- 著者
-
小林 映子
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.10, pp.961, 2020 (Released:2020-10-01)
- 参考文献数
- 4
妊婦への解熱鎮痛剤の使用について,NSAIDsは流産との関連性を示唆する報告や,胎児動脈管早期閉鎖との関連性によって妊娠後期は禁忌とされ,注意喚起されている.一方でアセトアミノフェンは,より安全性が高いとされ使用経験は多く,欧米では妊婦の半数以上に使用経験があるといわれている.妊娠後期の使用における胎児動脈管への影響との因果関係は認められていないとされているが,ヒトでの研究から胎盤を通過し長期間胎児の血液循環に残るとされる.近年,注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム(ASD)との関連を示唆する多数の前向きコホート研究の結果が示され,欧米で大きな話題となった.さらにメタ解析によっても胎児曝露との有意な関連性を示した.妊婦の医薬品使用による胎児へのリスク評価については,倫理的視点から介入試験ができないことにより,観察研究の結果に情報が限定されるため正確な評価が難しい.ADHDやASDとの関連性に関するこれまでの研究も,ほとんどが母親の自己申告情報に基づくものであった.そこで今回,子宮内での胎児のアセトアミノフェン曝露による影響を明らかにする目的で,出生時の臍帯血漿中濃度と児の疾患診断との関連性について前向きコホート研究を実施した.特に,本研究は以前の研究で指摘されてきたエビデンスとして用いる上での制限や方法論的懸念に対応すべく研究デザインが設定された.その結果,ADHDおよびASDのリスクに有意な正の相関が確認され,用量反応性も認められたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Dathe K. et al., BJOG, 126, 1560-1567(2019).2) Ystrom E. et al., Pediatrics, 140, e20163840(2017).3) Masarwa R. et al., Am. J. Epidemiol, 187, 1817-1827(2018).4) Ji Y. et al., JAMA Psychiatry, 77, 180-189(2020).