著者
山口 龍彦 萩野 恭子 平 陽介 濱田 洋平 斎藤 仁志 小野寺 丈尚太郎 板木 拓也 星野 辰彦 稲垣 史生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

IODPを始めとした掘削科学のプロジェクトにおいて、珪藻、有孔虫、放散虫、石灰質ナノプランクトンなどの微化石を用いて堆積物の地質年代を正確に決定することは非常に重要である。微化石の抽出と分類群の正確な同定には豊富な経験・知識が必要とされ、同定と堆積物の年代決定には時間を要する。DSDPが開始された1960年代より微化石の専門家は、掘削船に乗船し船上で微化石の分析を行い、掘削科学に貢献してきた。一方で、コンピュータ処理能力の向上により運転など従来人間が担ってきた操作が人工知能(AI)に置き換わられつつある。人工知能の構築に広く用いられているのはディープラーンニングと呼ばれる機械学習技術であり、多層のニューラルネットワークを用いることで、データの特徴を段階的により深く学習させる手法である。近年、国際空港の出入国管理、アミューズメントパークやコンサート会場の入場セキュリティを担う顔認証システムにおいて、ディープラーニングを用いることで、その識別精度を向上させる実用例も報告されている。我々は、この機械学習・画像認識技術の微化石年代測定への応用、さらには自動年代決定AIシステムの開発について研究を一昨年から開始した。昨年の本学会では、比較的単純な2種類の石灰質ナノ化石および珪藻化石について、NECのAIソフト「RAPID機械学習」による自動識別が可能であることを示した。今回の発表では、実用化に向けたさらなる検討として、分類する石灰質ナノ化石の種類を第四紀の堆積物から多産するEmiliania huxleyi, Gephyrocapsa oceanica, Gephyrocapsa ericsoni, Reticulofenestra haqii, Gephyrocapsa caribbeanica, Reticulofenestra productの6タクサ(種)に増やし、自動分類を試みた。ランダムに30枚の教師画像を与えて構築した分類モデルを用いて教師画像とは別の120枚(6種×20枚)の標本の画像の自動識別を行った。この結果、G. oceanicaやR. haqiiの判別的中率は100%、95%であり、自動判別の有効性が示された。一方、その他の4種類の判別的中率は0-35%であった。判別的中率が低い分類群では同定の鍵となるbridgeの認識がうまく行われていないと考えられる。偏向板を回転させたり、画像の解像度を上げた教師画像のみを与えることでより高精度の分類が可能になることが予想される。本発表では、石灰質ナノ化石の他の微化石への応用例も紹介し、自動分類の可能性について議論を深めたい。