著者
小川 義博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.85-93, 1974-03-29

肢体不自由児の教育を考える時、普通学校で教育されるべきか、養護学校で教育されるべきかの決定は非常に難しく、そして児童の将来にとって重要な問題であると考えられる。特に脳性まひ児は合併障害のため、その決定は一層複雑で、困難な問題である。そこで、普通学校で教育を受けている脳性まひ児の実態とその問題点を調査し、今後の脳性まひ児の教育を考える一助としたい。調査方法は普通学校に通学している脳性まひ児61名の父兄に入学期の問題、家庭生活、日常生活動作能力、学校生活についての調査用紙を現在の担任教師に学校生活全般についての調査用紙を配布して行なった。調査は昭和48年7月から9月の期間であった。主な調査結果は以下のとおりであった。1.回答率は父兄77%、担任教師62%であった。2.児童の病型はSpastic型75%で、Athetotic型25%であった。入学時の能力は平均IQ99.6、下肢運動能力年令35.2ヵ月であり、障害は非常に軽度であった。3.多くの父兄は障害が軽度であることを理由に、普通学校入学を希望したが、学校側は障害程度に関係なく53%に拒否的で、58%に入学を認めるための条件を求めた。4.日常生活動作能力は歩行・書字が劣っているが、他の面はほとんど自立していた。しかし70%の児童が通学、校外行事等に父兄の附添いを必要としていた。5.健康状態に問題なく、89%の父兄が児童の精神面での成長を評価し、普通学校の生活に満足していたが、機能訓練、障害の診察を受けていない児童がほとんどであった。6.教師の95%が危険の防止を理由にかなり負担を感じており、そして機能障害だけでなく精神発達遅滞を教師の34%が問題であると判断していた。7.学習成績は知的能力と関係があったが、下肢障害の程度とは関係なかった。学習場面では下肢の障害より、上肢障害と随伴障害が問題となっていた。8.教師は脳性まひ児の存在を学級経営上で悪い影響より、他人への態度、障害者への関心での良い影響の方が多いと判断していた。9.ほとんどの児童は今後も普通学校で教育を受けた方が良いと判断されていたが、IQ90以下の児童は養護学校、特殊学級の方が望ましいと判断されていた。このように障害が軽度の脳性まひ児であったにもかかわらず、その学校生活には多くの問題をもっていた。今後より多くの脳性まひ児が普通学校で教育されるために、身体の機能障害の面には当然のこと精神発達の面に充分な配慮がなされなければならないと考えられる。