著者
小坂田 文隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.98-105, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

脳は,ニューロンが多段階の階層構造をもつ複雑な生体情報処理システムである.この情報処理システムの中核を担うのは神経回路であり,神経回路の破綻は神経・精神疾患における様々な機能障害を引き起こす.我々は,狂犬病ウイルスの経シナプス感染能を利用した新規神経回路解析法を開発してきた.G欠損狂犬病ウイルスベクターは,①投射ニューロンを逆行性に標識できる,②特定のニューロンに入力する細胞群を標識できる,③神経接続と細胞形態との対応付けができる,④神経接続と回路機能との対応付けができることなどから,神経回路の構造と機能を解析する強力なツールとして急速に普及し始めている.本稿では,G欠損狂犬病ウイルスを用いた経シナプストレーシング法,ウイルス作製方法および哺乳類脳への適用方法を紹介する.
著者
小坂田 文隆
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.673-680, 2015-09-20 (Released:2016-09-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ヒトの脳はおよそ1,000億個もの膨大な数のニューロンが神経回路を形成することにより情報を伝達・処理し,複雑な高次脳機能を発揮する.その神経回路の破綻は,神経疾患や精神疾患などを引き起こす原因と考えられる.したがって,脳・神経回路の動作原理の解明,それに基づいた神経・精神疾患の病因解明および予防・治療法の開発は極めて重要な研究課題である.近年神経科学領域では大きな技術革新が起こり,二光子顕微鏡,Optogenetics, カルシウムや電位に感受性の蛍光タンパク質,ウイルスベクター,脳の透明化,ゲノム編集技術などが開発された.これにより不可能と考えられていた実験アプローチが可能になり,これまで解明できなかった科学的問いに答えることができるようになりつつある.本稿では,神経回路研究に有効な革新的解析技術を概説する.
著者
釡口 力 小坂田 文隆
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.56-65, 2023-06-05 (Released:2023-07-05)
参考文献数
43
被引用文献数
1

脳には膨大な数のニューロンが存在し,それらがシナプスを介して複雑に絡み合うことで神経回路システムを構築している.この神経回路で行われる情報処理が様々な脳機能の基盤となっていることから,神経回路の構造・機能をそれを構成する多様な神経細胞種と関連づけて理解することが脳の仕組みの理解へ繋がると考えられる.我々は神経回路を解析する手法として,経シナプス感染能を有する狂犬病ウイルスベクターを用いた神経回路標識法を開発してきた.近年では,分子生物学,光学,行動心理学,情報学などと組み合わせることにより,分子・細胞・回路・領域・行動を階層的に結びつけるマルチスケールな解析が可能になってきた.本稿では,G欠損狂犬病ウイルスベクターを用いた経シナプストレーシング法とその応用的な解析に焦点を当て,脳神経回路研究の展望について紹介する.