著者
八木 遥 山本 義貴 臼窪 一平 中村 友香 下山 あさ子 東 修司 田畑 裕和 稲垣 育宏 小寺 隆二 柴波 明男
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.490-495, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

入院患者は睡眠障害を生じる事が多く,睡眠薬の服用が必要となる事例は少なくない。現在わが国で用いられている睡眠薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬が多いが,筋弛緩作用や持ち越し効果などから転倒に至る危険性がある。従来の睡眠薬と異なる作用機序を持つオレキシン受容体拮抗薬(ORB)は筋弛緩作用を持たないとされており,安全面に優れていると考えられている。そこで,入院中に内服した睡眠薬の作用機序毎の転倒率を調査した。2017年4月1日~2017年12月31日で当院において転倒・転落があり,ORB,ベンゾジアゼピン系薬(BZD)及び非BZDを服用していた入院患者を対象とした。また,転倒発生前に各薬剤を服用していた患者を群分けし,転倒率を算出し比較した。対象患者のうち調査期間内の睡眠薬全処方人数は1,682人であり,全転倒件数は45件であった。睡眠薬の分類における転倒率は3群のうちORB群による転倒率が1.45%と最も低く,BZD群と比較して有意に低かった事から,ORBは転倒へ与える影響が小さい可能性が示唆された。また,非BZD群の転倒率においてBZD群と比較して有意に低かった事から,転倒予防についても考慮しBZDよりも非BZDを使用する事が望ましいと考えられた。また,転倒事例の患者に高齢者が多かった事から,転倒の危険因子を多数保有している患者が多かったと考えられ,睡眠薬を使用した事で転倒の危険性が増大した可能性がある。