著者
村上 慎司
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.15-25, 2019 (Released:2019-04-02)

政策と規範概念を架橋する研究は社会保障において急務の学術的課題である。本稿の目的は文献読解によって経済学者A・センと政治哲学者J・ウルフの研究を比較検討し社会保障の規範理論に基づく政策研究を発展させることである。両者に共通する特徴は、単一の規範理論から演繹的に特定の政策を導出することではなく、価値の多元主義を承認したうえで、多様な価値対立構造を明確化し、社会的選択を導くために規範理論的知見を活かすという点にある。だが、センは、超越論的アプローチと状態比較アプローチを相互排他的に論じて、後者の優位を主張するのに対して、ウルフは、理想理論と非理想理論を相互補完的であり、政策研究として後者を重視するものの、前者もガイダンスとしての役割があることを認めている。両者の議論を比較検討した結果、本稿は理想理論と非理想理論の補完関係を認めるほうが社会保障の議論にとって建設的であると言う見解を提示する。
著者
小笠原 信実
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.113-136, 2019 (Released:2019-04-02)

世界的な新自由主義化の影響をうけながら、韓国では2004年に廬武鉉政権により、日本では2001年に小泉政権により、新自由主義的医療改革が開始され、両国の産業界とアメリカの要求を受けながら類似した内容の改革が試みられた。しかし韓国では公的医療保険の給付水準が低かったこととサムソン財閥が医療産業の拡大と参入を強力に進めたために新自由主義的医療改革が急速に進んだのに対し、日本では漸進的にしか進まなかった。
著者
植山 直人
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.49-59, 2020 (Released:2020-06-09)

日本の医師の労働時間は突出して長いが、この長時間労働問題は24時間体制の病院の当直業務との関連性が大きい。過重労働は過労死をはじめメンタル不調・体調不良など深刻な健康被害を引き起こしている。また、長時間労働により医療安全が脅かされているが、この点に関しては厚労省も医療界も何の対策も行っておらず、議論さえもない。 厚労省の検討会の報告書は、長時間労働を合法化するものである。まずは、可能な改善策を速やかに実行し、過労死ラインを超えて働く医師を減らす必要がある。しかし、当直等の業務は医師の本来業務でありタスクシフトなどはできないため、根本的な解決には医師をOECD平均並みに増員し、交代制勤務を導入しなければならない。長期的には、箱ものや薬剤にお金をかけ、医師不足や看護師不足などを放置する医療供給体制を変える必要がある。
著者
杉谷 和哉
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.27-37, 2021 (Released:2021-06-15)

新型コロナ感染症のパンデミックに彩られた2020年は、政策研究にとっても大きな課題を突き付けた。新型コロナ感染症の問題の特徴を鑑みると、パンデミックがもたらした問題は、ステークホルダー間の対立が生じている、問題同士が関連している、対策にあたって必要とされる知識が不足している、不確実性が高い、といった特徴を備えていることが看取できる。これらの特徴を備えた問題は、政策研究で言うところの「ウィキッド・プロブレム」に該当すると考えられる。この着想を手掛かりに、本論文では、新型コロナ感染症のパンデミック及びそれによって生じる課題を、「ウィキッド・プロブレム」と捉え、先行研究を駆使して分析した。その結果、科学の在り方が変容しつつあることと、「不快さを引き受ける政治」が必要であるといったことが示唆された。
著者
杉谷 和哉
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.133-156, 2021 (Released:2021-06-15)

本論文では、EBPM(Evidence-based Policy Making)が企図する「政策そのものの合理化」と、「政策過程の合理化」について、公共政策学が提示している論点を検討し、以下の含意が得られた。具体的には、①EBPMを推進する上で、公共政策の立案及び実施に関係するコンテクストを理解する必要があること、②EBPMを実現する上で、政策過程の内実を理解しなければならないこと、③政治に含まれている価値や構想力が重要であること、④EBPMは知識活用だけでなく知識創出にも関わっているため、社会をどのように捉えるかという点においても強い影響力をもち、よりラディカルなテクノクラシーを招来する可能性があること、の四つである。
著者
杉谷 和哉
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.85-100, 2020 (Released:2020-06-09)

エビデンスと実施者の間の緊張関係は医療においても議論されており、教育学では責任論と関連付けられている。本稿はこれを踏まえ、政策における責任論とエビデンスの関係性を論じた。福祉政策のように個別ニーズの把握が必要な政策においては行政の応答責任に基づいた検討を吟味が不可欠であり、今後は透明性も視野に入れた、多元的なエビデンスを考察することが必要であることが示唆された。
著者
鶴田 禎人
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.151-173, 2022 (Released:2022-07-22)

社会実態からの要請に基づいて、社会保障にソーシャルワークを位置付ける必要性が高まっている。政策としては、地域包括ケアから地域共生社会への議論を経て、社会福祉法改正等による包括的な支援体制の整備、財源の確保の法制化に至った。一方で、ソーシャルワークの充実に向けては、専門職の確保や業務配分の見直し、遅滞する地域づくりと国等による支援などといった、政策的諸課題の解決が望まれる。
著者
松田 亮三
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.29-37, 2020 (Released:2020-06-09)

「働き方改革」は、労働者の生活・労働の質の向上を目的としつつも、成長政策の一部としての人材政策としての意味付けがより濃くなってきている。医療部門においては、特に医師の「働き方改革」が推進されている。この改革は結果的には医師労働力供給の変更をもたらすため、それが医療供給の質・アクセスの保障に向けた取り組みと整合的となることが要請される。このため、長年労働時間規制の枠外とされ、長時間労働が常態化している医師労働の再編をいかに行うかは、複雑な要因を扱わねばならない政策上の難問となっている。本稿では、これまでの医師需給に関わ る先行研究をもとに、医師の「働き方改革」と医療供給との関わりを分析する枠組みを提示した。その枠組みには、住民の健康医療上の必要、医療労働過程の編成、必要労働、労働力供給が含まれている。医師労働力供給には、国内政策、国際移動、職業生活志向の変化を折り込み検討する必要がある。
著者
大釜 信政
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.53-74, 2022 (Released:2022-07-22)

目的:日本の大都市圏においてプライマリ・ケアを居宅で提供するために必要な高度実践看護師のコンピテンシーの尺度を開発し、尺度の信頼性と妥当性について検証する。 方法:大都市圏の診療所・病院で訪問診療や往診に携わる医師または看護師、訪問看護師、高齢者施設に勤務する看護師に対して、高度実践看護師に求めるコンピテンシーに関する質問票調査を実施した。 結果:309名からの回答を分析対象とした。最尤法・プロマックス回転による探索的因子分析により、6因子46項目を抽出した。また、尺度の信頼性と妥当性を確認した結果、Cronbachのα係数は.964、モデル適合度は、GFI=.759、AGFI=.732、CFI=.875、RMSEA=.060であった。 結論:本尺度の信頼性と妥当性に関して統計量的に許容範囲であり、プライマリ・ケアに資する高度実践看護師のコンピテンシー尺度として6因子46項目のそれぞれが概念や特性を適切に反映できている点が示唆された。
著者
植山 直人
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.49-59, 2020

日本の医師の労働時間は突出して長いが、この長時間労働問題は24時間体制の病院の当直業務との関連性が大きい。過重労働は過労死をはじめメンタル不調・体調不良など深刻な健康被害を引き起こしている。また、長時間労働により医療安全が脅かされているが、この点に関しては厚労省も医療界も何の対策も行っておらず、議論さえもない。厚労省の検討会の報告書は、長時間労働を合法化するものである。まずは、可能な改善策を速やかに実行し、過労死ラインを超えて働く医師を減らす必要がある。しかし、当直等の業務は医師の本来業務でありタスクシフトなどはできないため、根本的な解決には医師をOECD平均並みに増員し、交代制勤務を導入しなければならない。長期的には、箱ものや薬剤にお金をかけ、医師不足や看護師不足などを放置する医療供給体制を変える必要がある。
著者
小笠原 信実
出版者
日本医療福祉政策学会
雑誌
医療福祉政策研究 (ISSN:24336858)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.101-126, 2020 (Released:2020-06-09)

米韓FTAは韓国において製造業を主軸とした輸出主導型からサービス業への転換を伴った新自由主義への経済モデルへの転換の中で推進された。この転換のためには韓国内の構造調整と規制緩和が必要であるが、韓国の財閥は米韓FTAにそのための外部的な梃子の役割を期待した。米韓FTAは市場を拡大し、多国籍企業の多岐にわたる利益を保護するが、政府による医療環境の改善を委縮させるなど公共性を制限し、国民生活を悪化させる方向に作用する。