著者
鍵 裕之 服部 高典 町田 真一 小松 一生
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

水素結合ネットワークの多様性から、氷には多くの多形が存在するが、低温高圧下で自在に圧力を制御して中性子回折を測定することはこれまで不可能であったため、高圧氷の構造や物性には多くの未解決問題が残されてきた。本研究では革新的な低温高圧発生装置を開発し、低温条件で自在に圧力を制御しながら低温高圧下での中性子回折測定を行うことを計画し、昨年度までに到達下限温度を拡大した新たな低温高圧発生装置の製作に成功した。本装置を大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に建設された高圧中性子回折ビームライン(PLANET)に持ち込んで、低温高圧条件での中性子回折測定実験を行った。本年度の大きな成果は二つである。第一に低温高圧下で存在する氷XV相の直接観察に成功し、氷XV相は異なる水素配置が混合した“部分秩序状態”にあることを初めて明らかにし、氷研究における五大未解決問題の一つを解決した。本研究によって発見した部分秩序状態は、氷XV相だけでなく他の形の氷でも発見される可能性があり、氷の多様性の理解に新たな視点を与えるものである。また、高濃度の塩を含む氷の高圧相を合成し、高圧下での中性子回折法および分子動力学法を駆使してその構造を解明した。合成された高濃度の塩を含む氷は、氷VII相と同様の酸素配置をとるが、水分子の向きについては氷VII相と違ってほぼ等方的であり、水素結合ネットワークの多くが破壊されていることを見出した。このような等方的に配向した水分子や破壊された水素結合ネットワークは、他の氷の多形には見られない特異な状態であり、新奇な物性の発現が期待される。中性子回折関係の研究に加えて、微量な塩を含む高圧氷の構造に関する振動分光学的研究、アミノ酸の圧力誘起オリゴマー化と凍結濃縮といった関連研究でも成果を得ることができた。
著者
小松 一生
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.190-197, 2020-08-31 (Released:2020-09-03)
参考文献数
96
被引用文献数
2 1

For recent two decades, a much greater understanding of crystal structures of ice polymorphs has developed owing to neutron diffraction under high-pressure. Here I review a brief history for the discoveries of ice polymorphs, technical developments of high-pressure neutron diffraction, and recent achievements for ice polymorphs. Remained open questions are also discussed.