著者
遠又 靖丈 寳澤 篤 大森(松田) 芳 永井 雅人 菅原 由美 新田 明美 栗山 進一 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-13, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
16
被引用文献数
8

目的 介護保険制度の二次予防事業の対象者把握には,25項目の基本チェックリストを用いている。しかし,基本チェックリストによる要介護認定の発生予測能を実地に検証した報告は少ない。本研究の目的は,基本チェックリストの各項目や各基準について,要介護認定の新規発生に対する関連の程度とスクリーニングの精度を検証することである。方法 2006年12月に宮城県大崎市の65歳以上の全市民を対象に,基本チェックリストを含む自記式質問紙を配布した。有効回答者のうち要介護認定の情報提供に同意し,基本チェックリストの回答項目数が 2 項目以上で,ベースライン時に要介護認定を受けていない者を 1 年間追跡し,死亡•転出した者を除外した14,636人を解析対象とした。解析には性•年齢の影響を補正するために多重ロジスティック回帰分析を用い,基本チェックリストの各項目と二次予防事業の対象者の選定に用いられる各分野の該当基準に該当した場合のそれぞれで,1 年間の新規要介護認定発生のオッズ比と95%信頼区間(95%CI)を推定した。また各分野に関して,感度と特異度を算出し,Receiver operating characteristic (ROC)分析を行った。結果 二次予防事業の対象者の選定基準に該当する者は5,560人(38.0%),1 年間の要介護認定発生者は483人(3.3%)であった。基本チェックリストの全項目が,要介護認定発生と有意に関連した(オッズ比の範囲:1.45~4.67)。全ての分野の該当基準も,要介護認定発生と有意に関連した(オッズ比の範囲:1.93~6.54)。そして「二次予防事業の対象者」の基準のオッズ比(95%CI)は3.80 (3.02–4.78)であった。各分野のうち,ROC 曲線下面積が最も高かったのは「うつ予防•支援の 5 項目を除く20項目」であり,7 項目以上を該当基準にすると,「二次予防事業の対象者」の基準を用いた場合に比べ,感度は変わらないが(7 項目以上を該当基準にした場合77.0%,「二次予防事業の対象者」の基準を用いた場合78.1%),特異度は高かった(それぞれ75.6%,63.4%)。結論 基本チェックリストの各項目や各基準は,その後 1 年間の要介護認定の新規発生の予測に有用であった。しかし,項目や分野によって関連の強さや予測精度は異なり,基準値には改善の余地があった。
著者
成田 暁 中谷 直樹 中村 智洋 土屋 菜歩 小暮 真奈 辻 一郎 寳澤 篤 富田 博秋
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.157-163, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
18

目的 自然災害による身体的外傷がメンタルヘルスに与える影響に関する研究はこれまでにも報告されているが,軽度の身体的外傷においてもメンタルヘルスと関連するかはほとんど検証されていない。本研究は,東日本大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連を横断研究デザインにて検討することを目的とした。方法 宮城県七ヶ浜町と東北大学は,共同事業「七ヶ浜健康増進プロジェクト」において,東日本大震災後の町民の健康状態や生活状況を把握するための調査を実施している。本研究では,七ヶ浜健康増進プロジェクトが大震災から約1年後に行った調査に参加し,大震災に起因する外傷およびKessler 6項目心理的苦痛尺度(以下,K6)の全設問に回答した対象者のうち,20歳以上の男女3,844人(男性1,821人/女性2,023人)を解析対象とした。心理的苦痛(K6で24点満点中13点以上を「あり」,12点以下を「なし」と定義)を目的変数,身体的外傷の有無を説明変数とし,性,年齢,社会的要因,生活習慣を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った。軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連について,震災被害(近親者の喪失,人の死の目撃,家屋損壊程度)のそれぞれで層別化した解析も併せて実施した。結果 身体的外傷なしの群に対し,ありの群における心理的苦痛の多変量調整済みオッズ比は2.05(1.26-3.34)と有意な正の関連を示した。また,軽度身体的外傷(「擦り傷」,「切り傷・刺し傷」,「打撲・捻挫」)なしの群に対し,ありの群における心理的苦痛の多変量調整済みオッズ比は2.18(1.32-3.59)と有意な正の関連を示した。家屋損壊程度に基づく層別化解析において,家屋が半壊以下であった群では4.01(2.03-7.93)と有意な関連を示したが,大規模半壊以上の群では両者の関連は有意でなく,家屋損壊程度と軽度身体的外傷の間に有意な交互作用が示された(P for interaction=0.03)。結論 東日本大震災の甚大な被害を受けた地域住民約4,000人を対象に,大震災に起因する身体的外傷と心理的苦痛の関連を検討した。その結果,大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の間に有意な正の関連が認められた。心理的苦痛のハイリスク者を同定する上で,軽度身体外傷を有する者についても考慮する必要がある。