- 著者
-
山崎 孝治
小木 雅世
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
北極振動または北半球環状モード(Northern Hemisphere annular mode : NAM)は冬季北半球で卓越するモードであるが、その季節変化は十分調べられていなかった。当研究では、客観解析データを用いて、北半球の月平均・帯状平均高度場の主成分分析を各月ごとに行うことによって各月ごとに卓越する環状モードを抽出した。それにより夏季のNAMは冬に比べて南北スケールが小さく北極側にシフトしており、対流圏に閉じられたモードであることがわかった。2003年夏、ヨーロッパは熱波に襲われた一方、日本は冷夏であった。このときの気象状況を夏のNAMという観点から解析した。7月初めまでは夏のNAMはやや負であったが、7月中旬〜8月中旬に大きな正となった。このとき、ヨーロッパでは高気圧偏差が卓越し、大気下層気温は大きな正偏差となった。一方、東シベリアでも大きな正の高度偏差となり、オホーツク海高気圧が発達した。このため日本では冷夏となった。NAMが大きな正であった期間には北半球の対流圏上層でダブルジェット構造となったが、その成因を波と平均場の相互作用の観点から解析した。その結果、擾乱が低緯度に伝播し波の運動量輸送により高緯度のジェットを加速しダブルジェット構造を生成することが明らかになった。このダブルジェット構造の北極海沿岸のジェットに沿って欧州からロスビー波が伝播し、東シベリアで砕波し、オホーツク海上空にブロッキング高気圧を形成したため、日本付近での異常気象が持続した。夏の異常気象を理解するうえで、夏のNAMが有益な概念であることが示された。NAMの冬と夏のリンクに関しては、ユーラシアの雪だけでなく、成層圏オゾンの輸送を通じたリンクがあることが示唆された。