著者
小野 克重
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-19, 2010 (Released:2010-07-14)
参考文献数
36
被引用文献数
1

Vaughan-Williams分類第4群に属するCa拮抗薬は,主に電位依存性L型Ca2+チャネルに結合してCa2+電流を抑制する.このため,Ca2+電流依存性興奮組織の洞房結節や房室結節における自動能の亢進もしくはこの部位を回路の一部とするリエントリー性不整脈に対しCa拮抗薬は有効である.撃発活動(triggered activity)とは活動電位の再分極相,あるいはその直後に生じる小さな膜電位振動から発生する単発,あるいは反復性の興奮で,活動電位持続時間が延長している時や細胞内Ca2+過負荷が生じている病的条件で起こる.Ca拮抗薬は撃発活動に対して顕著にこれを抑制する.抗不整脈作用を有するCa拮抗薬は,ベラパミル(フェニルアルキラミン系)とジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)に限られ,通常降圧剤として用いられるジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は血管選択性が強いために心臓作用は期待できない.一方,Vaughan-Williams分類では抗不整脈薬に分類されていないが,アデノシンやATP(アデノシン三リン酸)は受容体を介した心筋細胞外からの作用によって洞房結節の自動能を抑制する(陰性変時作用;negative chronotropic effect)とともに,房室伝導を抑える(陰性変伝導作用;negative dronotropic effect).また,心室筋に対しては間接作用(抗β受容体作用)によって電位依存性L型Ca2+チャネルを抑制する.血管内に投与されたATPは直ちに代謝を受けてアデノシンに変換されるが,それまでの間はATPとしての作用と変換後のアデノシンとしての両作用で心筋や血管機能を調節し,不整脈の診断や治療に欠かせない.本章では,Ca2+チャネルとCa拮抗薬の薬理作用,さらにATPとアデノシンの作用機序を概説する.
著者
小野 克重
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-39, 2022-03-04 (Released:2022-03-17)
参考文献数
11
著者
小野 克重
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.118-125, 2017-07-06 (Released:2018-04-16)
参考文献数
17

心電図におけるJ点とは,QRS群の終末部分とST部分の始まりの接合部(Junction)を指す.このJ点は,ときにnotch,またはslurとして観察され,このnotch(slur)全体をJ波と呼ぶ.心電図のST部分は,心室筋の脱分極が終了し再分極が始まるまでの間に,すべての心室筋がほぼ等電位にある時間帯であり,活動電位の第1~2相に相当する.ST部分は基線上に水平に位置することが原則とされるが,実際の心電図では脱分極の終了時点と再分極の開始時点が重なり合っている場合が多く,ST部分が基線に一致しないことも多い.このSTの上昇が1mm未満であるときは有意な所見であると見なされないが,心筋梗塞や心筋症の診断が否定されているにもかかわらず,著明なST上昇が認められる場合がある.この現象は心筋の早期再分極によるものとされ,早期再分極症候群(Early Repolarization Syndrome)と呼ばれる.Wasserburgerはその判断基準として,(1)ST接合部での1~4mmのST上昇,(2)凹状ST,(3)QRS波下行脚のnotch,あるいはslur,(4)ST上昇の認められる誘導でのT波増高所見,をあげている1).この早期再分極症候群に認められるQRS波下行脚のnotchはJ点そのものであるが,低体温症などの際に出現するOsborn波2)と極めて類似しており,両者は同一機序によって説明されるものと考えられている.本稿では,心電図のJ波の成り立ちを心筋の活動電位と膜電流異常によって概説する.
著者
小野 克重
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.24-30, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
9

心臓活動,特に電気活動と収縮性の維持には,自律神経と液性因子がバランスよく関与することが不可欠である.このバランスが破綻した際には,不整脈をはじめとするさまざまな病的状態が惹起される.通常の心電図から得られる情報のなかで,交感神経活動や副交感神経活動を評価するのは容易ではないが,少なくともRR間隔とQT間隔は自律神経活動を顕著に反映した指標であるため,自律神経活動を評価することは,不整脈の診断や治療に有用である.交感神経活動が亢進し副交感神経活動が減弱すると,心拍数は上昇しQT間隔は短縮する.交感神経活動が減弱し副交感神経活動が亢進すると,徐脈となりQT間隔は延長する.しかしながら,交感神経活動の亢進と副交感神経活動の減弱は,必ずしも同一の効果を生じるものではなく,両神経終末の伝達物質および心筋イオンチャネルの作動形式の相違に起因する.さらに,血管平滑筋の収縮・弛緩による血圧変動は,心臓の圧受容器反射を介した自律神経機能の調節機序として,重要な働きを担う.したがって,自律神経機能に起因する不整脈を理解するには,自律神経による直接的な心筋の電気生理作用と循環反射を介した自律神経活動調節の両者を知ることが必要である.