著者
大髙 理生 中島 健 吉田 晶子 鳥嶋 雅子 川崎 秀徳 山田 崇弘 和田 敬仁 小杉 眞司
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.84-93, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
22

遺伝性腫瘍診療では,診断後発端者に血縁者への情報共有を推奨するが,困難な場合がある.欧米では受診勧奨の研究があるが,本邦の実態は不明である.2020年より遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)は遺伝学的検査が保険収載され,血縁者への対応も求められる.本研究はHBOC患者血縁者への情報共有と受診勧奨の施設での課題抽出を目的とし,乳房悪性腫瘍の治療実績国内上位100施設を対象に質問紙調査を行った.初回調査で回答を得た44施設(44%)のうち5例以上のHBOC診断数の31施設を対象とし29施設(94%)から二次調査回答を得た.26施設(90%)で血縁者のリスク説明は実施だが,発端者家系に特化した資料配布は17施設(59%)で未実施であった.課題は,「未発症血縁者のサーベイランスが保険適用外」「血縁者と疎遠な関係性」であった.受診勧奨支援は施設間差を認め,その解決には多角的な検討が必要と考えられた.
著者
万代 道子 秋元 正行 高橋 政代 小杉 眞司
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

網膜色素変性の病態理解を深めるために、遺伝学的、免疫学的、各種臨床検査の結果などのデータを蓄積することにより、多面的な病態解析を試みた。まず、変性HPLCに基づくスクリーニング及び直接シークエンスによる確認を行うことにより、労力、経費を効率化して30に及ぶ原因候補遺伝子を網羅的に調べる遺伝子診断システムを確立した。この方法を用いて、典型的な色素変性患者250名を対象に遺伝子診断を行い、これまでに30症例において、疾患原因候補の遺伝子変異を検出した。これは、遺伝形式には無関係に遺伝子診断を行ったが、原因遺伝子の検出頻度が最も高いとさえる優性遺伝に限定した報告とほぼ同頻度の良好な検出率であった。また、検出された遺伝子のプロファイルもこれまでのわが国における報告と相同性が高く、スクリーニングとしての機能は十分果たしていると思われた。また、免疫学的アプローチとして網膜色素変性類縁疾患である自己免疫網膜症の原因の一つともされるリカバリン血清抗体価を加齢黄斑変患者を対照群として調べたところ、網膜色素変性患者において抗体価の上昇がみられた。特に抗体価の高い症例においては眼底所見に比べ強度の視野狭窄の進行や一時的に急激な悪化時期の存在など、二次的な自己免疫機序が網膜色素変性の進行をさらに修飾している可能性が示唆された。さらに臨床画像診断の多面的解析において、色素変性患者では、健常な色素上皮細胞の存在を示唆する自発蛍光を有する領域が、高解像度網膜光干渉断層像(OCT)で観察される健常な視細胞領域と一致するものと一致しないものとが観察され、前者では色素上皮と視細胞の変性がほぼ同時進行していると考えられるのに対し、後者においては視細胞の変性が先行し、変性の激しい領域で色素上皮からの自発蛍光が高輝度となっている可能性が考えられた。これらは色素変性において相互依存的である「視細胞-色素上皮」コンプレックスとしての変性過程が一様でないことを示唆していると思われた。