- 著者
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小糸 厚
中内 啓光
澤田 新一郎
- 出版者
- 筑波大学
- 雑誌
- 特定領域研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1998
CXCR4を主に用いるT細胞指向性HIVは一般に病態の進行に伴い出現する。この種のHIVが蔓延した感染者体内のCD4陽性下リンパ球がどのような機構により減少していくのか、あるいはCXCR4指向への質的なウイルス変異が免疫不全の進行に先立って必須であるか否かの二点について依然として明確に答えることはできず、個体レベルでの発症機構解析が必要とされている。マウスは、遺伝的な背景が詳しく解析されており、この病原レトロウイルスと宿主免疫系および宿主細胞遺伝子群との相互作用を明らかにするには、優れた小動物モデル系になりうる可能性を持つ。我々は、ヒトCD4およびヒトCXCR4遺伝子をマウスCD4遺伝子の転写制御領域(CD4エンハンサー,プロモーター,およびサイレンサー)に結合させた二種のトランスジーンを作製、両コンストラクトをマウス受精卵の核内に注入し、それらが同じ染色体に組み込まれたマウスを作製した。このヒトCD4/CXCR4を発現したマウスの胸腺、牌臓および末梢血よりリンパ球を調整し、そのHIV感受性をヒト末梢血単核細胞(peripheral bloodmononuclear cells;PBMC)と比較、検討したところ少なくともin vitroにおいてはCXCR4指向性HIV-1が感染することが確認された。しかしながら、マウスのprimaryのlymphoid系細胞でのHIVの複製は依然として制限されたものであり、CD4とCXCR4のみでは実用的なHIV感染モデルにはなりがたく、さらなるヒト特異的遺伝子の導入が必要であることを明らかにした。