著者
小林 酉子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, pp.96, 2005

<目的> 英国ルネサンス期の演劇で、俳優はどのような姿で舞台に登場していたのか、その復元、視覚化を目的とする。発掘後、当時のままに再建されたロンドンのグローブ座からも明らかなように、劇場は、劇が演じられる舞台の上のみに屋根がかかり、一般観客席は屋根がない青天井であった。それは、俳優着用の高価な衣裳を雨から守るためであったとも言われているが、実際の衣裳の素材、デザインはどのようなものであったかを検証する。<方法> 1600年前後、ロンドンでは二大劇団が覇を競っていたが、その一方の海軍大臣一座の劇場主、フィリップ・ヘンズロウと、女婿にして名優でもあったエドワード・アレンは、劇団所有の衣装類をリストにして書き残した。『ヘンズロウの日記』として知られる劇場運営に関する財務簿の中に、これらのリストも含まれている。衣裳リストは主役級用と道化役用に大別され、その一点一点について、色やデザイン、生地の材質が細かに記されている。このリストを基に、主役級用衣裳を色別、素材別、デザイン別に分類した。<結果> 上記の分析によると、主役級用に用いられた生地はベルベットが最も多く、全体の約40_%_を占め、それに次ぐ素材がサテン、金糸入り、銀糸入り、絹(特定されず)で、各々約10_%_を占める。その他、刺繍、ビューグル(黒の筒型ビーズ)、スパングルの装飾が施された上衣、ズボンの例も見られ、高価、高級な素材が用いられていたことが分かる。色は赤、黒が各々30_%_で最も多く、他に青、紫の使用例が目立つ。ここで、道化役には使用されない色が紫であること、道化役に多い黄色、オレンジ色は主役級には用いられていないことも判明した。
著者
小林 酉子
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1570年代からロンドンでは商業劇場が次々と建設され、ルネサンス演劇最盛期を迎えた。その当時、商業劇団は市井の劇場で公演するだけではなく、宮廷や貴族の館、あるいは市の祝祭で役を演じてもいた。本研究は、商業劇団が深く関わったpageantry(野外式典)を研究対象とする。これは royal pageantry(入市式や巡幸)とcivic pageantry(市長就任式等)に大きく分けられる。それぞれの記録を基にpageantry衣装演出の具体像を追って、その意匠が商業劇場舞台に与えた影響を明らかにし、エリザベス朝の商業劇場でどのような衣装演出が用いられたかを検証した。
著者
小林 酉子
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

チューダー朝初期に王侯貴族のお抱え劇団が誕生してからエリザベス時代に至って商業劇団が最盛期を迎えるまで、この間の演劇がどのような演出の下で、どのような衣装で演じられたかを明らかにした。宮廷饗宴を演じていた俳優たちが宮廷外でも演じるようになると,饗宴衣装が民間の商業劇場へ流れ,ロンドンの市井の劇場でも使用された可能性が高い。本研究では,チューダー朝期を通じての演劇の演出と衣装の変化を追って,英国ルネサンス盛期の商業劇場の舞台がどのような有様であったかを検証した。