著者
岩坂 知治 江藤 正博 田中 創 副島 義久 森澤 佳三 西川 英夫 山田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2204, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】過去,座位姿勢に着目した重心動揺計を用いた研究は少なく,特に整形外科疾患に特化した研究は数少ない.しかし,臨床上腰部疾患を有する患者の多くは,座位姿勢において何らかの症状を訴えることが多い.これらの患者に対して,体幹機能を重視した評価・アプローチが行われるのが一般的であるが,これだけで症状軽減に繋がらないケースを多々経験する.そこで今回,座位時の重心動揺を,条件を規定して測定した結果,有用な知見が得られたので若干の考察を加えて報告する.【方法】対象は当院外来通院中の腰部疾患患者14名(男性5名,女性9名)で,平均年齢は63.2歳.病態の内訳は変形性腰椎症4名,腰椎圧迫骨折3名,椎間板ヘルニア4名,腰部脊柱管狭窄症3名である.対象群は腰痛の既往のない健常成人10名(男性6名、女性4名)とした.平均年齢は25.6歳.方法は重心動揺計を用いて総軌跡長,単位軌跡長,外周面積,単位面積軌跡長,矩形面積,実効値面積を測定した.計測条件として,昇降式治療ベッドに重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-31)を置き,両足底が床面に接地した端座位(以下,足底接地),両足底が床面から浮いた端座位(以下,非接地)の2条件とした.計測肢位は,治療用昇降ベッドにて高さ調節を行い,両条件とも股・膝関節90°屈曲位,足底接地条件では足関節底背屈0°となるよう床面の高さを設定,両上肢は胸の前で組み,測定場所より5メートル離れた壁の一点を注視させた.計測は被検者が重心動揺計に座り,測定肢位を取った状態から20秒後に検者がスタートボタンを押し,安静座位の状態を60秒間計測した.なお,同群2条件間の解析はMann-Whitney検定,患者-健常者両群間の解析はWilcoxon検定を用いて検討した.【説明と同意】当院の倫理委員会にて本研究の目的を説明し,同意を得た上で実施した.また,それぞれの対象者に本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した.【結果】非接地条件下では,外周面積,単位軌跡長,総軌跡長,矩形面積が患者群で有意に高値を示した(p<0.05).足接地条件下では,患者群において単位面積軌跡長で有意に低値を示した(p<0.05).患者群,健常者群の両群ともに,外周面積,単位面積軌跡長は足底接地条件下では有意に高値を示した(p<0.05).【考察】本結果より,患者群において足底非接地条件下では重心の動揺が顕著にみられたのに対し,足底接地においては重心の動揺が低値を示すことが分かった.通常,足底非接地の座位では,その制御に股関節より上位の体節が関与するとされている.この条件下では患者群において体幹での制御が不十分なことから,動揺が大きくなったものと考えられる.一方,足底接地においては,足部を接地したことによる支持面の増加,制御に関わる体節の増加,つまりは運動制御に関わる自由度が増加したことで,体幹での制御が軽減され,重心動揺が低値を示したものと考えられる.しかし,健常者群と比較して患者群の単位面積軌跡長が低値を示す結果となった.これは,患者群で足底が接地することで,固定化された座位姿勢が形成されたものと考えられる.足底非接地条件下では腰部疾患患者の既往に伴い,体幹の制御不良が露呈される結果になったが,腰部疾患患者においては足部接地の条件が加わるとで,足部を軸とした下肢の制御が大きく関与することが考えられる.これらより,腰部疾患患者に対して,体幹機能のみならず,下肢の影響も考慮して評価を行なっていく有用性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究より,過去研究数の少ない整形疾患の座位重心動揺に対する有用なデータが得られ,腰部疾患患者における評価の新たな視点となりうる結果となった.しかし,重心動揺計により得られた結果はあくまで二次元で示されたものであるため,床反力を考慮した研究を今後の課題としたい.
著者
金城 慎也 田中 創 副島 義久 西川 英夫 森澤 佳三
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.102, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 肩関節周囲炎患者において,肩関節の内外旋や前腕の回内外の可動域制限が肩関節挙上角度に影響を及ぼすことは先行研究により示唆されている.また,臨床場面においても,前腕の回内外可動域制限を来している症例が多い.しかし,それと同時に手指機能が不良な例も多く,特に母指の伸展,外転の可動域制限を来している症例をよく経験する.母指の伸展,外転の可動域制限は末梢からの運動連鎖として前腕の回内,肩関節の内旋を余儀なくされ,肩関節挙上制限の一因子となると考えられる.そこで今回,肩関節周囲炎患者に対して,母指可動域と肩,前腕可動域の関係性について検討したので報告する.【対象及び方法】 対象は保存的加療中の一側肩関節周囲炎患者12名(平均年齢54.25±6歳)とし,自動運動での肩関節の前方挙上(以下、前挙),外旋,前腕回内外,母指橈側外転,伸展の可動域を計測した.得られた計測値をもとに健側を基準として各計測値の左右差を求めた.統計学的処理にはウィルコクソン符号付順位和検定を用い,得られた値から肩,前腕,母指の可動域制限の関係性を調べた.【結果】 統計処理の結果,肩関節前挙と母指橈側外転(p<0.05),肩関節前挙と母指伸展(p<0.01),肩関節外旋と母指橈側外転(p<0.05),肩関節外旋と母指伸展(p<0.01),前腕回外と母指伸展(p<0.05),母指橈側外転と母指伸展(p<0.05)に有意な正の相関が認められた.【考察】 研究結果より,肩関節周囲炎患者において,肩関節前挙制限には母指橈側外転制限と伸展制限,肩外旋制限には母指橈側外転制限と伸展制限,前腕回外制限には母指伸展制限との関係性が認められた.肩関節前挙に関して肩外旋可動域制限が多大な影響を及ぼすことは知られており,上肢の運動連鎖において,前腕の回外運動には肩外旋として運動が波及することが言われてる.今回の研究結果から,遠位関節からの運動連鎖として,母指橈側外転と伸展が前腕の回外運動に影響していることが示された.その背景として,遠位橈尺関節から回外運動を波及させる為には,筋の起始停止の走行から長母指外転筋と短母指伸筋が関与していると考えられ,それらの機能が破綻することで前腕回外制限が生じると考えられる.これらのことから,肩関節周囲炎患者の挙上制限に対しては前腕,母指の影響まで考慮してアプローチしていく必要性が示唆された.
著者
田中 創 白坂 祐仁 矢野 雅直 小牟禮 幸大 森澤 佳三 西川 英夫 副島 義久 山田 実
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.144, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 臨床において立位の回旋動作に左右差を来している症例をよく経験する.しかし,その回旋動作の左右差がどのような因子によって成されているかを明確にした文献はない.よって,今回は立位の回旋動作に関与する因子として体幹と股関節の回旋量に着目して検討したので報告する. 【対象】 身体に重篤な既往のない健常成人20名(男性18名,女性2名) 平均年齢24.7±8歳. 【方法】 左右の踵をラインに合わせ,歩幅は任意の状態での立位とした.この肢位をスタートポジションとし左右への回旋を行い,これを1)立位回旋量として測定した.また,検者による骨盤固定での回旋を2)体幹回旋量として測定した(骨盤より上位の体節による回旋).3)股関節の回旋は立位の状態を再現するために腹臥位,股関節屈伸中間位での外旋と内旋の角度を計測した.計測は日本整形外科学会による評価法に従い,ゴニオメーターを使用して測定した.計測から得られた立位回旋量(左右),体幹回旋量(左右),股関節内外旋量(左右)の値に加え,それぞれの回旋量の関係を調べるためにSpearmanの相関分析を用いた. 【結果】 立位右回旋と体幹右回旋(r=.451,p=.046),立位左回旋と体幹左回旋(r=.450,p=.046),股関節外旋(右-左)と股関節内旋(右-左)(r=-.475,p=.034)に有意な相関関係が認められた. 【考察】 立位の回旋運動では,右回旋において骨盤帯の右回旋が生じることから,右股関節では寛骨に対する大腿骨の相対的な内旋運動,左股関節では寛骨に対する大腿骨の相対的な外旋運動が生じると考えられている.立位の左回旋でも同様に逆の作用が生じるとされている.そのため,仮に立位の回旋運動に左右差が生じていれば,それが股関節の可動性にも影響を及ぼしているのではないかということが推察された.本研究では立位の回旋運動においてはほぼ全ての被験者に左右差を認めたものの,それと股関節の可動域の関係性は認められなかった.その要因として,股関節の回旋可動域の計測を他動運動で行ったことが挙げられる.通常,立位の回旋運動は荷重下での運動となるため,股関節には自動運動での作用が強いられる.そのため,他動的に計測した今回の値とは関連性が認められなかったものと考えられる.これは日常の臨床においても,立位の回旋運動に変化を与えたい場合には他動運動が変化するだけでは十分な効果は得られないということを示唆する結果となった.今後は可動性という量的側面に加え,筋・筋膜系,神経制御等といった質的側面にも着目して検討していきたい.
著者
益川 眞一 忽那 龍雄 浅見 豊子 西川 英夫
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.936-941, 1991-03-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
8

We reported end-results of 19 cases (13 males and 6 females) with patellar fracture, who entered our clinic. These cases were 17 to 78 years old, and followed for 1 years and 8 months to 7 years and 10 months (mean, 4 years and 6 months). They were evaluated for the range of motion of the knee joint, Pain, limping, muscle atrophy of quadriceps and grade of satisfaction. The clinical results were excellent in 11 cases, good in 5, fair in 3 and poor in none. Their main complaint was fatigue of knee, and those patients had muscle atrophy of quadriceps. Comminuted fracture and the step-off of articular surface after treatment contributed to poor results.