著者
中澤 潤 小林 直実
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. I, 教育科学編 (ISSN:13427407)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.119-126, 1997-02-28

事象や行為の時系列的な知識はスクリプト(Schank & Abelson,1977)や一般的事象表象(Generalized event renresentation:GER; Nelson,1986)とよばれる。スクリプトは,「特定の時空間的な文脈に適切な,順序だてられ目標に組織化された行為の流れ」と定義される(Schank & Abelson,1977)。スクリプトは目標(例えばレストランスクリプトであれば,食事をする)の達成に関わる登場人物(ウエイターやウエイトレス,食べる人),行為(入る,座る,注文する,食べる,支払う),小道具(メニュー,食器,請求書,お金やクレジットカード)といった要素からなる。そしてスクリプトにはスロットが想定されており,登場人物や小道具,行為が明示されていないとき,これらを推論できるようなデフォルトがそのスロットに入っている。そのため,レストランの話を聞いた人は,明示されていなくてもそこにメニューがあることをデフォルトから推論できる。またスクリプトには状況に応じて多様なパスがある。外食スクリプトにおいて,支払は重要な要素だが,高級なフランス料理のレストランとマクドナルドのようなファーストフードでの支払い方は異なる。このようなスクリプトの差異を子どもは経験を通して形成していくものと考えられる。スクリプトは人が持つスキーマの一つである。それは他のスキーマと同様に,階層をなしている一般的な構造である。階層構造については,例えば幼稚園生活のスクリプトの中にはお弁当のスクリプトやお帰りの会のスクリプトが下位構造として埋め込まれている。またスクリプトは一般的であるが故に,多様な状況に適用可能である。一方,スクリプトが他のスキーマと異なる点は,その基本要素が行為であるということと,行為の間に時間的因果的結合があるという点である。さて,人はスクリプトを持つことにより,上述のように,情報の欠けたメッセージからもその背景を推測できる。スクリプトに従うことでごっこ遊びにおいてルーチン的なやり取りのパターンを構成することもできる。また,幼稚園や保育園などでは園生活のスクリプトの獲得が園での適応に繋がる(藤崎,1995;無藤,1982)。例えば,中澤・鍛治・石井(1995)は幼稚園のお弁当活動における教師の発語を分析し,教師は入園当初お弁当活動におけるスクリプト形成を促す発語が多いことを見出した。生活上のスクリプトを初期に形成させることで幼稚園生活への適応援助を行っているといえる。このようにさまざまな観点から,こどものスクリプトや一般的事象表象の形成やその利用に大きな関心が持たれている(Fivush & Hudson,1990;Hudson,1993;Nelson,1986)。幼児は抽象的な知識の伝達から学ぶ存在ではなく,具体的な日常体験から学ぶ存在である。中澤・小林・亀田・鍛治(1993)は遠足体験が重なることにより,幼児の遠足知識が次第に一般的事象表象化していくことを示した。このような,日常体験を基にした事象知識の獲得やスクリプトの形成過程は,その意味で幼児期の認知機能の解明にとって重要な課題である。幼稚園で初めて経験することに,集団で行う活動がある。入園以前,個々の家庭で過ごしていた生活は,入園と共にその園・クラスにおける集団生活に変る。例えば,「食事をする」ことは家庭でも幼稚園でも行われていることで,食べる行為そのものは共通している。しかし幼稚園の食事は自分たちで食べる準備をして,みんなでそろっていただきますのあいさつをし,食べ終わってからはお片付けをしなければならない。その内容は家庭での食事とは大きく異なるであろう。このように,子どもはそれまでもっていた家庭での生活パターンから幼稚園における生活パターンを作るために,新たな知識を獲得していかなくてはならない。Nelson(1978)は場面に不慣れな子どもがどのようにして経験を組み立てていくのかをスクリプトの観点から検討した。対象は保育園の新入園児(3歳児)7人と2年目の在園児(4歳児)7人であった。場面として保育園での昼食を取り上げた。実験者はインタビューによって「あなたが保育園でお昼を食べるときにどんなことがありますか。」「それから何がありますか。」と尋ね,さらに細かな点や,他者の役割についても尋ねた。このインタビューを新年度が始まってから1週間以内と3ヶ月後の2回行い、子どもが挙げた昼食時の事象数と系列的な長さが比較された。新入園児より在園児が,1回目よりは2回目の方が,事象数は多く,系列も長かった。また数値の比較に加えて個人の発話プロトコルを事象構造的に図示した。それによると,在園児は事象間の順序を接続詞を使って正確に述べ,昼食活動の基礎的な事象(手洗い,食べる,片付けなど)にも多く言及していた。それに対し,新入園児は系列化が少なく,食事よりも食事後の昼寝に言及する事が多かった。このように,在園児はより適切な昼食スクリプトを構成していた。しかし,この研究では在園体験と年齢とが交絡しておりスクリプトの形成における経験と一般的な認知的発達の効果を分解できていない。そこで本研究では,4歳新入園児,4歳在園児,5歳在園児を対象とし,年齢と経験の双方から子どもの事象知識の獲得をみていく。特に,初めての経験から5ヶ月後まで3回にわたり調査するごとにより,知識の広がりやスクリプトの形成過程を検討する。場面は,1.園生活の中で流れが明確である,2.毎日繰り返される,3.家庭に基盤がある,4.新入園児にとって初めての体験であるの4点を考え,幼稚園のお弁当場面とした。
著者
藤巻 洋 稲葉 裕 小林 直実 雪澤 洋平 鈴木 宙 池 裕之 手塚 太郎 平田 康英 齋藤 知行
出版者
Japanese Society for Joint Diseases
雑誌
日本関節病学会誌 (ISSN:18832873)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.17-22, 2013 (Released:2014-06-26)
参考文献数
12

Objective: The aims of the present study were first to investigate the frequency and location of bone cysts in the acetabulum of hip osteoarthritis (OA) patients and second to examine the influence of pelvic tilt on the location of bone cysts in the acetabulum.Methods: A total of 80 patients (65 women and 15 men) with hip OA who underwent primary total hip arthroplasty were included in this study. The mean age at surgery was 65 years (range, 43-83 years). The bilateral hips of these 80 patients were examined; however, 9 contralateral hips that had previously been implanted with prostheses were excluded. We evaluated the minimal joint space width (MJS) on preoperative antero-posterior radiographs of the pelvis in the standing position. We also obtained the digital imaging and communication in medicine (DICOM) data from the preoperative pelvic computed tomography (CT) images, and then three-dimensionally reconstructed the DICOM data using OrthoMap 3D software with reference to the anterior pelvic plane. We divided the acetabulum into six areas and examined the presence of bone cysts in each area. We also examined the degree of pelvic tilt with three-dimensionally reconstructed CT images.Results: The frequency of bone cysts on CT images increased when the MJS of the hip joint on radiographs of the pelvis was less than 2 mm (p < 0.05). In the total of 151 hips, the antero-lateral area of the acetabulum (88 hips, 58%) exhibited the highest frequency of bone cysts. Patients who had bone cysts in the anterior part of the acetabulum tended to have a larger value of pelvic retroversion than those who did not have cysts in the anterior part of the acetabulum; however, the difference was not significant.Conclusion: The antero-lateral area of the acetabulum, which exhibited the highest frequency of bone cysts, is thought to be susceptible to loading stress. We hypothesized that patients who have bone cysts in the anterior part of the acetabulum have larger retroversion of the pelvis than others; however, the difference was not significant. We need to investigate further to reveal the influence of pelvic tilt on the location of bone cysts.