著者
中澤 潤 中道 圭人 大澤 紀代子 針谷 洋美
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.193-202, 2005-02-28
被引用文献数
1

本研究は絵本の絵に注目し,それが幼児の物語理解・想像力に及ぼす影響を検討した。予備実験(N=22)では5歳児の絵の選好を調査し,5歳児が"かわいい"イメージを好むことを示した。続く第1実験(N=21)では,絵の表現形式(かわいいイメージの絵とそうでない絵)が5歳児の物語理解や想像力(イメージ形成)に及ぼす影響を検討した。その結果,かわいいイメージの絵は幼児の想像力を抑制することが示された。第2実験(N=48)では絵の表現形式と幼児の絵の好み(その絵を好きか嫌いか)が5歳児の物語理解や想像力に及ぼす影響を検討した。その結果,絵の表現形式と幼児の好みはいずれも物語理解に影響しないことや,幼児の想像力が幼児の好みに関係なくかわいいイメージの絵によって抑制されることが示された。これらの結果から,絵本の絵が幼児の物語理解ではなく,幼児の想像力に影響することが明らかとなった。
著者
中澤 潤 小林 直実
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. I, 教育科学編 (ISSN:13427407)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.119-126, 1997-02-28

事象や行為の時系列的な知識はスクリプト(Schank & Abelson,1977)や一般的事象表象(Generalized event renresentation:GER; Nelson,1986)とよばれる。スクリプトは,「特定の時空間的な文脈に適切な,順序だてられ目標に組織化された行為の流れ」と定義される(Schank & Abelson,1977)。スクリプトは目標(例えばレストランスクリプトであれば,食事をする)の達成に関わる登場人物(ウエイターやウエイトレス,食べる人),行為(入る,座る,注文する,食べる,支払う),小道具(メニュー,食器,請求書,お金やクレジットカード)といった要素からなる。そしてスクリプトにはスロットが想定されており,登場人物や小道具,行為が明示されていないとき,これらを推論できるようなデフォルトがそのスロットに入っている。そのため,レストランの話を聞いた人は,明示されていなくてもそこにメニューがあることをデフォルトから推論できる。またスクリプトには状況に応じて多様なパスがある。外食スクリプトにおいて,支払は重要な要素だが,高級なフランス料理のレストランとマクドナルドのようなファーストフードでの支払い方は異なる。このようなスクリプトの差異を子どもは経験を通して形成していくものと考えられる。スクリプトは人が持つスキーマの一つである。それは他のスキーマと同様に,階層をなしている一般的な構造である。階層構造については,例えば幼稚園生活のスクリプトの中にはお弁当のスクリプトやお帰りの会のスクリプトが下位構造として埋め込まれている。またスクリプトは一般的であるが故に,多様な状況に適用可能である。一方,スクリプトが他のスキーマと異なる点は,その基本要素が行為であるということと,行為の間に時間的因果的結合があるという点である。さて,人はスクリプトを持つことにより,上述のように,情報の欠けたメッセージからもその背景を推測できる。スクリプトに従うことでごっこ遊びにおいてルーチン的なやり取りのパターンを構成することもできる。また,幼稚園や保育園などでは園生活のスクリプトの獲得が園での適応に繋がる(藤崎,1995;無藤,1982)。例えば,中澤・鍛治・石井(1995)は幼稚園のお弁当活動における教師の発語を分析し,教師は入園当初お弁当活動におけるスクリプト形成を促す発語が多いことを見出した。生活上のスクリプトを初期に形成させることで幼稚園生活への適応援助を行っているといえる。このようにさまざまな観点から,こどものスクリプトや一般的事象表象の形成やその利用に大きな関心が持たれている(Fivush & Hudson,1990;Hudson,1993;Nelson,1986)。幼児は抽象的な知識の伝達から学ぶ存在ではなく,具体的な日常体験から学ぶ存在である。中澤・小林・亀田・鍛治(1993)は遠足体験が重なることにより,幼児の遠足知識が次第に一般的事象表象化していくことを示した。このような,日常体験を基にした事象知識の獲得やスクリプトの形成過程は,その意味で幼児期の認知機能の解明にとって重要な課題である。幼稚園で初めて経験することに,集団で行う活動がある。入園以前,個々の家庭で過ごしていた生活は,入園と共にその園・クラスにおける集団生活に変る。例えば,「食事をする」ことは家庭でも幼稚園でも行われていることで,食べる行為そのものは共通している。しかし幼稚園の食事は自分たちで食べる準備をして,みんなでそろっていただきますのあいさつをし,食べ終わってからはお片付けをしなければならない。その内容は家庭での食事とは大きく異なるであろう。このように,子どもはそれまでもっていた家庭での生活パターンから幼稚園における生活パターンを作るために,新たな知識を獲得していかなくてはならない。Nelson(1978)は場面に不慣れな子どもがどのようにして経験を組み立てていくのかをスクリプトの観点から検討した。対象は保育園の新入園児(3歳児)7人と2年目の在園児(4歳児)7人であった。場面として保育園での昼食を取り上げた。実験者はインタビューによって「あなたが保育園でお昼を食べるときにどんなことがありますか。」「それから何がありますか。」と尋ね,さらに細かな点や,他者の役割についても尋ねた。このインタビューを新年度が始まってから1週間以内と3ヶ月後の2回行い、子どもが挙げた昼食時の事象数と系列的な長さが比較された。新入園児より在園児が,1回目よりは2回目の方が,事象数は多く,系列も長かった。また数値の比較に加えて個人の発話プロトコルを事象構造的に図示した。それによると,在園児は事象間の順序を接続詞を使って正確に述べ,昼食活動の基礎的な事象(手洗い,食べる,片付けなど)にも多く言及していた。それに対し,新入園児は系列化が少なく,食事よりも食事後の昼寝に言及する事が多かった。このように,在園児はより適切な昼食スクリプトを構成していた。しかし,この研究では在園体験と年齢とが交絡しておりスクリプトの形成における経験と一般的な認知的発達の効果を分解できていない。そこで本研究では,4歳新入園児,4歳在園児,5歳在園児を対象とし,年齢と経験の双方から子どもの事象知識の獲得をみていく。特に,初めての経験から5ヶ月後まで3回にわたり調査するごとにより,知識の広がりやスクリプトの形成過程を検討する。場面は,1.園生活の中で流れが明確である,2.毎日繰り返される,3.家庭に基盤がある,4.新入園児にとって初めての体験であるの4点を考え,幼稚園のお弁当場面とした。
著者
中澤 潤 中道 圭人 朝比奈 美佳 中道 圭人 ナカミチ ケイト Nakamichi Keito 朝比奈 美佳 アサヒナ ミカ Asahina Mika 古賀 彩 コガ アヤ Koga Aya
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.125-130, 2008-03

本研究では,音楽や造形の熟達者と非熟達者の幼少期の環境の違いを検討した。調査1(N =307)では音楽専攻の大学生と,調査2(N =216)では造形専攻の大学生と他の学問を専攻する大学生を比較した。その結果,音楽や造形に熟達している大学生は,そうでない大学生に比べ,幼少期の音楽や造形に関する物理的な環境や人的な環境が整っていたことが示された。さらに,物理的な環境より人的な環境が音楽や造形の熟達には影響している可能性が示された。This study examined differences between environments in young childhood of artistic expert and novice. Ex 1. (N=307) compared expert students in music with novice students, and Ex 2. (N=216) compared expert students in design art with novice students. These results showed that expert students had rich physical and human environments in young childhood more than novice students. In addition, human environments influenced expertise of music and design art more than physical environments.
著者
柿本 多千代 松井 三枝 中澤 潤 吉田 丈俊 市田 蕗子
出版者
富山大学医学会
雑誌
富山大学医学会誌 (ISSN:18832067)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.28-32, 2011-12

Bayley乳幼児発達検査-第3版(Bayley−Ⅲ)は乳幼児の発達を詳細に,かつ客観的に評価でき,世界標準で用いられることの多い検査である。しかし,日本版は未だ作成されておらず有用性は確かではない。本研究では,日本人健常12ヵ月児42名と36ヵ月児81名にBayley−ⅢとBayley式検査-第2版(BSID−Ⅱ),発達質問紙(津守式)を実施し,Bayley−Ⅲの有用性を検証した。米国の健常児と比較した結果,12ヵ月児では言語尺度の得点低下,36ヵ月児では微細運動の得点上昇が認められた。BSID−Ⅱよりは全体的に得点は高く,尺度間には高い相関が確認された。津守式では,両年齢ともに月齢相応の発達を示していた。Bayley−Ⅲの言語尺度においては,日本人小児には見合わない文法が認められたが,それ以外の教示や用具など実施上の不都合はなく,Bayley−Ⅲは日本でも使用可能な検査であった。
著者
川島 亜紀子 中澤 潤 久留島 太郎
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では子どもを含めた家族のウェルビーイングを,多面的,縦断的な研究デザインを用いて検証することを目的とし,共同養育と夫婦間コーピング,両親間関係と子どもの情動反応に焦点を当て,家族全体のウェルビーイングにどのように関連するのか,検証してきた。本研究の結果から,発達精神病理学的研究の一般的傾向と同様,関係性の否定的な側面のほうが,子どものメンタルヘルスを予測しうること,また両親間葛藤に子どもが関与することは子どものメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼすとされてきたが,一概にネガティブな要素を持つのではなく,子どもの気質や両親の関係性によって関連が異なることが示唆された。
著者
中道 圭人 中澤 潤
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.173-179, 2003-02-28
被引用文献数
2

This research examined the relationships between paternal/maternal authoritative, authoritarian, and permissive childrearing styles (based on the responsibility and control childrearing dimensions of Baumrind), and reactive and proactive aggressive behavior of their young children (N=59, aged 4-6 years). For reactive aggression, there were no differences among paternal/maternal childrearing types. For proactive aggression, authoritarian fathers have more aggressive young children than both authoritative and permissive fathers. If one or both of the parents were authoritarian, they tend to have more proactive aggressive children than both parents were authoritative. These results suggested that parents' authoritarian childrearing style promote proactive aggressive behavior in their young children.
著者
松崎 多千代 松井 三枝 中澤 潤 市田 蕗子 八木原 俊克
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.308-312, 2008-07-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
12

Bayley乳幼児発達検査 (BSID-II) は先天性心疾患児の発達評価として世界的に使用されているが, 日本版は作成されていない. そこで, 本邦でのBSID-IIの導入を目的として, 1歳心疾患児と健常児にBSID-IIを施行した. その結果, 健常児の値は米国基準より低値であり, 心疾患児は我が国の健常児より運動発達全般が遅延していた. 津守式乳幼児精神発達質問紙では両群に得点差はなかった. BSID-IIと乳幼児精神発達質問紙には項目間の高い相関関係が確認された. BSID-IIを施行するにあたって翻訳上や用具等の問題はなく, 我が国でも乳幼児の発達評価として有用であることが示唆される.
著者
中澤 潤 八木 龍浩 小野 美紀 中澤 小百合 菅 治子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第1部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.213-227, 1987-02-26
被引用文献数
1

幼児期の「話しことば」及びそれに関わる要因の発達過程を458名の幼稚園児を対象に分析した。「話しことば」に関わる基礎的要因として,語い,性格,交友関係,知識・表現をとりあげた。年齢に伴い,語い年齢,知識・表現は当然のことながら上昇した。保育年数が増加するにつれ,孤立児は減少し,また知識・表現も上昇した。性差は性格にみられ,男児は女児より「活動性大」「反抗的」で,女児は男児より「あたたか」であった。「話しことば」の行動評定の結果は,年齢にともなってほとんどの項目で評定段階が上昇すること,また,一部の項目で男女差,保育年数による差のあることを示した。「話しことば」の行動評定を因子分析したところ,5歳児では「遊びの中のことば」「意志・意見の表明」「教師への話しかけ」「しつけられることば」の4因子,4歳児では「遊びの中のことば」「教師への話しかけ」「しつけられることば」の3因子,3歳児では「子ども同士の会話」「教師への働きかけ」の2因子が抽出され,発達に伴い「話しことば」は分化していった。5歳児で抽出された4因子に基づいて因子得点を算出した。「意志・意見の表明」以外の3因子で5歳は4歳より高く,「遊びの中のことば」「しつけられることば」は保育年数が多い程高かった。「意志・意見の表明」は性格検査の「反抗的」と負相関,「教師への話しかけ」が「あたたかさ」と正相関を示した。さらに社会的地位指数と「遊びの中でのことば」は正相関,「意志・意見の表明」と負相関であった。これらの大まかな発達傾向について日常の保育との連携の中で,さらに詳細に検討を行う。
著者
田中 佑子 中澤 潤 中澤 小百合
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.156-165, 1996-06-30

This study examined the influence of husbands' absence on wives' psychological stress. Women whose husbands transferred with(N=180) or without(N=229) being accompanied by their families, completed questionnaires about stress reaction, child-care anxiety, children's problem behaviors, parent-child communication and fathers' cooperation with child-care. ANOVA analysis revealed that women who did not accompany their husbands(tanshin-funin) reported more stress reactions such as, "feeling lonely", "anxiety" and "poor physical condition" than did women who accompanied their husbands(taido-funin). Results of path analysis indicated that (1) tanshin-funin wives' child-care anxiety accounted for twice as much variance in their stress reaction, compared with taido-funin wives', and (2) tanshin-funin children's early delinquent behaviors influenced their mothers' child-care anxiety and stress. In addition, tanshin-funin wives recognized that their spouses' father/husband role performance affected children's problem behavior and women's stress. These data suggest that physical husband/father absence does not have so much of a direct negative effect on their families' well-being, but physical absence plus functional absence lead to more child's problem behavior, and wives' child-care anxiety or negative stress.