著者
七山 太 山口 龍彦 中西 利典 辻 智大 池田 倫治 近藤 康生 三輪 美智子 杉山 真二 木村 一成
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.9, pp.493-517, 2020-09-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
93
被引用文献数
3

南海トラフ巨大地震によって沈降が予測されている宿毛臨海低地において沖積コアを採取し,LGMの開析谷を埋積する沖積層の特徴と堆積シークエンスの検討をした.松田川開析谷はLGMに形成され,その後の後氷期海進により,9.8kaに標高-30mに海水が到達し,エスチュアリー環境へと変化した.その後も海水準は上昇し続けて内湾泥底環境となり,7.5kaに最高水深時となった.7.3kaに起こった南九州の鬼界カルデラ噴火により,給源に近い宿毛湾周辺においてもK-Ah火山灰が厚く降灰し,その直後に大規模なラハールが発生した.その結果,水中二次堆積物が急激に堆積した.7.0ka以降にデルタの成長が他の地域に先行して活発化したが,これは大規模なK-Ah火山灰の影響と考えられる.SKMコアから得られた過去1万年間の海面変動情報に基づくならば,宿毛湾地域は南海トラフ巨大地震によって一時的に沈降するものの,長期的に見るとそれらの沈降量は相殺されると理解される.
著者
柳沢 幸夫 山口 龍彦 林 広樹 高橋 雅紀
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1-2, pp.29-47, 2003-02-28 (Released:2015-01-19)
参考文献数
26
被引用文献数
4 7

福島県南部の東棚倉地域に分布する海成の上部中新統の久保田層から,生痕化石Rosseliaの試料を採取して珪藻分析を行い,計数可能な数の珪藻化石を検出した.これにより 従来曖昧であった後期中新世における珪藻化石層序と放散虫・石灰質ナンノ化石・浮遊性有孔虫層序との直接的な対応関係を明らかにできた.久保田層中部の凝灰岩鍵層Kt-1の直上からKt-4BとKt-4Cの中間までの区間と,久保田層上部の基底部は,Yanagisawa and Akiba (1998)のThalassiosira yabei帯(NPD 5C)の上部に相当する. 久保田層における珪藻化石層序と放散虫・石灰質ナンノ化石・浮遊性有孔虫層序との対応関係は,斎藤 (1999) の標準微化石年代尺度とほぼ一致するが,一部問題も残されており今後の検討を必要とする.久保田層中部は,全体としては外部浅海帯の環境にあったものの,3回の相対的海水準の変動があり,3層準に海氾濫面が認められる.このうち凝灰岩鍵層Kt-3の直上にある最初の海氾濫面が最大のものであり,この層準で外洋性珪藻が多産して珪藻深度指標が最大値を示す.久保田層で認められた古水深(相対的海水準)の変化のイベントは,生層序によって栃木県烏山地域の荒川層群上部に対比できる.相対的海水準の変化は,両地域でほぼ同期している.このことは,この相対的海水準の変化がローカルなものではなく,より広域のイベントであり,グローバルな静海水準変動に支配されている可能性もあることを示唆する.
著者
山口 龍彦 萩野 恭子 平 陽介 濱田 洋平 斎藤 仁志 小野寺 丈尚太郎 板木 拓也 星野 辰彦 稲垣 史生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

IODPを始めとした掘削科学のプロジェクトにおいて、珪藻、有孔虫、放散虫、石灰質ナノプランクトンなどの微化石を用いて堆積物の地質年代を正確に決定することは非常に重要である。微化石の抽出と分類群の正確な同定には豊富な経験・知識が必要とされ、同定と堆積物の年代決定には時間を要する。DSDPが開始された1960年代より微化石の専門家は、掘削船に乗船し船上で微化石の分析を行い、掘削科学に貢献してきた。一方で、コンピュータ処理能力の向上により運転など従来人間が担ってきた操作が人工知能(AI)に置き換わられつつある。人工知能の構築に広く用いられているのはディープラーンニングと呼ばれる機械学習技術であり、多層のニューラルネットワークを用いることで、データの特徴を段階的により深く学習させる手法である。近年、国際空港の出入国管理、アミューズメントパークやコンサート会場の入場セキュリティを担う顔認証システムにおいて、ディープラーニングを用いることで、その識別精度を向上させる実用例も報告されている。我々は、この機械学習・画像認識技術の微化石年代測定への応用、さらには自動年代決定AIシステムの開発について研究を一昨年から開始した。昨年の本学会では、比較的単純な2種類の石灰質ナノ化石および珪藻化石について、NECのAIソフト「RAPID機械学習」による自動識別が可能であることを示した。今回の発表では、実用化に向けたさらなる検討として、分類する石灰質ナノ化石の種類を第四紀の堆積物から多産するEmiliania huxleyi, Gephyrocapsa oceanica, Gephyrocapsa ericsoni, Reticulofenestra haqii, Gephyrocapsa caribbeanica, Reticulofenestra productの6タクサ(種)に増やし、自動分類を試みた。ランダムに30枚の教師画像を与えて構築した分類モデルを用いて教師画像とは別の120枚(6種×20枚)の標本の画像の自動識別を行った。この結果、G. oceanicaやR. haqiiの判別的中率は100%、95%であり、自動判別の有効性が示された。一方、その他の4種類の判別的中率は0-35%であった。判別的中率が低い分類群では同定の鍵となるbridgeの認識がうまく行われていないと考えられる。偏向板を回転させたり、画像の解像度を上げた教師画像のみを与えることでより高精度の分類が可能になることが予想される。本発表では、石灰質ナノ化石の他の微化石への応用例も紹介し、自動分類の可能性について議論を深めたい。