著者
野村 大成 加藤 秀樹 渡辺 敦光 佐々木 正夫 馬淵 清彦 藤堂 剛
出版者
大阪大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

「放射線被曝による継世代発がん」に関して、ヒトにおいては、馬淵班員が広島・長崎の被爆者のF_1集団72,000人の調査を行った。1946-89年の死亡者中で白血病63症例、リンパ腫22症例を発見したので、詳しい診断を確認の上、授精前被曝との相関が調査できるようになった。基礎研究では、渡辺班員がC3H雄マウスに^<252>Cf中性子放射線照射することにより、ヘパトーマが非照射F_1(3%)の14倍の頻度で発生していることを発見し、野村実験を異なった系統マウスと原爆類似放射能で確認した。野村は、LTマウスにX線(3.6Gy)を照射することによりF_1に10倍の頻度で白血病が誘発されることを発見した。ICRマウスでは見られなかったことである。加藤班員は、これらF_1での発がんに関与した遺伝子のマッピングのため、TemplateDNAの多量、短時間処理法を確立した。佐々木班員はヒトにおける父親由来の突然変異としてRb遺伝子を調べ、Rb腫瘍細胞では80%の症例に+1g異常が観察されるが、9例中8例までが母親由来の1gが過剰になっていることが分かった。新しい発見であり、今後大きな問題になるだろう。藤堂班員は、紫外線によるDNA損傷のうち、がんや突然変異と深く関与してると思われる6-4産物を特異的に修復する酸素を初めて発見した。国内外で大きな反響を呼び、新聞誌上でも大きく報道された。英国核施設従業員(父親)の授精前被曝によりF_1にリンパ性白血病が相対リスク9.0(P=0.047)の高さで発生しているとの報告が1993年3月6日にあった(BMJ)。この報告は、Gardner論文と同じく野村のマウス実験と一致しており、より一層、ヒト疫学、マウスを用いた基礎研究が必要となる。また、内部被曝や低線量率長期被曝の精原細胞および卵細胞におよぼす影響がクローズアップされるようなった。
著者
坂本 澄彦 堀内 淳一 大川 智彦 横路 謙次郎 細川 真澄男 小林 博
出版者
東北大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1989

低線量の放射線の腫瘍制御に果たす役割について研究を続けているが、今年は基礎的研究として、15ラドの全身照射を行なったマウスに対し尾静脈から腫瘍細胞を注入した場合に、肺に造る腫瘍細胞のコロニーが出来る割合が、照射をしなかったマウスの場合とどう異るのかについて更に詳細な検討を加えた。先ず肺に造るコロニーは10ラドの照射より15ラドの照射を受けたマウスの方が形成率が低いこと、更に15ラドの全身照射と局所照射の組合せが腫瘍の局所制御率が高まることを確認した。一方放射線照射による腫瘍関連抗原のshedding抑制とその意味する所についての研究が行なわれ、放射線照射による抗腫瘍免疫誘導の機序としてTAAの存在様式の変化が関与している可能性を示し、このような現象が生ずるのには30Gyという至適線量が存在することがわかった。又腫瘍誘発に対する低線量域での放射線の線量と線量の効果についての研究も進められているが、この研究の結論を得るのはもっと先の事になると思われる。臨床的研究としては、昨年に引続き全身或は半身照射のみの効果を調べるため進展例の悪性リンパ腫に対する効果を検討した。結果は45例の悪性リンパ腫の患者のうち1例は他病死したが残りの44例は、現在、再発の徴候なしに生存している。その生存期間は6ケ月から44ケ月の間に分布しており、現在もどんどん治療例が増えているので、近い将来に、統計的解析を行なって治療成績の正しい評価が下せるようになると考えている。又、肺癌、子宮癌、食道癌などの固形腫瘍に対する全身又は半身照射と局所照射の組合せによる治療も開始しているが、この研究は次年度に更に積極的に推進する予定である。
著者
佐方 功幸 西澤 真由美 古野 伸明 渡辺 信元 岡崎 賢二
出版者
久留米大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

c-mosキナーゼ(Mos)は、細胞分裂抑制因子(CSF)として、脊椎動物の卵成熟を第2減数分裂中期で止める生理活性を有する。一方、Mosは体細胞で発現するとがんをひきおこす。本年度の研究では、MosのCSF活性の発現制御機構、およびMosのがん化活性と細胞周期・細胞内局在性との関係について調べた。1.卵成熟および受精におけるMosのCSF活性の制御機構Mosはツメガエルの卵成熟過程において、代謝的に不安定型から安定型へ、また機能的にも、卵成熟誘起活性からCSF活性へと変換する。40種をこえるMos変異体を用い、Mosの代謝的安定性がMosのN末端の単一のアミノ酸(Pro^2)によって規定されていること(2nd-codon ruleと命名)、CSF活性のためにはPro^2に隣接するSer^3のリン酸化による代謝的安定化が必須であることを示した。また、Mosの代謝が、ユビキチン経路によることをはじめて明らかにし、細胞周期制御におけるユビキチン系の重要性を指摘した。さらに、受精に際するMosの分解がSer3の脱リン酸化を伴うユビキチン経路によることも明らかにした。2.Mosのがん化活性と細胞周期・細胞内局在性Mosは生理的(卵成熟)には細胞周期上のG_2→M転移で機能し、がん化の際にどの細胞周期の時期で機能するかが問題となっている。そこで、M→G_1期に特異的な分解を受けるサイクリンとMosのキメラ遺伝子を作製しNIH3T3にトランスフェクトすることにより、Mosが細胞をがん化するときにはG_1期での発現が必須であることを明らかにした。この結果は、原がん遺伝子の生理活性とがん化活性の違いを細胞周期上での発現の違いとしてはじめてとらえたものである。さらに、Mosキナーゼの基質が、細胞質から核に移行する物質(たとえば、転写因子等)であることを示した。
著者
伊藤 嘉明 石井 俊輔 角川 曜子 安本 茂 石橋 正英 藤永 薫
出版者
京都大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1988

ヒトパピローマウイルス(HPV)による発がん機構をトランスアクチベーションの立場から解明する事を目的とし本年度は以下の結果を得た。HPV16及び18の転写産物のクローニングを行い、トランスフォーミング活性のあるcDNAクローンを同定しE6/E7遺伝子の重要性が認識された(角川・伊藤)。またヒト皮膚ケラチノサイトをHPV16で不死化して数種類の細胞株を得た(安本)。近畿在住患者の子宮頸癌細胞より新型のHPV52bが分離された(伊藤)。HPV16・E7と構造・機能のよく似たアデノウイルスE1Aについては、遺伝子上流の制御領域とそこに結合するトランス活性化因子の解析が行われ計21ヶ所の因子結合部位が同定された(藤永)。マウス未分化細胞株F9ではE1A様の遺伝子が発現していると考えられておりその細胞性遺伝子クローニングの準備としてアデノウイルスE3プロモーターの下流にメトトレキセート耐性遺伝子を接続したプラスミドを細胞に導入し1コピーのE1A遺伝子の導入で細胞がメトトレキセート耐性になる系が確立された(石橋)。アデノウイルスDNA上で、NFIが結合していない場合だけNFIII結合部に結合できる因子がマウス腎臓に検出されNFKと命名された(永田)。ポリオーマウイルス・エンハンサーに結合するトランス活性化因子PEBP1・2・3・4・5が同定され解析が進んでいる(佐竹・伊藤)。PEBP3は精製され、分子量30K〜35K(α)、と20K〜25K(β)の2種のサブユニットからなるヘテロダイマーである事が判明した(永井)。PEBP2を脱リン酸化するとPEBP3が出現するがHa-rasでトランスフォームした細胞で主としてPEBP3が存在するので、Cキナーゼがdown regulate されているものと考えられる(佐竹)。癌遺伝子c-skiと関連するsnoA、snoNがクローン化され、それらがDNA結合性の蛋白を作る事が示された(石井)。
著者
若林 敬二
出版者
国立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1985

亜硝酸処理により直接変異原性を示す食品は、胃癌の発生に関与している可能性がある。各種野菜及び漬物を亜硝酸処理すると、サルモネラ菌TA100に対する直接変異原性が生ずる。そこで、日本人が頻繁に摂取している白菜に含まれる、亜硝酸処理により変異原性を示す変異原前駆体の分離精製を行った。その結果、4-メトキシインドール-3-アルデヒド(【I】)及び4-メトキシインドール-3-アセトニトリル(【II】)を変異原前駆体として単離した。(【I】)及び(【II】)の亜硝酸処理により生ずる変異原性は、変異原前駆体1mg当たりTA100に対して、-S9uixで、各々156,900及び31,800復帰コロニーであった。(【I】)及び(【II】)は、白菜300gより、各々700μg及び60μg得られ、白菜全体の変異原性の16%及び0.3%を説明することができた。尚白菜中の変異原前駆体として既に報告されているインドール-3-アセトニトリルも、白菜300gより80μg得られた。白菜塩漬け醸成期間中の、亜硝酸処理により生ずる変異原性の経時変化を調べた。その結果、変異原性は生の白菜に最も強く認められ、10日目の塩漬け及び漬け汁には生の白菜の変異原性の33%及び31%に相当する活性が認められた。よって、亜硝酸処理により生ずる白菜塩漬けの変異原性は、醸成期間中に変異原前駆体が生成するためではなく、生の白菜に存在するインドール化合物等の変異原前駆体によるものと考えられる。インドール化合物は環境中に普遍的に存在しており、そのニトロリ化の反応は速い。した員って、亜硝酸存在下におけるインドール化合物の発癌性、特に胃癌誘発の有無を調べることは重要である。
著者
古賀 憲司 富岡 清
出版者
東京大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

ポドフィロトキシン系抗癌剤エトポシド2__ーはその糖部分の変換誘導体による活性強度増強、毒性の軽減が検討されている。本研究ではこうした手法に加えて、ポドフィロトキシン1__ー自体の骨格の注目し、新規含窒素骨格3__ーを設計し、その合成法の開発及び生物活性を検討した。3__ーは短工程、高収率、高立体選択的に合成できた。すなわち、d1ーあるいは光学活性なアミノ酸を還元、環化、ベンジル位の酸化、次いでトリメトキシベンツアルデヒドと縮合するとトランス体4__ーが得られた。シスートランス異性化及びベンジル位置換反応を経由して4__ーから3__ーおよびその誘導体の合成は容易であった。3__ーは期待通りin vivoさらにはin vitroで強い制癌活性を発現することが判明した。また、天然ポドフィロトキシン1__ーと同じ絶対配置を有する3__ーにより強い活性が認められた。これらの結果は含窒素骨格3__ーが新たなリ-ド化合物として多大な可能性を有していることを示すものである。
著者
吉田 武美 沼澤 聡 山元 俊憲 中谷 一泰 黒岩 幸雄
出版者
昭和大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1993

生薬センソ成分のブファリン(Bu)およびブファジエノリドが、ヒト由来白血病細胞HL60、K562、U937、ML1およびTHP-1細胞を5〜10nMの低濃度で分化誘導を引き起こし、分化誘導能と、Na^+,K^+-ATPase阻害の間に高い相関性(0.987)が存在することが明らかになった。Buの生体内代謝物3α-Buの効果は、ほとんど認められなかった。^3H-BuのK562細胞への結合は、スカッチャード解析の結果、Kd=6.05,Bmax=521.2fml/10^6cellsが得られ、^3H-ウワバイン(^3H-Oub)よりKdは小さく、Bmaxは同程度であることを明確にした。^3H-Buの結合は、高濃度Oubにより置換され、両者は同一作用部位を共有した。Oub耐性K562細胞株を作成し、同様に検討したところ、Buの分化誘導能は、著明に減弱し、^3H-Buの結合も半減した。また、Bu抵抗性のM1細胞に対する^3H-Buの結合はK562細胞に比べ1/10程度であった。Buは、K562細胞への^<45>Ca^<2+>の取り込みを顕著に上昇させたが、Oub耐性株では、ほとんど認められなかった。Buは、癌遺伝子産物(c-myc、c-myb等)も大きく変動させ、またras-raf系を介してMAPkinaseを活性化すること、U937細胞でアポトーシスを誘発することが明らかになった。抗Bu抗体の作成に成功し、正常ヒト血清に抗Bu抗体と交差するBu様の分化誘導物質が存在する可能性があることを、各種ヒト由来各種白血病細胞、Oub耐性株およびM1細胞に対する作用をBuと比較検討することにより、示唆した。Buは、FM3A担癌…C3Hマウスに対し、1日1回0.5mg/Kg腹腔内投与により。顕著な抗腫瘍効果および延命効果を認めたが、WiDr担癌ヌードマウスに対する効果は認められなかった。この投与条件では、in vitroで得られたこれら癌細胞に対し、細胞毒性を示す濃度よりかなり低いことから、免疫系への影響を調べたところ、Bu処置C3HマウスではNK細胞活性が著明に高いことが明らかになった。以上のように、Buは、Na+,K+-ATPase阻害を一義的作用部位として分化誘導作用を示すことともに、in vivoでは免疫系を介した抗腫瘍作用を有することが示唆された。Buの多彩な作用が明らかになり、今後の展開が期待される。
著者
佐々木 琢磨 米田 文郎 宮本 謙一 前田 満和 川添 豊 兼松 顕
出版者
金沢大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

前年度に引続き2'ーdeoxycytidineの2'ーarabino位への置換基の導入を検討し、2'ーazido体(Cytarazid)の簡便、大量合成法を確立すると共に2'ーシアノ体(CNDAC)をラジカル反応を用いて新たに合成した。種々のヒト固型腫瘍由来細胞に対しCytarazid及びCNDACはともに強い増殖抑制効果を示した。また、podophyllotoxin型リグナン類の合成をDielsーAlder反応を用いて合成し、強い抗腫瘍活性を有する化合物を得ることができた。ブレオマイシンの細胞毒性は、ポリアクリル酸と撹拌すると増大するが、この時の細胞死は未知の致死機構によるものと考えられ、休止期細胞や耐性細胞にも同等に作用することを見出した。白金錯体を酸性多糖に結合させた高分子マトリックス型錯体を合成し、それらがB16ーF10メラノ-マの肺転移を抑制することを見出した。酸化還元代謝調節能を有するフラビンや5ーデアザフラビンの誘導体を合成した。これらの中でもNO_2基やCOOC_2H_5基を有するものが強い抗癌活性を示した。次に生元素の一つであるセレンを骨格内に導入した5ーデアザー10ーセレナフラビンを合成し、この化合物もかなり強い抗癌活性を有することを見出した。一方、ヒト腫瘍に対する簡便で能率の良い転移治療モデルとして、鶏卵胎児の転移多発臓器のおけるヒト腫瘍の微小転移巣に含まれるヒト腫瘍細胞の特定遺伝子をPolymerase Chain Reaction法により定量的に検出する我々独自の方法を用いて、転移抑制及び治療に有効な物質をスクリ-ニングした。その結果、本研究班で合成したDMDC(2'ーdeoxyー2'ーmethylidenecytidine)とCNDACがヒト線維肉腫HT1080の肝・肺の転移巣を顕著に抑制することがわかった。選択性の高いプロテインキナ-ゼ作用薬を得るために新しくデザインされたイソキノリン誘導体の細胞周期及び制癌剤多剤耐性に及ぼす影響を検討した結果、in vitroではあるが、P388/ADRの耐性解除作用の強い物質を見出した。
著者
津田 充宥 大垣 比呂子 垣添 忠生
出版者
国立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

生体、特に胃以外の部位で、ニトロソ化合物が生成する可能性をさぐる目的で、チオプロリンのニトロソ化を指標として、以下の研究を実施した。1.生体試料中のチオプロリンの分析:生体内での亜硝酸捕捉剤と考えられるチオプロリンの微量分析法として、化学発光検出器を用いる方法を独自に開発した。本法により、ヒト血中並びに尿中に、チオプロリンが常在すること、更に動物(ラット)組織を分析した結果、肝、肺、腎の各組織中にもチオプロリンが存在する事を明らかにした。この事は、チオプロリンが生体における常在成分である事を示唆するものであり興味深い。もし胃以外の部位でのニトロソ化が起こるとするなら、組織中のチオプロリンが優先的にニトロソ化され、尿中にニトロソチプロリンとして排泄されている事が予想され、今後の検討課題と考える。2.中性条件下でのニトロソ化反応のin vitroでの検討:Cigarette smokeや都市ガス燃焼雰囲気中のNOxが、ニトロソ化反応に関与するか否かを知る為で、これらをチオプロリンの水溶液中に導入した結果、それぞれ,10-16ng/cigarette,500-800ng/30min.燃焼でニトロソ化体を検出した。この事実は、cigarette smoke中や大気汚染物質としてのNOxが、何らかの形でヒト体内でのニトロソ化反応に寄与し得る事を示したものと考える。3.【NO_2】曝露の生体内ニトロソ化反応への影響:上記1.、2.の知見に基づいて、【NO_2】に曝露(10ppm,12時間)されたラットの尿中ニトロソアミノ酸含量を調べた結果、ニトロソプロリン及びニトロソチオプロリン含量が、曝露群で有意(約2倍)に上昇していた。この事実は直ちに、胃以外の部位、例えば肺組織中でのニトロソ化を意味するものではないが、重要な知見と考える。更に詳細な検討を重ねて結論する必要があり、現在、追試験を検討中である。
著者
斎藤 泉 千葉 丈 松浦 善治 宮村 達男
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

日本の慢性肝炎(120万人)の半数以上、最近の肝細胞癌全体(1万8千人/年)の半数近くがC型肝炎ウイルス(HCV)によるものと考えられている。クロ-ン化したウイルスcDNAを用いてHCV遺伝子産物の発現系・検出系を開発し、肝炎・肝癌組織中で発現するHCV遺伝子産物を検討することにより、このウイルスによる肝炎・肝癌発症機構解明の基礎を確立するのが本研究の目的である。1.HCVの構造領域cDNAを組み込んだバキュロウイルス発現ベクタ-やプラズミドベクタ-をサル由来細胞株に導入することによりHCVの構造蛋白を発現させた結果、HCVのコア蛋白とエンベロ-プ蛋白の発現と同定に成功した。コア蛋白は糖鎖のつかない22kdの蛋白で、p22と命名し、エンベロ-プ蛋白は糖鎖を持つ35kdの蛋白でgp35と命名した。また粗精製したp22蛋白を用いてHCVのコア蛋白に対する抗体(コア抗体)を検出する実用的なELISAを作製した。2.組換えバキュロウイルスにより産生されたコア蛋白などを抗原として、構造蛋白の検出に用いられるモノクロ-ン抗体を作製した。3.非B型肝癌の8例において、癌部と非癌部からRNAを抽出し、PCR法によりHCVRNAを検出した結果、少なくとも一部の非B型肝癌組織からHCVRNAが検出されることが分かった。本研究によりHCV構造蛋白の特異抗体作製への道が開かれ、患者組織におけるウイルス抗原の検出への基礎が開けたといえよう。一部の肝癌組織からHCVRNAが検出されることは、持続感染状態にあるHCVが細胞の癌化に何等かの役割を果たしている可能性を示唆するが、その証明には今後の定量的検討が必要であろう。
著者
笹月 健彦 平山 兼二 木村 彰方
出版者
九州大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

家族性大腸ポリポ-シス患者由来のポリ-プ30例,大腸癌20例および非遺伝性大腸癌20例を対象として、正常粘膜,ポリ-プ,癌におけるがん遺伝子の発現および種々のプロ-ブを用いたヘテロザイゴシティ消失(LOH)の検索を行なった。調査し得た全例において、cーmyc遺伝子の発現は正常粘膜,ポリ-プ,癌の順に増加しており、その逆にcーfos遺伝子の発現は減少していた。このことよりcーmycは細胞増殖に、cーfosは細胞分化に密接に関与すると推定された。以上の傾向は遺伝性,非遺伝性いずれの大腸癌においてもみられた。家族性大腸ポリポ-シス由来の大腸癌においては、第5,6,12,15,17,22染色体に、20〜50%の症例でLOHが検出された。非遺伝性大腸癌を対象とした場合にも第5,6,15,17,22染色体に10〜30%の症例でLOHがみられた。また本症ポリ-プにおいても、低頻度ながら第12,17,22染色体のLOHが検出されたことより、LOHは遺伝性ー非遺伝性いずれの大腸癌においても特異的な事象ではないが、家族性大腸ポリポ-シスではやや高頻度であり、種々のがん化機構への感受性がより高まっていると推定された。本症多発家系(16家系)構成員を対象として、種々のプロ-ブを用いたRFLP解析を行ない、Mortonの遂次検定法による連鎖検定を進行中であるが、密な連鎖の報告があったCllpllを含めて、有意の連鎖を証明できたものはない。しかし,最大ロッド値が正の値をとるマ-カ-は、第1,5,11,22染色体に各1個、第12染色体に4個見出しており、更に検索を進めている。また本症との連鎖が示唆されていたHLAについては、患者群,り罹同胞対,家系構成員を対象とした解析により、連鎖を否定した。種々の単クロ-ン抗体を用いた組織染色結果より、がん関連抗原(sidlyl Le^など)の発現が、本症患者の正常粘膜では、正常人組織に比して多く認められるため、生化学的にはがん化過程が既に進んでいると思われた。
著者
小池 克郎 吉倉 廣 小俣 政男 宮村 達男 岡山 博人 下遠野 邦忠
出版者
(財)癌研究会
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1991

B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)はヒト肝がん発症の原因ウイルスと考えられている。HBVにおいては、発がんにもっとも関係の深いと考えられるX遺伝子のトランス活性化機能が明かにされ、セリンプロテアーゼインヒビターとの構造類似性が示され、細胞の転写因子の機能を変化させることにより発がんの初期過程に関与していると推定されている。HCVについては、RNAゲノムの遺伝子構造と発現の研究が進展してきた。そこで、構造と性質の異なるこれら肝炎ウイルスの多段階発がんにおける役割を追及し、肝発がんのメカニズムを明かにする。HBVでは、X蛋白質が肝細胞中の膜結合型セリンプロテアーゼに直接結合しその活性を阻害すること、また、セリンプロテアーゼインヒビター様のドメインとトランス活性化の機能ドメインが一致することも明らかにした。他方、X蛋白質と相互作用する転写因子の存在も明らかにしつつあり、セリンプロテアーゼなど複数の細胞蛋白質と結合することを示した。HCVでは、構造遺伝子の発現様式および発現したポリ蛋白のプロセッシングに加えて、持続感染の機構を一層明らかにした。すなわち、外被蛋白質中に存在する超可変領域(HVR)の頻繁な変化によって免疫機構から逃避した遊離のHCVが、発がん過程で関与していることを示唆した。X蛋白質についてはその機能をかなり解明したので、今後は、in vivoでの動態およびX蛋白質によって促進される遺伝子変異について調べる必要がある。他方、肝発がんでのHCVの中心的遺伝子が何であるかはまだ全く不明である。持続感染の機構がウイルス外被蛋白質の頻繁な突然変異に関係していることは、組み込みが中心であるHBVの持続感染とは非常に異なっており、2つのウイルスの肝炎および肝発がんへの関与が異なるものであることを示唆した。
著者
押村 光雄 久郷 裕之 清水 素行
出版者
鳥取大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1991

ヒト膀胱がんのがん抑制染色体の同定を目的としてpSV2neo遺伝子で標識した正常ヒト線維芽細胞由来の7,9,11,12番染色体を微小核融合法によりヒト膀胱がん細胞株H-15細胞に移入した。11番染色体移入クロ-ンでは,5回の移入実験によって得られた20クロ-ンにおいては,細胞形態の顕著は変化(Flat)が認められ,そのうち15クロ-ンは早期の段階で老死化した。残る5クロ-ンは,Flatな細胞と親細胞と同様な形態を示す細胞とが混在していた。また,7,9,12番染色体導入クロ-ンの細胞形態は親細胞と同様の形態と増殖速度を示し,クロ-ニング後も老死化することはなかった。現在までに,細胞老死化にかかわる遺伝子はヒト1番および4番染色体に存在することを示す報告がなされているが,上述の結果は,細胞老化にかかわる遺伝子がヒト11番染色体上にも存在することを示す。放射線照射により断片化したヒト3番染色体をヒト腎細胞がん細胞株RCC23に導入した。その結果,D3S22〜H3S30領域(3p25)およびD3F15S2〜D3S30領域(3p21)を含む染色体を導入した場合において,細胞形態の変化ならびに細胞増殖速度の低下が認められ,これらの領域にRCC23細胞の腫瘍形質抑制にかかわる遺伝子(群)の存在が示された。この領域は,ヒト腎細胞がんにみられる特異的染色体欠失領域であった。Kirsten肉腫ウイルス形質転換NIH3T3(DT)細胞の増殖抑制にかかわる遺伝子は1qcenー1q25に存在することが示されているが,RTーAluーPCR法により,この領域に存在し,発現されているDNA断片を2クロ-ン得た。このクロ-ンをプロ-ブとして,コスミッドクロ-ンのスクリ-ニングを行う予定である。
著者
高久 史麿 小林 幸夫 石川 冬木 平井 久丸
出版者
東京大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1988

骨髄異型性症候群(Myelodysplastic syndrome,以下MDS)は主に高令者をおかし,血液学的に末梢血の汎血球減少と骨髄の異型を伴う正〜過形成像を主徴とする予後不良な疾患である。我々は既に,本症患者骨髄細胞DNAをNIH3T3細胞に遺伝子導入した後,悪性形質転換をヌードマウスにおける腫瘤形成能により検定し,本症患者骨髄中に,N-rasがん遺伝子コドン13における点突然変異がしばしば観察されることを報告した。このin vivo selection assayは活性化がん遺伝子を非常に高い感度で検出するが,操作が非常に煩雑で時間を要するため,多数の検体を調べることは困難であった。そのため,本年度は、ポリメレース・チェーン・リアクション(PCR)とオリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーションを組みあわせて,MDS症例の骨髄細胞中におけるN-rasの点突然変異の有無を検討した。N-rasがん遺伝子はそのコドン12,13,61における点突然変異により活性化を受けることが知られているので,上記の領域を含むような範囲の両端のプライマーを用意し,患者骨髄DNAに加えて,Taq ポリメレースによりPCR法で,当該領域を選択的にin vitroで遺伝子増幅した。これをフィルターにドット・ブロットし,それぞれのコドンの点突然変異を出しうるようなオリゴヌクレオチド・プローブでハイブリダイゼーションした。本法により,患者骨髄細胞中に1%の点突然変異をもつ細胞が存在すれば,それを同定することができた。19例,のべ21検体のMDSについて検討した所,RA(refractory anemia)の一例,RAEB in T(refractory anemia in transformation)の一例そして,MDSより急性白血病へ進行した一例において,それぞれコドン61,12,61における点突然変異が同定された。以上より,点突然変異のおこる位置とMDS,急性白血病の間には何ら相関がないことが推定され,また,本法はその簡便性と高い検出感度により,前白血病状態の患者の経過観察に有用であると考えられた。
著者
高久 史麿 間野 博行 石川 冬木 平井 久丸
出版者
東京大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1989

ヒト白血病細胞における癌遺伝子の機能、相互連関を明らかにする目的で、これまでにPCRを用いてNーRAS、ABLなどの既知の癌遺伝子の活性化の有無を検討した。更に、白血病細胞に特異的に発現している新しいタンパク質チロシンキナーゼ遺伝子であるヒト1+K遺伝子のcDNAをクローニングし、その構造、発現、機能について検討した。1.PCRによる活性化癌遺伝子の検出種々のヒト白血病、前白血病よりDNAもしくはRNAを抽出し、ヒトNーRASをPCRもしくはRTーPCRにより遺伝子増幅した。急性白血病18例中5例、慢性白血病12例中0例、前白血病状態23例中3例にNーRASコドン12、13、61における点突然変異を検出した。この検出感度は全細胞の1%に点突然変異が存在すれば、これを検出できた。更に、RTーPCRによりBCR/ABL再配列mRNAの有無を検討した。慢性骨髄性白血病、Philadelphia染色体陽性急性リンパ性白血病の全例に再配列mRNAが検出された。この検出感度は10^6細胞に1つの突然変異細胞を検出できた。このように、PCRを用いると非常に高感度、簡便に突然変異を検出でき、患者の経過を観察する上で、有意義であった。II.新しいチロシンキナーゼ遺伝子1+Kヒト白血病に関与していると思われる新しい癌(関連)遺伝子を同定する目的で、ヒト白血病細胞株であるK562のcDNAライブラリーをcーfmsプローブで低ストリンジェンシーで、スクリーニングしクローニングを得た。構造解析により、これはマウスで報告された1+Kのヒトホモログであることが分かった。この遺伝子は膜貫通部位とチロシンキナーゼドメインを持ち、ROS遺伝子と強いホモロジーを示すいわゆるレセプタータイプのチロシンキナーゼである。18例の血液悪性腫瘍細胞(株)と17例の非血液悪性腫瘍株についてトザンハイブリダイゼーションにより発現を検討した。10例の血液悪性腫瘍(株)発現が見られたが、他の非血液腫瘍に見られなかった。
著者
成沢 富雄
出版者
秋田大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1985

研究目的:プロスタグランジン合成阻害剤が化学発癌剤誘発ラット大腸発癌のプロモーション期を阻害して、その発生を阻止する。大腸粘膜におけるプロスタグランジン産生の阻害が原因であると考えているが、その確証はない。プロスタグランジン合成阻害剤の抗プロモーター作用の機序を追求する。研究計画:ラットを用いた発癌実験でプロスタグランジン合成阻害剤インドメサシンの抗プロモーター作用の病理学的解析を、ラット大腸粘膜のオルニチン脱炭酸酵素活性を指標として胆汁酸デオキシコール酸のプロモーター作用、インドメサシンの抗プロモーター作用、プロスタグランジン【E_2】のプロモーション誘発作用を解析する。研究成果:発癌剤N-ニトロソウレア注腸投与による発癌イニシエーションを終了したラットにインドメサシン水溶液を飲水として実験終了まで自由に摂取させた。インドメサシン非投与ラットに比べテ、大腸癌発生率、発生個数は有意に減少した。インドメサシン投与は、大腸粘膜の注腸投与デオキシコール酸誘発のオルニチン脱炭酸酵素、プロスタグランジン産生を有意に低下させた。プロスタグランジン産生阻害の代償としてプロスタグランジン【E_2】を注腸あるいは皮下投与したラットでは、本酵素活性はデオキシコール酸注腸投与のみのそれに近い値まで回復、上昇した。以上の結果から、胆汁酸が大腸粘膜におけるプロスタグラン産生とオルニチン脱炭酸酵素活性を亢進させ、プロスタグランジン合成阻害剤が前者を阻害することによって、後者の発現の抑制と大腸発癌のプロモーションを阻止することが明らかとなった。すなわち、プロスタグランジン【E_2】がプロモーション誘発に直接介在していると推論できる。
著者
福島 昭治 加藤 俊男 白井 智之
出版者
名古屋市立大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

発癌物質ならびに発癌プロモ-タ-やインヒビタ-などが相互に関連して作用することによりin vivoでの発癌がどのように修飾されるかを多重癌モデルを用いて個体レベルで総合的に解析した。F344雄ラットを用い,五種類の発癌物質,DEN,MNU,DHPN,BBN,DMHを短期間に順次投与し,その後2%BHA,0.8%カテコ-ル,2% 3ーメトキシカテコ-ル(3ーMC)を0.3%亜硝酸塩との同時投与,あるいはそれぞれを単独投与すると,前胃では扁平上皮癌の発生がカテコ-ル単独群に比較し,カテコ-ルと亜硝酸塩を同時投与した群で有意に増加した。またBHA,3ーMCの群では亜硝酸塩の同時投与による増強効果はみられなかった。腺胃では3ーMC投与による腺腫の発生が亜硝酸塩の同時投与により有意に減少した。食道においてカテコ-ル,3ーMC投与により増加傾向を示した乳頭腫の発生が亜硝酸塩の同時投与によりさらに増加した。このように酸化防止剤は亜硝酸塩の存在下では単独投与とは異なった修飾作用を示すことが明らかとなった。さらに,DEN,MNU,DHPN処置による多重癌モデルを用いて,ニンニクの抽出成分であるジアリル・サルファイド(DS)とジアリル・ジサルファイド(DDS)の発癌修飾作用を検索すると,これまで発癌抑制として注目されてきたDSは肝の前癌病変であるGSTーP陽性細胞巣と甲状腺の過形成の発生を促進させることが判明した。また,DDSは大腸と腎発癌を抑制した。その他の臓器の腫瘍の発生にはDS,DDSとも何らの修飾効果を及ぼさなかった。以上,亜硝酸の酸化防止剤への添加は酸化防止剤のもつ発癌修飾作用を相乗的に増強,あるいは抑制させ,またDSが肝及び甲状腺発癌を促進するという従来とは異なった発癌修飾作用が示された。さらに,この変動には標的臓器における細胞増殖が重要な鍵を握っていると推測された。
著者
坂本 澄彦 晴山 雅人 細川 真澄男 高井 良尋 大川 智彦 堀内 淳一
出版者
東北大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

基礎研究に於いては低線量全身照射とBRMとの併用によって免疫賦活効果が増強されるか否かの検討が行われた。先ずOK-432に就いてWHT/Htマウスの偏平上皮がんでは、照射2日前に投与した場合に、TD50アッセイによる実験結果は低線量全身照射による免疫賦活効果が増強される事が示された。又、C3H/Heマウスの繊維肉腫を使用し、腫瘍成長曲線を用いてOK-432と低線量全身照射の併用効果を検討した実験でも同しような結果が得られた。一方、放射線照射によるサイトカイン産生能に及ぼす影響を検討しているが、未だ予備実験の段階であるが、IL-2産生能は0.1Gy,1Gy,3Gyの全身照射で何れも強く抑制され、TNF産生能は3Gyで約2倍に増強されていると言う結果を得ている。次にがん細胞膜に於けるYH206矢CEAのような腫瘍関連抗原、主要組織適合抗原の1つであるMHC Class-I及び接着分子の最も代表的なICAM-Iが放射線照射によって高まる事が分かった。次に、臨床研究に於いては、I及びII期の非ホジキンリンパ腫94例の解析を行い、全身及び半身照射と局所照射の併用群と局所照射単独群との効果が比較検討された。その結果は全身または半身照射併用群では、未だ観察期間は十分ではないが、I期、II期共に明らかに良好な結果を予想させるものがある。組織型をintermediate gradeに限定すると併用群と非併用群との間に統計的有意差が認められている。次に、低線量全身または半身照射が行われた肺癌、子宮頚癌、食道癌、悪性リンパ腫などについて、その副作用を検討したが、全例で白血球、リンパ球、血小板の著明な減少とか、悪心、嘔吐などの副作用は認められない事、が明らかになった。次年度には悪性リンパ腫以外の腫瘍に対する全身照射と局所照射の結果が、出てくる予定である。
著者
森脇 和郎 早川 純一郎 山内 一也 藤原 公策 山田 淳三 西塚 泰章
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

癌研究者に株分与を行うため19系統のマウス基準系統を指定維持し、40施設に26系統合計371匹のマウスを分譲した。これらの基準系統については定期的に遺伝的モニタリングを行い、基準系統としての維持体制を確立した。また7施設から延46系統のマウスについて遺伝的モニタリングの依頼を受けた。近交系ラットについては委員の確立した近交系ラットを4機関で18系統維持している。これらのラット系統については10施設から8系統315匹の分譲依頼があった。この他にも無アルブミンラットを11施設に875匹供給した。また詳細なラットの遺伝的モニタリングについては生化学的マーカーを中心にパネルを完成し11施設の依頼により11系統について検討を行った。近交系モルモットについては予研の14系統の内13系統177匹を15施設に分与した。これらの違伝的モニタリングのための標識遺伝子の検索を進めほぼ完成に近づき系統別に生物学的特性を明らかにした。癌研究にしばしば用いられるコンジェニック系マウスとしてB10系9系統、A系6系統、C3H系5系統、BALB1C系2系統その他細胞表面抗原に関するもの7系統を定めて維持担当者を決め育成維持を行っている。これらのコンジェニック系統については37施設に53系統595匹の分譲を行った。ヌードマウス系統は遺伝的背景の異る3系を25機関に1707匹を供給した。また、新しく育成した遺伝的背景に特色のあるヌードマウス8系統については20件126匹の株の分与を行った。ヌードラットは遺伝的背景の異る3系を育成中であり6件83匹の試験的な分与も行った。受精卵凍結保存については技術的な改良を続けており、系統差による難易の差異の問題を解決しなければならない。微生物モニタリングについては4種の動物について11種の感染因子の検査を行い、10施設から46件2578検体の依頼を受けた。本委員会の活動を癌特ニュースに掲載し、また実験動物のリストを作成し配布した。
著者
石坂 幸人 高橋 雅英 長尾 美奈子
出版者
国立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1991

乳頭状甲状腺癌細胞株TPCー1に検出された新しい活性型ret(以下ret^<TPC>)の関与を種々のヒト腫瘍をもちいて解析した。ret^<TPC>mRNAは、遺伝子再配列の結果生じたキメラ転写物として、切断点を境に3'側はプロト型ret、5'側は非プロト型retからなる構造を有している。この性質を利用してreverse transcriptionーpolymerase chain reaction(以下RTーPCR)法を行った後、切断点を中心に持つオリゴプロ-ブを用いたサザンプロット法により転写物を同定した。検体として肺癌23例、胃癌22例、乳頭状甲状腺癌11例、甲状腺腫19例、腺腫様甲状腺腫2例、子宮頚癌7例など計13臓器142例のヒト腫瘍を用いた。乳頭状甲状腺癌1例、甲状腺腫4例、腺腫様甲状腺腫1例にret^<TPC>mRNAが検出され、甲状腺以外の腫瘍には検出されなかった。本研究により、ret癌遺伝子の活性化が甲状腺腫瘍発生に重要な働きをしていることが示唆された。RTーPCR法による解析により、腺癌だけでなく良性腫瘍にもret^<TPC>mRNAが検出された。陽性腺癌では、組織のどの部分にもret^<TPC>mRNAが検出されるのに対して、良性腫瘍では、ret^<TPC>mRNAが陽性の部分と陰性の部が認められた。日本人では甲状腺組織に潜在癌が高率に認められるとの報告があり、高い検出感度を有するRTーPCR法によりret^<TPC>陽性潜在癌が検出されている可能性が考えられた。また、プロト型ret遺伝子産物に対する家兎抗血清が得られ、ret^<TPC>遺伝子産物は57kDaのリン酸化タンパク質として細胞質可溶性画分に検出された。この抗体を用いた免疫組織化学的検索の展開が期待される。