著者
小川 太一郎 谷 一郎
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空學會誌 (ISSN:18835422)
巻号頁・発行日
vol.4, no.26, pp.675-679, 1937-06-05 (Released:2009-07-09)

最近の如く飛行機の速度が大きくなると,特にその急降下中には岐點壓が1,000kg/m2(速度450km/h)にも達することがあり,風防窓硝子の表面に於てこの1.6倍程度の壓力降下がある.このため窓硝子の破壞,離脱の恐れがある.これに對し,今日まで強度計算を勵行してゐないのは間違ひであり,この問題は將來飛行機の高速化と共に益々注意を要すべき問題となるものと思はれる.本文では(1)風防の窓硝子の強度計算に於て,如何なる運用負荷をとるべきかを風洞模型について測定した壓力降下より論じ,又(2)普通風防窓硝子として使用される安全硝子並びにプレキシ硝子の強度及び彈性に關する材料試驗の結果を述べた.これだけの資料があれば,設計の仕事としては等齊壓力を受ける矩形板として普通の強度計算を行ひ,その運用負荷時の最大應力が曲げの強さの半分(硝子に於ては彈性界はこれより高い)を超えないことを確めれば充分であり,強度規定には“窓硝子は急降の場合の風壓(岐點壓の1.6倍の負壓をとる)により離脱すべからず”といふ一項を新たに追加すればよい.本問題に關する風洞實驗結果から,密閉風防に鋭い稜をつくると,その部分に局部的に非常に大きい壓力降下が起ることが確められた.この意味からも風防の稜には出來るだけの丸味をつけるべきであらう.
著者
小川 太一郎
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告
巻号頁・発行日
vol.21, no.289, pp.71-146, 1944-04

本論文の第I編では,先づ横滑りを伴はない水平旋回飛行に對する運動方程式をたて,與へられた飛行機のバンク角の時間變化を基礎とし,旋回中の速度の時間變化を求め,次で旋回半徑,旋回角,旋回徑路,各舵角等を順次に算出し得る解析法を述べた.この解析法の計算例として,N. A. C. A.に於けるボート"O3U-1"偵察機の水平旋回飛行の實測結果を解析したが,速度變化が小さ過ぎて出た以外は實測結果と可成り良く一致した.この不一致の原因は上げ舵に伴ふ無意識的な上昇にあると考へられる.次に上記ボート"O3U-1"偵察機に對する計算の數値を參考とし,省略可能の項を出來るだけ省略し,計算を簡易化して實用的な解析法を作つた.この解析法を用ひて,再びボート"O3U-1"偵察機の實測結果を解析して見た.この結果も亦實測結果と可成り良く一致したので,之を實用解析法とした.第II編に於ては,第I編で得た實用解析法を基として,失速角を迎角變化の頂點とする-以下第1種と稱する-180°水平旋回飛行の計算法を2通り案出した.計算方法其の一は豫め初速度と初めの補助翼の操舵量と旋回中の最大バンク角とを與へ,更に補助翼の當て舵の量,或は最大バンク角の繼續時間,或は旋回中に許すべき最大揚力係數の何れか一つを指定して,旋回中の諸數値を算出する方法である.計算方法其の二は,初速度と初めの補助翼の操舵量とを與へ,最大バンク角の繼續時間と旋回中に許すべき最大揚力係數とを指定して,旋回中の諸數値を算出する方法である.前者は,旋回條件を種々變へて,その影響を調べようと云ふ場合,或は與へられた飛行機の或る速度での最良の旋回性能を算出しようと云ふ場合等に用ひられる方法であつて,後者より幾分計算が簡單である.後者は,實際の補助翼操舵状況の分つてゐる飛行機に於て,その操舵状況に似た操舵角變化を與へ,それによつて,180°水平旋回飛行を計算し,實測結果と比較してみようと云ふやうな場合,或は操舵形式を一定として置いて,旋回條件を種々變へ,それによつて,最大加速度やその他の旋回状況が如何に變化してくるかを調べようと云ふ場合等に用ひられる方法である.計算方法其の二によつてボート"O3U-1"偵察機の180°水平旋回飛行を計算してみた.その結果,速度,旋回角以外の諸數値の時間變化曲線に滑かでない部分が出るが,大體に於て實測結果と良く一致することが明らかとなつた.之等の計算方法を用ひ,旋回條件を種々變へて,ボート"O3U-1"偵察機(全備重量1.84瓲),A双發陸上機(全備重量9.0瓲),B陸上機(全備重量9.0瓲),及びC陸上機(全備重量1.44瓲)の大小4機種について180°水平旋回を精しく調査して,旋回性能向上の指針とした.更に180°水平旋回に入る時の限界初速度の求め方,及びこの限界初速度より旋回に入る急速180°水平旋回飛行の極く簡單な略算法を與へ連續旋回について考察した.又旋回角と旋回中の最大加速度とを與へて,旋回に入るときの限界初速度,平均旋回半徑,旋回時間等を簡単に讀取り得る圖表の作り方を述べ,C陸上機についての一例を示した.この結果最小旋回半徑を基準とする翼荷重の決定法を與へて初期設計の参考とした.第III編では失速角保持の一以下第2種と稱する一旋回飛行の計算法を述べ,この第2種の方が旋回性能向上の見地から第1種よりも有利であることを結論した.終りに,從來より設計に際して廣く用ひられてゐる定常圓運動としての旋回運動の計算結果と本計算方法による計算結果とを比較してみた.その給果,從來の定常圓運動としての計算方法は,一般に180°水平旋回性能の計算には適用出來ないことを明らかにした.第IV編では斜平面旋回といふ新しい考へ方を導入した.先づこの旋回の計算法について述べ,次に水平面内の旋回のみを考へれば,バンク角90°といふ垂直旋回は理論上實在し得ないものであるが,斜平面旋回の頂點では,バンク角は90°以上にもなり得ることを示した.旋回性能向上の見地からも,この斜平面旋回は極めて重要な意義をもつ.第V編では下げ翼による旋回性能の向上について論じた.