著者
宮﨑 雅人
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.287-303, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
32

本稿においては,1964年度における基準財政収入額算定に用いられる基準税率の引上げの背景にどのような要因が働いていたのかを分析した。分析の結果,基準税率の引上げは,恒常的に財政力の弱い市町村が市町村民税所得割の課税に際して負担の重い但書方式と超過税率を採用せざるを得なかったために生じた負担の不均衡と,それを解消するための課税方式の本文方式への統一という制度変更が要因となった可能性があることが示された。そして,この課税方式の統一は1963年に行われた総選挙に際して自民党が掲げた減税公約に基づいて行われたことも示された。これら一連の過程は,政党を媒介にした選挙を通じた地域間格差の是正を求める世論が財政制度変更の構想を実現の方向へと導く1つの要因となりうることを示している。しかし一方で,地方税負担均衡化の過程は租税負担水準の自己決定権の喪失過程でもあり,基準税率の引上げはその過程における政策の1つとしても位置づけられうる。