著者
長谷部 文雄 塩谷 雅人 藤原 正智 西 憲敬 荻野 慎也 宮崎 和幸 柴田 隆 山崎 孝治 岩崎 俊樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

ゾンデを用いた現場観測により熱帯成層圏水蒸気量の長期トレンドを明らかにするとともに、熱帯対流圏界層(TTL)内を水平移流しながら巻雲を形成し凝結脱水中の大気の対氷過飽和度が80%に達する事例を見出した。また、観測された大気の水蒸気混合比とその大気の流跡線に沿って上流へ遡ることにより評価される最小飽和水蒸気混合比との比較解析により、TTL内を水平移流しながらゆっくり上昇する大気に働く脱水過程の観測的記述に初めて成功した。
著者
山崎 孝治 小木 雅世
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

北極振動または北半球環状モード(Northern Hemisphere annular mode : NAM)は冬季北半球で卓越するモードであるが、その季節変化は十分調べられていなかった。当研究では、客観解析データを用いて、北半球の月平均・帯状平均高度場の主成分分析を各月ごとに行うことによって各月ごとに卓越する環状モードを抽出した。それにより夏季のNAMは冬に比べて南北スケールが小さく北極側にシフトしており、対流圏に閉じられたモードであることがわかった。2003年夏、ヨーロッパは熱波に襲われた一方、日本は冷夏であった。このときの気象状況を夏のNAMという観点から解析した。7月初めまでは夏のNAMはやや負であったが、7月中旬〜8月中旬に大きな正となった。このとき、ヨーロッパでは高気圧偏差が卓越し、大気下層気温は大きな正偏差となった。一方、東シベリアでも大きな正の高度偏差となり、オホーツク海高気圧が発達した。このため日本では冷夏となった。NAMが大きな正であった期間には北半球の対流圏上層でダブルジェット構造となったが、その成因を波と平均場の相互作用の観点から解析した。その結果、擾乱が低緯度に伝播し波の運動量輸送により高緯度のジェットを加速しダブルジェット構造を生成することが明らかになった。このダブルジェット構造の北極海沿岸のジェットに沿って欧州からロスビー波が伝播し、東シベリアで砕波し、オホーツク海上空にブロッキング高気圧を形成したため、日本付近での異常気象が持続した。夏の異常気象を理解するうえで、夏のNAMが有益な概念であることが示された。NAMの冬と夏のリンクに関しては、ユーラシアの雪だけでなく、成層圏オゾンの輸送を通じたリンクがあることが示唆された。
著者
田中 博 山崎 孝治 伊藤 久徳 森 厚 向川 均 山根 省三
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

近年の異常気象や地球温暖化の研究において、北極振動が特に注目されている。初年度の平成18年度には、2006年7月8-9日に第1回北極振動研究集会を筑波大学で開催し、約30名の参加を集めて最新の情報提供や活発な議論が行われた。研究代表者は2007年2月19-20日にアラスカ大学で開催された第7回極域気候変動に関する国際会議(GCCA-7)に主催者のひとりとして参加し、北極振動研究に関するレビュー講演を行った。2007年3月2-3日には筑波大学で第2回北極振動研究会を開催し、約40名の参加者を集めて、研究成果報告と今後の研究計画について議論した。2年目の平成19年度には、5月に開始された地球惑星科学連合大会で「北極域の科学」ユニオンセッションを企画して、研究成果報告を行った。そして日本気象学会の査読付き国際学術誌である気象集誌の12月号に、北極振動研究の成果を集めた「北極振動特集号」を企画し、本研究実績のまとめとして12編の論文およびノートが発刊された。北極振動は、任意の定常外力に共鳴して起こる大気大循環の力学的な特異固有モードとして理解される一方で、それを励起する太平洋と大西洋のストームトラックの活動が互いに独立に大振幅でNAOとNPOのテレコネクションを励起するため、統計的な見かけのモードに見えるという理解に至った。
著者
藤吉 康志 川島 正行 山崎 孝治 塚本 修 岡本 創 杉本 伸夫 三浦 和彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

当該研究期間、2002年と2004年の2回、北極海上に発生する雲と降水システムの総合的な観測を実施した。まず、北極海に出現する大きな気象擾乱には、背の低いタイプと背の高いタイプがあり、前者は北極海起源、後者は北太平洋起源の低気圧であるとを示した。次に、北極層雲の水平構造を調べ、対流性と層状性の構造の2つの水平パターンが存在することを見出した。この結果は、詳細な数値モデルによるシミュレーションの結果と整合的であった。また、雲レーダーを用いた観測で、雲の鉛直構造を明らかにし、雲頂高度がほぼ-45℃に存在すること、2km以下と5km付近の2高度で雲の出現頻度が高いこと、更に、北極海では雲は多層構造を示していることなどを明らかにすることができた。さらに、雲レーダーとライダーと組み合わせるアルゴリズムによって、雲粒の粒径分布も求めることができた。海洋と大気との乱流フラックスも実測し、放射収支と合わせて、北極海での熱収支を見積もることができた。また、客観解析データとレーダーデータを基に、北極域での水収支とその季節変動も見積もることができた。更に、エアロゾル-海洋-大気-雲の相互作用を新たに見出した。これは、海水温の変化と、海起源の雲核の数濃度や大気境界層内の雲の発達とが良く対応していることを観測事実として示したもので、北極海上における下層雲の形成過程が、温暖化に伴う海水温変化に影響を受けることを示した画期的な成果である。以上の成果は、国内外での学会で発表し、他国の研究者から高い評価を受けた。更に、熱帯・中緯度との観測結果との比較も行い、2012年にESA(Europe Space Agency)とJAXAとで共同で打ち上げ予定の雲観測衛星(EarthCARE)の科学的基礎データとしての重要性を強調した。
著者
塩谷 雅人 西 憲敬 長谷部 文雄 山崎 孝治
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

この研究課題では,熱帯域のオゾンと水蒸気の分布に注目し,大気微量成分の放射・光化学的な影響を評価する上で鍵となる成層圏と対流圏間の物質交換過程について,おもに全球および定点観測データや数値モデルをもちいた研究をおこなった.さらに,熱帯域における観測データの不足を補うために,オゾン・水蒸気ゾンデ観測を実施した.この観測キャンペーンは,過去4年間にわたり,熱帯の西部・中部・東部太平洋域の3地点でのべ18回(熱帯東部太平洋における船舶からの観測を1回含む)にのぼる.同時に,上部対流圏から下部成層圏における簡便な水蒸気観測をおこなうために,高精度で高感度な鏡面冷却方式露点/霜点温度計("Snow White")の開発改良を海外の研究者と共同でおこなってきた.これらの研究活動の主な成果は,以下のような論文として取りまとめられている.1)観測キャンペーンで得た水蒸気ゾンデデータにもとづき,これまで観測のなかった熱帯対流圏界面領域での水蒸気変動の季節性,地域性を明らかにした(Voemel et al.,2002).2)東太平洋域での水蒸気ゾンデデータから,圏界面付近のケルビン波が成層圏の水蒸気量を規定している可能性を示唆した(Fujiwara et al.,2001).3)全球データおよび大気大循環モデルを用い,熱帯対流圏界面の気温と鉛直流のENSOのシグナルを抽出しそのメカニズムについて考察した(Hatsushika and Yamazaki,2001).4)熱帯東太平洋で船舶から世界ではじめてのオゾンゾンデ観測をおこない,そこでの対流圏オゾン変動を明らかにした(Shiotani et al.,2002).5)鏡面冷却型水蒸気センサ'"Snow White"を既存のさまざまな水蒸気センサーと相互比較することによって,そのパフォーマンスを明らかにした(Fujiwara et al.,2003;Voemel et al.,2003).