなるほど大きくなる。 第二に,規模の経済性については,自然科学系教育,人文社会科学系教育,研究のいずれに関しても個々の活動の規模の経済性が認められ,全体の規模の経済性も確認された。また,規模の経済性の効果はいずれも,大学規模とともに大きくなることが示された。このことは,わが国の公立大学が現状として規模による経済効率性を有しており,さらなる規模の拡大は財政効率の向上に寄与することを示唆する。ここから,大学統合などによる大規模化は,財政効率の観点からは,支持されることが示唆される。 第三に,範囲の経済性については,研究を除いて認められず,全体の範囲の経済性も確認されなかった。このことは,人文社会科学系教育と研究への特化や,自然科学系教育と研究への特化という公立大学の形態は,財政効率の観点からは支持されることを示唆する。研究については範囲の経済性が認められることから,いずれの領域であっても,教育活動から研究活動だけを分離させることは,財政的に非効率な状態を生む可能性がある。 以上の結果から,大学統合や学部・学科等の再編においては,自然科学系あるいは人文社会科学系のそれぞれの領域内での統合や拡大を模索するとともに,研究活動の機能を同時に持たせるということが,財政効率の観点からは支持されるインプリケーションとなる。