著者
橋本 修二 川戸 美由紀 山田 宏哉 鈴木 茂孝 三重野 牧子 遠又 靖丈 村上 義孝
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.617-623, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
11

目的 国民生活基礎調査の世帯数と患者調査の推計患者数について,東日本大震災によって調査対象から除外された地域の補完を行った。方法 国民生活基礎調査において,東日本大震災によって調査対象から除外された2011年の岩手県・宮城県・福島県と2012年の福島県の世帯数について,前後の大規模調査年の情報を用いて線型内挿法で補完した。2011年における宮城県と福島県の推計患者数について,同年の患者調査(宮城県の石巻・気仙沼医療圏と福島県が調査対象から除外)と2012年の福島県患者調査,2011年と2012年の医療施設調査と病院報告を用いて補完した。結果 全国の世帯数(各年 6 月時点)における補完値は2011年で48,732千世帯,2012年で48,874千世帯であった。世帯構造別の世帯数において,2011年と2012年の調査値が前後の年次よりも大きく落ち込んでいたのに対して,両年の補完値には落ち込みがなかった。2011年10月の推計患者数の補完値は,全国で入院1,365.4千人と外来7,383.9千人,施設所在地が宮城県で入院21.2千人と外来130.0千人,施設所在地が福島県で入院22.0千人と外来108.8千人であった。調査値に対する補完値の比を性・年齢階級と傷病分類ごとにみると,全国の推計患者数ではほぼ1.02倍であったが,患者住所地が宮城県と福島県の推計患者数ではきわめて大きかった。結論 国民生活基礎調査の世帯数と患者調査の推計患者数の補完値を示した。年次推移の観察にあたって,補完の仮定を十分に考慮することが重要であろう。
著者
遠又 靖丈 辻 一郎 杉山 賢明 橋本 修二 川戸 美由紀 山田 宏哉 世古 留美 村上 義孝 早川 岳人 林 正幸 加藤 昌弘 野田 龍也 尾島 俊之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.679-685, 2014 (Released:2014-12-11)
参考文献数
10

目的 介護保険の統計資料を用いた研究において,健康日本21(第二次)の目標である「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」は,2011年から要介護 2 以上の認定者数が 1 年ごとに 1%ずつ徐々に低下した場合(健康寿命延伸シナリオ)に2020年に達成されうることが報告されている。本研究は,この健康寿命延伸シナリオを達成した場合の介護費・医療費の節減額を推定した。方法 要介護認定区分別の介護費・医療費(人口一人あたりの平均)の基礎資料として,介護給付費実態調査と宮城県大崎市の調査データを用いた。2011~2020年の自然経過(現状シナリオ)の要介護認定者数は,将来の人口構成が「日本の将来推計人口」のとおりで,年齢階級別の要介護認定者(要介護 2 以上で区分別)の出現割合が2010年と同じである場合とし推定した。次に,健康寿命延伸シナリオ達成による要介護認定者の減少人数を算出した上で,介護費・医療費の推定節減額を算出した。結果 各年次の要介護 2 以上の減少分がすべて「認定なし」に移行すると仮定した場合,2011~2020年の累計で 5 兆2,914億円が節減されると推定された。さらに要介護 2 以上の減少分がすべて「要介護 1」に移行すると仮定した場合,同期間の累計で 2 兆4,914億円が節減されると推定された。結論 健康日本21(第二次)の達成によって約 2 兆 5 千億円~5 兆 3 千億円の介護費・医療費の節減という,健康づくり政策の投資効果の目安が明らかとなった。
著者
榎 裕美 苅部 康子 谷中 景子 堤 亮介 長谷川 未帆子 田中 和美 髙田 健人 古明地 夕佳 岡本 節子 遠又 靖丈 長瀬 香織 加藤 すみ子 大原 里子 小山 秀夫 杉山 みち子 三浦 公嗣
出版者
一般社団法人 日本健康・栄養システム学会
雑誌
日本健康・栄養システム学会誌 (ISSN:24323438)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.31-42, 2023 (Released:2023-02-14)
参考文献数
16

目的:栄養マネジメント強化加算による栄養ケア・マネジメントの体制と取り組み、併設の通所サービスおよ び認知症グループホームにおける管理栄養士の関わり等について、インタビュー調査を実施し、今後の栄養ケ ア・マネジメントの推進および質の向上についての課題の整理を行うことを目的とした。 方法:対象は、良好な栄養ケア・マネジメントの取り組みが為されている特別養護老人ホーム5施設、老人保 健施設5施設に所属する常勤の管理栄養士(責任者)とした。インタビューガイドを用いたWEB インタビュー を行い、逐語録から概要表を作成した。 結果:栄養マネジメント強化加算は、経営面および実務を担う管理栄養士から高く評価され、多職種による週 3 回以上のミールラウンドは、多職種間の連携が強化されていた。認知症グループホームにおける栄養管理体 制加算算定は、職員の意識付けとなっていた。見えてきた課題として、介護支援専門員との連携不足、介護保 険サービスにおける管理栄養士の人材確保および人材育成が挙げられた。 結論:令和3年度介護報酬改定は、あらゆる側面で、栄養ケア・マネジメントの向上に寄与していた一方で、 人材育成などの喫緊の課題も明らかとなった。
著者
岡本 節子 古明地 夕佳 髙田 健人 長瀬 香織 苅部 康子 堤 亮介 谷中 景子 長谷川 未帆子 榎 裕美 大原 里子 加藤 すみ子 田中 和美 遠又 靖丈 小山 秀夫 三浦 公嗣
出版者
一般社団法人 日本健康・栄養システム学会
雑誌
日本健康・栄養システム学会誌 (ISSN:24323438)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.10, 2022 (Released:2022-09-26)
参考文献数
13

目的:令和3 年度介護報酬改定の6 か月後の介護老人福祉施設(特養)及び介護老人保健施設(老健)における栄養ケア・マネジメント(NCM)を担う常勤管理栄養士の業務時間調査から、NCM の課題を整理し、検討することを目的とした。 方法:介護保険施設220 施設の常勤管理栄養士を対象に、3 日間の10 分間ワークサンプリング方式の自記式業務時間調査票を令和3 年9 月に依頼をした。 結果:有効回答は特養34 施設の管理栄養士44 人、老健17 施設の管理栄養士27 人であった。1 施設あたりの平均常勤管理栄養士数は特養1.4 人、老健2.0 人となっていた。特養及び老健常勤管理栄養士の一日一人当たりの業務時間において『NCM に関する業務』が最上位の業務として位置づけられ、『給食に関する業務』は上位の2 割程度であった。 結論:管理栄養士の業務は従来の給食からNCM へと大きく転換していた キーワード:特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、栄養ケア・マネジメント、業務時間調査、給食
著者
遠又 靖丈 寳澤 篤 大森(松田) 芳 永井 雅人 菅原 由美 新田 明美 栗山 進一 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-13, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
16
被引用文献数
8

目的 介護保険制度の二次予防事業の対象者把握には,25項目の基本チェックリストを用いている。しかし,基本チェックリストによる要介護認定の発生予測能を実地に検証した報告は少ない。本研究の目的は,基本チェックリストの各項目や各基準について,要介護認定の新規発生に対する関連の程度とスクリーニングの精度を検証することである。方法 2006年12月に宮城県大崎市の65歳以上の全市民を対象に,基本チェックリストを含む自記式質問紙を配布した。有効回答者のうち要介護認定の情報提供に同意し,基本チェックリストの回答項目数が 2 項目以上で,ベースライン時に要介護認定を受けていない者を 1 年間追跡し,死亡•転出した者を除外した14,636人を解析対象とした。解析には性•年齢の影響を補正するために多重ロジスティック回帰分析を用い,基本チェックリストの各項目と二次予防事業の対象者の選定に用いられる各分野の該当基準に該当した場合のそれぞれで,1 年間の新規要介護認定発生のオッズ比と95%信頼区間(95%CI)を推定した。また各分野に関して,感度と特異度を算出し,Receiver operating characteristic (ROC)分析を行った。結果 二次予防事業の対象者の選定基準に該当する者は5,560人(38.0%),1 年間の要介護認定発生者は483人(3.3%)であった。基本チェックリストの全項目が,要介護認定発生と有意に関連した(オッズ比の範囲:1.45~4.67)。全ての分野の該当基準も,要介護認定発生と有意に関連した(オッズ比の範囲:1.93~6.54)。そして「二次予防事業の対象者」の基準のオッズ比(95%CI)は3.80 (3.02–4.78)であった。各分野のうち,ROC 曲線下面積が最も高かったのは「うつ予防•支援の 5 項目を除く20項目」であり,7 項目以上を該当基準にすると,「二次予防事業の対象者」の基準を用いた場合に比べ,感度は変わらないが(7 項目以上を該当基準にした場合77.0%,「二次予防事業の対象者」の基準を用いた場合78.1%),特異度は高かった(それぞれ75.6%,63.4%)。結論 基本チェックリストの各項目や各基準は,その後 1 年間の要介護認定の新規発生の予測に有用であった。しかし,項目や分野によって関連の強さや予測精度は異なり,基準値には改善の余地があった。
著者
大曽 基宣 津下 一代 近藤 尚己 田淵 貴大 相田 潤 横山 徹爾 遠又 靖丈 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-25, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
33

目的 健康日本21(第二次)の目標を達成するため,各自治体は健康課題を適切に評価し,保健事業の改善につなげることを求められている。本研究は,健康日本21(第二次)で重視されるポピュレーションアプローチに着目して,市町村における健康増進事業の取組状況,保健事業の企画立案・実施・評価の現状および課題について明らかにし,さらなる推進に向けたあり方を検討することを目的とした。方法 市町村の健康増進担当課(衛生部門)が担当する健康増進・保健事業について書面調査を実施した。健康増進事業について類型別,分野別に実施の有無を尋ねた.重点的に取り組んでいる保健事業における企画立案・実施・評価のプロセスについて自記式調査票に回答してもらい,さらに参考資料やホームページの閲覧などにより情報を収集した。6府県(宮城県,埼玉県,静岡県,愛知県,大阪府,和歌山県)の全260市町村に調査票を配布,238市町村(回収率91.5%)から回答を得た。結果 市町村の健康増進事業は,栄養・食生活,身体活動,歯・口腔,生活習慣病予防,健診受診率向上などの事業に取り組む市町村の割合が高かった。その中で重点的に取り組んでいる保健事業として一般住民を対象とした啓発型事業を挙げた市町村は85.2%,うちインセンティブを考慮した事業は27.4%,保健指導・教室型事業は14.8%であった。全体では,事業計画時に活用した資料として「すでに実施している他市町村の資料」をあげる市町村の割合が52.1%と半数を占め,インセンティブを考慮した事業においては,89.1%であった。事業計画時に健康格差を意識したと回答した市町村の割合は約7割であったが,経済状況,生活環境,職業の種別における格差については約9割の市町村が考慮していないと回答した。事業評価として参加者数を評価指標にあげた市町村は87.3%であったのに対し,カバー率,健康状態の前後評価は約3割にとどまった。結論 市町村における健康増進・保健事業は,全自治体において活発に取り組まれているものの,PDCAサイクルの観点からは改善の余地があると考えられた。国・都道府県は,先進事例の紹介,事業の根拠や実行可能な運営プロセス,評価指標の提示など,PDCAサイクルを実践するための支援を行うことが期待される。
著者
小暮 真奈 遠又 靖丈 周 婉婷 佐々木 公子 佐藤 佳子 青栁 友美 辻 一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.84-90, 2014 (Released:2014-05-30)
参考文献数
7

【目的】東日本大震災後における非常食対応マニュアルの実行状況と給食提供の早期再開との関連を明らかにすることを目的とした。【方法】仙台市内の全認可保育所123施設を対象として,質問票を配布し,全施設から回答を得た。非常食対応マニュアルの実行状況について,概ね実行できたと回答した施設をマニュアルが「実行あり」と定義し,それ以外を「作成・実行なし」と定義した。アウトカム指標は震災発生(金曜日)後の翌平日である3月14日(震災発生後3日)までに給食提供を再開した施設を「給食早期再開」と定義し,マニュアルが実行ありの施設の給食早期再開のオッズ比を推定した。【結果】マニュアルが実行ありの施設は29施設(23.6%)であった。マニュアルが作成・実行なしの施設に比べ,実行ありの施設の給食早期再開の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は6.99(1.28~38.29)であり,マニュアルが実行ありの施設は震災後3日以内に給食提供をした施設の割合が多かった。なお,3日以内に保育所を再開した施設に限定しても結果は同様であった。【結論】非常食対応マニュアルが実行ありの施設では,震災後に給食提供を早期に再開した施設が多かった。以上より非常食対応マニュアルの給食早期再開に対する有用性が示唆された。