著者
成田 暁 中谷 直樹 中村 智洋 土屋 菜歩 小暮 真奈 辻 一郎 寳澤 篤 富田 博秋
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.157-163, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
18

目的 自然災害による身体的外傷がメンタルヘルスに与える影響に関する研究はこれまでにも報告されているが,軽度の身体的外傷においてもメンタルヘルスと関連するかはほとんど検証されていない。本研究は,東日本大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連を横断研究デザインにて検討することを目的とした。方法 宮城県七ヶ浜町と東北大学は,共同事業「七ヶ浜健康増進プロジェクト」において,東日本大震災後の町民の健康状態や生活状況を把握するための調査を実施している。本研究では,七ヶ浜健康増進プロジェクトが大震災から約1年後に行った調査に参加し,大震災に起因する外傷およびKessler 6項目心理的苦痛尺度(以下,K6)の全設問に回答した対象者のうち,20歳以上の男女3,844人(男性1,821人/女性2,023人)を解析対象とした。心理的苦痛(K6で24点満点中13点以上を「あり」,12点以下を「なし」と定義)を目的変数,身体的外傷の有無を説明変数とし,性,年齢,社会的要因,生活習慣を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った。軽度身体的外傷と心理的苦痛の関連について,震災被害(近親者の喪失,人の死の目撃,家屋損壊程度)のそれぞれで層別化した解析も併せて実施した。結果 身体的外傷なしの群に対し,ありの群における心理的苦痛の多変量調整済みオッズ比は2.05(1.26-3.34)と有意な正の関連を示した。また,軽度身体的外傷(「擦り傷」,「切り傷・刺し傷」,「打撲・捻挫」)なしの群に対し,ありの群における心理的苦痛の多変量調整済みオッズ比は2.18(1.32-3.59)と有意な正の関連を示した。家屋損壊程度に基づく層別化解析において,家屋が半壊以下であった群では4.01(2.03-7.93)と有意な関連を示したが,大規模半壊以上の群では両者の関連は有意でなく,家屋損壊程度と軽度身体的外傷の間に有意な交互作用が示された(P for interaction=0.03)。結論 東日本大震災の甚大な被害を受けた地域住民約4,000人を対象に,大震災に起因する身体的外傷と心理的苦痛の関連を検討した。その結果,大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の間に有意な正の関連が認められた。心理的苦痛のハイリスク者を同定する上で,軽度身体外傷を有する者についても考慮する必要がある。
著者
小暮 真奈 遠又 靖丈 周 婉婷 佐々木 公子 佐藤 佳子 青栁 友美 辻 一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.84-90, 2014 (Released:2014-05-30)
参考文献数
7

【目的】東日本大震災後における非常食対応マニュアルの実行状況と給食提供の早期再開との関連を明らかにすることを目的とした。【方法】仙台市内の全認可保育所123施設を対象として,質問票を配布し,全施設から回答を得た。非常食対応マニュアルの実行状況について,概ね実行できたと回答した施設をマニュアルが「実行あり」と定義し,それ以外を「作成・実行なし」と定義した。アウトカム指標は震災発生(金曜日)後の翌平日である3月14日(震災発生後3日)までに給食提供を再開した施設を「給食早期再開」と定義し,マニュアルが実行ありの施設の給食早期再開のオッズ比を推定した。【結果】マニュアルが実行ありの施設は29施設(23.6%)であった。マニュアルが作成・実行なしの施設に比べ,実行ありの施設の給食早期再開の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は6.99(1.28~38.29)であり,マニュアルが実行ありの施設は震災後3日以内に給食提供をした施設の割合が多かった。なお,3日以内に保育所を再開した施設に限定しても結果は同様であった。【結論】非常食対応マニュアルが実行ありの施設では,震災後に給食提供を早期に再開した施設が多かった。以上より非常食対応マニュアルの給食早期再開に対する有用性が示唆された。