著者
寺岡 久之 小林 純
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.574-587, 1977
被引用文献数
7

著者らは人の頭髪や内臓,農産物,土壌,河川中の浮遊物などを分析の対象として,エミッション・スペクトログラフ法による20余種類の金属元素の同時定量法の研究を続けて来た。<br>日本各地の理髪店と美容院から0.5&sim;5.0kgの頭髪(数百&sim;数千人分)を採集し,電気洗濯機に入れシャンプーと水で洗滌し,完全に均一な混合試料をつくった。その一部を450&deg;Cの電気炉で灰化し,その灰の僅か3mg(個人の一回の散髪量の半分程度に過ぎない)と内標準元素を含む炭素粉末17mgを混合して炭素電極に充填し,アルゴン・酸素雰囲気中の直流アーク(300V, 12A)で試料が完全に蒸発するまで燃焼させ,中間結像法によってアーク(4mm)の中央部分(1mm)のみを分光器スリットに入射させ,各金属のスペクトル線をフィルム上に撮影した。現像後,ミクロホトメーターを使用して25種の金属と内標準元素のスペクトル線の光強度を測定し,合成した標準試料から得られた検量線から各金属元素の濃度を定量した。<br>この方法によって日本各地の頭髪中に含まれる25種の金属元素量を把握しただけでなく,女性には男性に比べて灰量,Ca,Zn,Mg,Cu,Pb,Sr,Ba,Sn,Ni,Cd,V,Coが多く含まれ,逆にSiとAlは男性に多いことがわかった。また環境汚染との関係をも検討した結果,製鉄所付近の住民にはSi,Fe,Alが,亜鉛製錬所付近住民にはCdとPbが多く逆にPが少ないことがわかったが,Crによる汚染地区住民には高濃度のCrは検出されなかった。