- 著者
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小林 岳人
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.100008, 2014 (Released:2014-03-31)
現代社会のあらゆる諸活動が安全かつ効率的であるためには、確実なナヴィゲーションが根幹に存在している。諸活動において「移動」は必須である。ナヴィゲーションでの失敗、いわゆる「道迷い」は、多くの諸活動において深刻な問題を引き起こす。道迷いは災害時や遭難などでは、命にかかわる問題となる。先の東日本大震災など自然災害に見舞われることが多い日本においては人々にとってナヴィゲーションは不可欠な技術であり、人間にとって「生きる力」、つまりライフスキルそのものである。こうしたことから、ナヴィゲーション技術は、学校における教育活動の中に位置づけることが必要である。これは、地理の学習指導要領の中の地図の学習に盛り込まれているように、地理教育に位置付けることがふさわしい。しかし、地理教育においてナヴィゲーションの学習に関する蓄積は乏しい。新学習指導要領実施に伴い、ナヴィゲーションの学習についての授業実践、教材開発、教育研究は喫緊の課題である。ナヴィゲーションの学習を地理学習の中で効果を上げるための方策として、ナヴィゲーション技術を競い合うオリエンテーリング競技からの知見を活用した。学習者はナヴィゲーション技術における効果を実感した。しかし、実践が選択科目クラスであり20名程度の少人数であるようにこの授業実践は限定された状況下でのものであった。今回の授業実践は発表者が受け持っている千葉県立松戸国際高等学校第1年次地理A受講者男子58名女子107名計165名及び第3年次地理B受講者男子12名女子20名計32名の合計197名を対象として行った。より普遍性を伴った授業実践にするためには、クラス単位の必修科目を念頭に従前の実践のほぼ2倍の人数である40人程度の生徒を対象にしての実践が可能であるかを見極めることが必要である。男女別の2種類のコースとして2名が同時にスタートすることによって、人数が増加した分も授業時間内での実施が可能となる。これは、コントロールの設置数の増加や地図印刷等については事前に十二分に準備時間をとることによって対応する。よって、スタートの処理とフィニッシュ後の処理が速やか行えるかが見極め点となる。これらについては第1年次の地理の授業実践にて見極めることができた。オリエンテーリング競技では地図を読みながら具体的に移動を伴うため、読図能力(技術力…知力)と移動能力(走力…体力)が問われる。そこで、移動能力を長距離走の能力、読図能力を地理の考査得点とそれぞれ対応させ、これらとオリエンテーリングの競技結果の関係を求めた。まず、各回の完走者と失格者それぞれの地理の考査の平均得点を比較した。男子では有意な結果は出なかったが、女子では完走者の地理の考査の平均得点が失格者よりも明確に上回った。次に完走者についてオリエンテーリングの各回の所要タイムと持久走及び地理の考査得点との相関関係を算出した。男子では地理の考査得点との相関関係が有意になった。女子では初回は地理の考査得点との相関関係が有意であったら、2回目以降は持久走との相関関係が有意になった。地理考査得点がナヴィゲーションに大きく関与している。女子ではまず完走するには地図読図能力が影響する。そして、完走者の中では持久走の能力が所要タイムに影響し、回を重ねるにつれてその影響は大きくなる。男子では地理の考査得点が所要タイムに大きく影響する。校内敷地という生徒にとって、よく知っているような場所にも関わらずこのような結果が得られたことは、地図の学習がいかに重要かを重く受け止める必要があろう。ただ、ナヴィゲーション技術は地図読図能力と移動能力それぞれを鍛えればよいということではない。相関係数の値からもわかるように説明力はそれほど大きくはない。移動しながら情報処理をする能力がナヴィゲーション能力である。ナヴィゲーションという野外でのスキルの習得が、学校内で通常の授業時間内での活動によって可能であり、効果的であるということの意義は大きい。学習指導要領解説地理の「見知らぬ土地を地図をもって移動すること」の真の意味での実践は、校外での活動にある。例えば宿泊を伴う林間学校のような活動や日帰りの遠足のような活動での一つとしてオリエンテーリング実習をすることなどがあたる。今回の研究の成果として、こうした活動における事前学習が校内でも十分に可能であるという点もあげられる。実際に授業での実習を経験した生徒の多くが他のところで是非オリエンテーリングをやってみたいと思っている。また地理の授業でオリエンテーリングというスポーツ競技を行うことによって持久力向上をめざす学習において保健体育科とのクロスカリキュラム的な効果やコラボレーションの可能性も追求できた。地理学習の他、他教科、校外活動、日常的な行動等に及ぶ有益な学習となるだろう。