著者
小池 克郎 吉倉 廣 小俣 政男 宮村 達男 岡山 博人 下遠野 邦忠
出版者
(財)癌研究会
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1991

B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)はヒト肝がん発症の原因ウイルスと考えられている。HBVにおいては、発がんにもっとも関係の深いと考えられるX遺伝子のトランス活性化機能が明かにされ、セリンプロテアーゼインヒビターとの構造類似性が示され、細胞の転写因子の機能を変化させることにより発がんの初期過程に関与していると推定されている。HCVについては、RNAゲノムの遺伝子構造と発現の研究が進展してきた。そこで、構造と性質の異なるこれら肝炎ウイルスの多段階発がんにおける役割を追及し、肝発がんのメカニズムを明かにする。HBVでは、X蛋白質が肝細胞中の膜結合型セリンプロテアーゼに直接結合しその活性を阻害すること、また、セリンプロテアーゼインヒビター様のドメインとトランス活性化の機能ドメインが一致することも明らかにした。他方、X蛋白質と相互作用する転写因子の存在も明らかにしつつあり、セリンプロテアーゼなど複数の細胞蛋白質と結合することを示した。HCVでは、構造遺伝子の発現様式および発現したポリ蛋白のプロセッシングに加えて、持続感染の機構を一層明らかにした。すなわち、外被蛋白質中に存在する超可変領域(HVR)の頻繁な変化によって免疫機構から逃避した遊離のHCVが、発がん過程で関与していることを示唆した。X蛋白質についてはその機能をかなり解明したので、今後は、in vivoでの動態およびX蛋白質によって促進される遺伝子変異について調べる必要がある。他方、肝発がんでのHCVの中心的遺伝子が何であるかはまだ全く不明である。持続感染の機構がウイルス外被蛋白質の頻繁な突然変異に関係していることは、組み込みが中心であるHBVの持続感染とは非常に異なっており、2つのウイルスの肝炎および肝発がんへの関与が異なるものであることを示唆した。
著者
小俣 政男 下遠野 邦忠 小池 克郎 佐藤 千史 各務 伸一 林 紀夫
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本邦にて急増している肝癌の9割以上が肝炎ウイルスによる肝硬変症に合併したものであり,その大半がC型肝炎ウイルス持続感染に起因するものであった.肝癌の前駆状態ともいえるC型慢性肝炎患者の数からみて,肝癌症例数は当分の間さらに増加するものと予想された.しかし一方では,同ウイルスに対して約3割の駆除率を有するインターフェロン療法が肝癌発生を抑制することを示唆するデータが得られた.また,インターフェロン有効率を向上させるための方策について種々の検討が行われた.B型・C型肝炎ウイルスの増殖と肝癌の発癌機序,およびインターフェロンの作用機序等について各研究者により別紙に示す研究業績が発表されるとともに,研究者間の情報交換と問題点の整理のために“C型肝炎ウイルス制圧への基本的戦略",“C型肝炎ウイルスの変異と病態",“インターフェロンと細胞内情報伝達機構"をテーマとして計3回の班会議が開催された.その結果肝炎ウイルス制圧の為には、基本的ウイルス増殖機構の解明に最も精力を注ぐべきであり、それなくしては肝炎ウイルスの制圧はありえないという結論に至った。その具体的方策としては、例えば他のウイルスで増殖が比較的明らかにされているポリオウイルスの研究等から多くを学ぶべきであるという結論に達した。また細胞内情報伝達機構については、抗ウイルス剤(インターフェロン)により引き起こされる多くの第二、第三のメッセンジャーについて、個々の症例で検討すべき点が合意した。これらの知識を集積することが重要であり、本研究班の如き総合戦略が最も重要であるという点で一致した。