- 著者
-
小笠原 信実
- 出版者
- 社会政策学会
- 雑誌
- 社会政策 (ISSN:18831850)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.2, pp.120-132, 2019-11-30 (Released:2021-12-02)
- 参考文献数
- 18
本論文は韓国における混合診療の実態を明らかにし,これを考察することにより日本における混合診療の是非をめぐる議論に貢献することを目的とする。韓国では1977年に公的医療保険が始まった時より混合診療が容認され,これは保険非給付診療を広げる結果をもたらしてきた。保険非給付診療の拡大は実損型医療保険の市場を拡大させ,2014年には韓国における実損型医療保険の加入率は66.3%に達した。混合診療の容認は韓国に次のような結果をもたらした。第一に,若年型甲状腺癌などの過剰診療をうながすインセンティブを生み,過剰診療が促進された。第二に,民間保険会社や医療機関は収益を増大させたが,逆に国民の医療における社会的厚生は悪化した。第三に,公的医療保険から民間医療保険への代替が所得,慢性疾患の有無,年齢などによる医療アクセスへの不平等を生んだ。第四に,医療が医学的な判断よりも利潤の確保を目的に行われる傾向が生じる医療の営利化を促進した。