著者
小菅 桂子 秋山 弘之 田口 信洋
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-28, 2004-02-29 (Released:2017-03-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

ヨウ化メチル剤ならびに臭化メチル・酸化エチレン混合剤にて燻蒸を行った植物・菌類・動物の乾燥標本を用いて,サンプルに含まれるDNAに対して薬剤燻蒸がどのような影響を及ぼすかを調べた.抽出されたDNAの電気泳動像は生物種や組織,抽出方法によって異なるが,燻蒸によって高分子DNA量が減少し,多少なりともDNAの分解と低分子化が認められた.しかし,分子系統解析等で問題となるPCR増幅の効率や増幅断片の塩基配列には燻蒸による影響は認められなかった.臭化メチル・酸化エチレン混合剤に比べ,ヨウ化メチル剤はDNAへの影響がより少なかった.薬剤はDNAだけでなくタンパク質を変性させてその可溶性能を変化させること,同じ材料でも抽出方法の違いによりDNAの分解状態が異なることから判断すると,燻蒸による高分子DNA量の減少は,変性したタンパク質によってDNAの抽出効率が低下した結果と考えられる.
著者
小菅 桂子 付 発鼎 田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.61-67, 1989-07-30

Kingdoniaは二叉分岐する脈理と偶数の葉跡がひとつの葉隙よりでることにより注目され,多くの形態学的研究がなされてきた。この特徴はCircaeasterにも認められ,DIELS(1932)はこれら両属の類縁を強調した。それ以来,KingdoniaとCircaeasterはしばしば同じ群に分類され,JANCHEN(1949),BUCHHEIM(1964)やTHORNE(1974)によりキンポウゲ科に,CRONQUIST(1968)やTHORNE(1983)によりキルカエアステル科に分類された。一方,HUTCHINSON(1959),TAMURA(1963)やTAHKTAJAN(1980)は両属の類縁関係を認めず,Kingdoniaはキンポウゲ科に,Circaeasterはキルカエアステル科に分類した。また, AIRY SHAW(1965)やDAHLGREN(1975)はKingdoniaを単型科,キングドニア科としてキンポウゲ科より区別した。このようにKingdoniaの分類学的な位置はまだ必ずしも明確に決定されてはいない。今回,中国:四川省:九塞溝および黄竜で採集した試料について主に花の形態を観察し,それをもとにこの属の分類学的位置を考察した。Kingdoniaではイチリンソウ属などと同様に,心皮はコップ状に発達し,1個の胚珠は心皮壁の向軸側上縁の中央部につく。開花時,心皮縁は完全に閉じておらず,維管束,特に腹束上部は,まだ道管が未分化な状態である。心皮跡は1本で背腹に2分し,腹束はさらに3つに分かれ,中分束は胚珠に,両側の2本の分束は心皮縁に沿って上部に伸びて行く。このような維管束走行はイチリンソウ属やセンニンソウ属などにふつう見られる。この時期,葯はすでに烈開しているが,胚珠はまだ胚襄形成の2細胞期にある。珠皮は1枚で珠心の半分までにしか達しておらず,極端な雄性先熟である。胚珠の向きについてDIELS(1932)やFOSTER(1961)は直生,MU(1983)は倒生,HUら(1985)は横生と報告している。今回の観察では,胚珠は珠柄にたいし約90度に曲がって位置しており,半倒生と思われる。一方,Circaeasterでは2個の直生胚珠が側壁につき,そのうち1個は退化し,中点受精を行ない,胚乳形成は造膜型(JUNELL 1931),葯は2室など,多くの重要な点でKingdoniaやキンポウゲ科とは異なり,類縁は認めにくい。FOSTER(1961)はKingdoniaの二叉分岐する脈理,がくの二重管束,3孔性の花粉などはキンポウゲ科では見られないなどの理由により,この科に含めることはできないと考えた。しかし,今回の観察では,がくの二重管束は認められず,花粉はキンポウゲ科によく見られる3溝性であった。Kingdoniaにみられる偶数の葉隙はオオレン属に,半倒生の胚珠はキンポウゲ属に見られ,また,花弁は多くのキンポウゲ科のと同様に蜜を分泌することにより,Kingdoniaをこの科に分類することは妥当であろう。JANCHEN(1949),TAMURA(1963)やBUCHHEIM(1964)は,Kingdoniaをイチリンソウ属に近縁と考え,キンポウゲ亜科:イチリンソウ連:キングドニア亜連に分類した。また,CHANG(1985)はKingdoniaと染色体が小型で基本数が9であり,葉柄に二重管束を持つキンポウゲ科のオオレン属との類縁を考え,カラマツソウ亜科のなかに単型連,Kingdonieaeをたてた。Kingdoniaとイチリンソウ属の心皮は,発生過程,維管束走行,胚珠のつく位置などにおいてよく似ており,さらに珠皮が1枚で花粉が3溝性であることも両者に共通している。また,先端がこぶ状に膨らんだ花弁はイチリンソウ属に近縁なオキナグサ属の花弁と似ている。一方,オオレン属はKingdoniaとは異なり,果実は袋果,珠皮は2枚,花粉は散孔性である。Kingdoniaはイチリンソウ属などと細胞学的特徴においては異なるものの,形態的特徴には多く共通点が認められる。従って,Kingdoniaをイチリンソウ連に分類することが妥当と考える。
著者
天野 百々江 大野 睦子 須田 隆一 飯田 聡子 角野 康郎 小菅 桂子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.129-139, 2008-08-20
被引用文献数
1

インバモはササバモとガシャモク間の自然雑種である.福岡県北九州市のお糸池では国内で唯一,絶滅危惧種ガシャモクとインバモが野生状態で継続的に生育しているが,近年,これらの個体数が減少しつつある.お糸池の現存個体と博物館所蔵の過去の標本を用いて,インバモの交配の方向と形態的特徴を調べた.核遺伝子adhと葉緑体遺伝子rbcLを解析した結果,インバモにはガシャモクを母親とするD型とササバモを母親とするM型があり,両者は葉の形態である程度区別できた.お糸池では,過去にD型のインバモが採集されているにもかかわらず,現存するパッチはすべてM型であった.栽培実験では,ガシャモクはササバモに比べて渇水時の生存能が低く,M型のインバモはササバモと同様に渇水時の生存能が高かった.お糸池では,近年,透明度の低下や渇水が起こっており,このような生育環境の悪化により,D型のインバモは選択的に生育できなくなった可能性がある.
著者
小菅 桂子 秋山 弘之 田口 信洋
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-28, 2004-02-29
被引用文献数
2

ヨウ化メチル剤ならびに臭化メチル・酸化エチレン混合剤にて燻蒸を行った植物・菌類・動物の乾燥標本を用いて,サンプルに含まれるDNAに対して薬剤燻蒸がどのような影響を及ぼすかを調べた.抽出されたDNAの電気泳動像は生物種や組織,抽出方法によって異なるが,燻蒸によって高分子DNA量が減少し,多少なりともDNAの分解と低分子化が認められた.しかし,分子系統解析等で問題となるPCR増幅の効率や増幅断片の塩基配列には燻蒸による影響は認められなかった.臭化メチル・酸化エチレン混合剤に比べ,ヨウ化メチル剤はDNAへの影響がより少なかった.薬剤はDNAだけでなくタンパク質を変性させてその可溶性能を変化させること,同じ材料でも抽出方法の違いによりDNAの分解状態が異なることから判断すると,燻蒸による高分子DNA量の減少は,変性したタンパク質によってDNAの抽出効率が低下した結果と考えられる.
著者
小菅桂子著
出版者
雄山閣出版
巻号頁・発行日
1997