著者
小山 靖人
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.129-139, 2022-05-16 (Released:2022-05-20)
参考文献数
10

2021年 4 月に改正されたGMP省令では,医薬品品質システム(PQS)に関する規定が新たに加えられた.品質システムはISO9001が提示する考え方であり,製品そのものの品質だけでは品質を保証したことにはならず,その製造が品質システムに基づいて実施されたということが品質保証の考え方の要点なのである.このISO9001の考え方を医薬品の開発から製品の終結まで,すなわちライフサイクルに特化したものが医薬品品質システムのガイドライン(ICH Q10)である.グローバルのGMPであるPIC/S-GMPはQ10の考え方を取り込んでおり,今般のGMP省令の改正の骨子はこのPIC/S-GMPとQ10の考え方にある.従って,GMP省令におけるPQS規定は医薬品の品質保証の核心であるといえる.GMP省令ではPQSは第 3 条の 3 に規定されており,その考え方をISO9001とQ10に即してまとめると次のとおりである.まず,省令における製造業者等という文言はQ10及びPIC/S-GMPにおける上級経営陣に相当する.上級経営陣並びに経営陣には医薬品の品質確保のための積極的な関与が求められており,昨今の製薬企業の品質に関わる不祥事で特に上級経営陣の責任が厳しく問われていることは周知のとおりである.次に,上級経営陣は品質方針を確立しなければならない.品質方針は従業員をはじめ社内外に周知徹底する必要がある.品質方針を達成するために,品質目標を規定し,経営陣が資源と訓練を提供し,品質目標に対して達成度を数値化した業績評価指標(PI)を確立して運用することが求められる.複数のPIはQuality Metricsとして統合され,製造所のPQSの実効性の評価の指標となる.その評価は最終的に上級経営陣によって評価される.これがマネジメントレビューであり,その目的は,過去を振り返り,品質課題を抽出し,後の改善につなげてゆくことにある.PQSでは,品質方針の確立からGMP活動を経て,その評価,マネジメントレビューに至る一連の作業をPDCAサイクルとして理解することが重要であり,このサイクルを回すことによって継続的改善が達成される.こうした製造所におけるPQSのあり方の概要を示す文書が品質マニュアルである.PQSがGMP省令に規定されたことによって,わが国の品質保証の体制は新たな段階に入ったといえる.より一層の医薬品品質保証の確立に向けて,今後の製薬企業の対応が期待される.
著者
小山 靖人
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

光学活性な有機化合物と無機化合物とを合理的に複合化することで、有用な機能性素子・素材が創出される。不斉有機金属触媒、分離分割材料、円偏光発光性材料などがこれらの代表的な例である。不斉場と無機物の合理的な複合化は、今後の革新的な素子・素材創製において重要なコンセプトであると言える。らせんポリマーは、その繰り返し構造間で生じる「空孔」や「溝」といった光学活性低分子には存在しない特異な不斉場を有する。そのためラセン高分子を機能性材料の土台として活用する研究が近年盛んに研究されている。こうした背景の下、我々は①高次構造が完全に片方巻きで、②様々な無機化合物と容易に複合化でき、③多彩な用途に利用することができ、さらに④ラセンの高次空間を外部刺激によって自在にコントロールできるような、「元素ブロックのラセン集積ツール」の開発を目的に研究を推進している。本研究では(i)元素ブロック材料を簡便に合成する新しい高分子合成法と(ii)汎用性・信頼性の高いラセン集積場の創製に分類して研究を実施しており、本年度は(i)、(ii)についてそれぞれ成果を得、発表した。結果として、(i)高分子ニトリルオキシド反応剤を用いる簡便な無機ガラス表面修飾法を見出し発表した。また2官能性ニトリルオキシドを用いる高分子連結法をこれまでに報告しているが、その分子連結点に蛍光性素子であるボロンエナミノケトネートを導入する方法論を開発し発表した。さらに(ii)については、糖鎖の剛直な片巻きらせん構造の有用性に着目した研究を推進し、天然由来の1,2-beta-グルコピラナンやアミロースの構造に化学的に手を加えることで、元素ブロックの集積に対し有用な土台となることを明らかとした。