著者
田中 創 白坂 祐仁 矢野 雅直 小牟禮 幸大 森澤 佳三 西川 英夫 副島 義久 山田 実
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.144, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 臨床において立位の回旋動作に左右差を来している症例をよく経験する.しかし,その回旋動作の左右差がどのような因子によって成されているかを明確にした文献はない.よって,今回は立位の回旋動作に関与する因子として体幹と股関節の回旋量に着目して検討したので報告する. 【対象】 身体に重篤な既往のない健常成人20名(男性18名,女性2名) 平均年齢24.7±8歳. 【方法】 左右の踵をラインに合わせ,歩幅は任意の状態での立位とした.この肢位をスタートポジションとし左右への回旋を行い,これを1)立位回旋量として測定した.また,検者による骨盤固定での回旋を2)体幹回旋量として測定した(骨盤より上位の体節による回旋).3)股関節の回旋は立位の状態を再現するために腹臥位,股関節屈伸中間位での外旋と内旋の角度を計測した.計測は日本整形外科学会による評価法に従い,ゴニオメーターを使用して測定した.計測から得られた立位回旋量(左右),体幹回旋量(左右),股関節内外旋量(左右)の値に加え,それぞれの回旋量の関係を調べるためにSpearmanの相関分析を用いた. 【結果】 立位右回旋と体幹右回旋(r=.451,p=.046),立位左回旋と体幹左回旋(r=.450,p=.046),股関節外旋(右-左)と股関節内旋(右-左)(r=-.475,p=.034)に有意な相関関係が認められた. 【考察】 立位の回旋運動では,右回旋において骨盤帯の右回旋が生じることから,右股関節では寛骨に対する大腿骨の相対的な内旋運動,左股関節では寛骨に対する大腿骨の相対的な外旋運動が生じると考えられている.立位の左回旋でも同様に逆の作用が生じるとされている.そのため,仮に立位の回旋運動に左右差が生じていれば,それが股関節の可動性にも影響を及ぼしているのではないかということが推察された.本研究では立位の回旋運動においてはほぼ全ての被験者に左右差を認めたものの,それと股関節の可動域の関係性は認められなかった.その要因として,股関節の回旋可動域の計測を他動運動で行ったことが挙げられる.通常,立位の回旋運動は荷重下での運動となるため,股関節には自動運動での作用が強いられる.そのため,他動的に計測した今回の値とは関連性が認められなかったものと考えられる.これは日常の臨床においても,立位の回旋運動に変化を与えたい場合には他動運動が変化するだけでは十分な効果は得られないということを示唆する結果となった.今後は可動性という量的側面に加え,筋・筋膜系,神経制御等といった質的側面にも着目して検討していきたい.