著者
菅沼 悠介 石輪 健樹 川又 基人 奥野 淳一 香月 興太 板木 拓也 関 宰 金田 平太郎 松井 浩紀 羽田 裕貴 藤井 昌和 平野 大輔
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.591-610, 2020-10-25 (Released:2020-11-13)
参考文献数
101
被引用文献数
1

The Antarctic Ice Sheet (AIS) is one of the largest potential contributors to future sea-level changes. Recently, an acceleration of AIS volume loss through basal melting and iceberg calving has been reported based on several studies using satellite observations, including radar altimetry, interferometer, and gravity measurements. A recent model that couples ice sheet and climate dynamics and incorporates hydrofracturing mechanism of buttressing ice shelves predicts a higher sea-level rise scenario for the next 500 years. However, the calibration and reproducibility of the sea-level rise projection from these models relies on geological sea-level reconstructions of past warm intervals. This suggests that a highly reliable reconstruction of the past AIS is essential for evaluating its stability and anticipating its contribution to future sea-level rise. In particular, a relative sea-level reconstruction in East Antarctica is the key to solving the problems and refining future projections. The current understanding of sea-level change along the East Antarctic margin is reviewed, including Glacial Isostatic Adjustment (GIA) effects, and a new strategy is proposed to address this topic based on seamless sediment coring from marine to lake in the East Antarctic margin. This project will provide essential data on AIS change since the last interglacial period.
著者
池原 研 板木 拓也
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.633-642, 2005-11-15
被引用文献数
1

冬季モンスーンはシベリア高気圧と周囲の低気圧との間の大気循環による現象である.東アジアではシベリア高気圧とアリューシャン低気圧や赤道・オーストラリア低気圧との間の風で特徴付けられ,日本列島周辺では北西季節風が卓越する.この低温で乾燥した北西風は,ロシア極東沿岸日本海の表層水を冷却し,沿岸付近では海氷を形成させる.冷却され,海氷形成時に排出された高塩分水が加わって重くなった表層水は沈み込んで日本海固有水と呼ばれる深層水を形成する.最近の海洋観測結果から,深層水の形成は海氷が形成される極端に寒い冬に起こっているので,海氷と深層水の形成は冬季モンスーンの指標となると考えられる.本稿では,過去16万年間の海氷の発達度合いを示す漂流岩屑の量と冷たくて酸素に富んだ深層水の指標となる放散虫<i>Cycladophora davisiana</i>の産出量を検討した.その結果,酸素同位体ステージ3-5においては,両者とも千年規模の変化を示し,東アジア冬季モンスーンがこの時期に千年規模で変動していたことを示唆する.両者が高い値を示す時期には冬季モンスーンが強かった可能性が高い.同時期の日本海堆積物にはやはり千年規模での変動をもつ夏季モンスーンの記録が暗色層として残されているので,これとの対応関係を見ることで,1本のコアから夏季・冬季モンスーンの強弱の歴史と両者の関係を解明できる可能性がある.<br>
著者
石輪 健樹 徳田 悠希 板木 拓也 佐々木 聡史
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:2432079X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.330-350, 2020-11

将来の気候変動に対する南極氷床の応答の理解には,過去の南極氷床変動史の復元およびその変動メカニズムの解明が不可欠である. しかし,地質学的データの時間的・空間的な欠落により南極氷床変動史は十分に復元されていない. 第 61 次日本南極地域観測隊では,活動の一部として宗谷海岸のラングホブデでゾディアックボートを用いた海底地形測量・生物調査・堆積物採取をはじめとする水上調査を展開した. また,ラングホブデ・西オングル島で陸上調査を実施し,表層・陸上堆積物の採取および地中探査レーダーによる地層調査を行った. 取得した海底地形データおよび堆積物は,過去の南極氷床変動史を復元する上で重要な要素となることが期待される. 本報告書では,野外調査の計画および実施内容について報告する. The Antarctic Ice Sheet is a major source of future sea-level rise due to global warming. Reconstruction of the past Antarctic Ice Sheet is essential to understand the mechanism of the Antarctic Ice Sheet response to global and regional climate changes. However, the shortage of geological evidence of sea-level and ice-sheet records makes it difficult to reconstruct the Antarctic Ice Sheet changes. The geomorphological survey is conducted in the 61st Japanese Research Antarctic Research Expedition, and the objective of this survey is to obtain sea-level and ice-sheet records from Lützow-Holm Bay in East Antarctica. We measured the bathymetry and collected sediment samples in shallow water of Langhovde. We also collected the rocks for measuring cosmogenic nuclide and the terrestrial surface sediments, and took an interference pattern under the ground by the ground-penetrating radar in both the Langhovde and West Ongul Island. The data collected will be used to obtain geological evidence of the Antarctic Ice Sheet changes in the future expedition. We report the summary of the geomorphological survey such as planning, logistics, and records.
著者
山口 龍彦 萩野 恭子 平 陽介 濱田 洋平 斎藤 仁志 小野寺 丈尚太郎 板木 拓也 星野 辰彦 稲垣 史生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

IODPを始めとした掘削科学のプロジェクトにおいて、珪藻、有孔虫、放散虫、石灰質ナノプランクトンなどの微化石を用いて堆積物の地質年代を正確に決定することは非常に重要である。微化石の抽出と分類群の正確な同定には豊富な経験・知識が必要とされ、同定と堆積物の年代決定には時間を要する。DSDPが開始された1960年代より微化石の専門家は、掘削船に乗船し船上で微化石の分析を行い、掘削科学に貢献してきた。一方で、コンピュータ処理能力の向上により運転など従来人間が担ってきた操作が人工知能(AI)に置き換わられつつある。人工知能の構築に広く用いられているのはディープラーンニングと呼ばれる機械学習技術であり、多層のニューラルネットワークを用いることで、データの特徴を段階的により深く学習させる手法である。近年、国際空港の出入国管理、アミューズメントパークやコンサート会場の入場セキュリティを担う顔認証システムにおいて、ディープラーニングを用いることで、その識別精度を向上させる実用例も報告されている。我々は、この機械学習・画像認識技術の微化石年代測定への応用、さらには自動年代決定AIシステムの開発について研究を一昨年から開始した。昨年の本学会では、比較的単純な2種類の石灰質ナノ化石および珪藻化石について、NECのAIソフト「RAPID機械学習」による自動識別が可能であることを示した。今回の発表では、実用化に向けたさらなる検討として、分類する石灰質ナノ化石の種類を第四紀の堆積物から多産するEmiliania huxleyi, Gephyrocapsa oceanica, Gephyrocapsa ericsoni, Reticulofenestra haqii, Gephyrocapsa caribbeanica, Reticulofenestra productの6タクサ(種)に増やし、自動分類を試みた。ランダムに30枚の教師画像を与えて構築した分類モデルを用いて教師画像とは別の120枚(6種×20枚)の標本の画像の自動識別を行った。この結果、G. oceanicaやR. haqiiの判別的中率は100%、95%であり、自動判別の有効性が示された。一方、その他の4種類の判別的中率は0-35%であった。判別的中率が低い分類群では同定の鍵となるbridgeの認識がうまく行われていないと考えられる。偏向板を回転させたり、画像の解像度を上げた教師画像のみを与えることでより高精度の分類が可能になることが予想される。本発表では、石灰質ナノ化石の他の微化石への応用例も紹介し、自動分類の可能性について議論を深めたい。
著者
板木 拓也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は,学振特別研究員の採用最終年度として,これまでの成果をまとめつつある.論文発表としては,第一著者,共著ふくめて7編の原稿を学会誌に投稿し,そのうち4編が受理された(3編については現在審査中).6月に島根で行われた古生物学会では,シンポジウム「日本海の生物相の変遷と環境変動〜過去,現在そして未来へ向けて」を共同企画し,その成果を特集号として学会の邦文誌「化石」に掲載予定である.このシンポジウムでは,これまでに十分に整理されていなかった鮮新世から更新世における日本海の生物相変化を総括し,新たな研究の発展性が期待された.また,まだ不足している試料およびデータの収集を行った.5月に秋田の男鹿半島で行った野外調査では,これまでデータが得られていなかった中新世および鮮新世の微化石(放散中・珪藻)試料を採取した.10月下旬〜11月上旬には,日本海と東シナ海の間にある対馬海峡からプランクトン(放散中・有孔虫)の試料を採取した.これらの調査で採取された試料の処理はほぼ終了し,現在データの解析を行っている.近い将来,これらの成果について論文を執筆する予定である.この他,6月には熊本大学で共同研究者との研究の打ち合わせを行い,また,熊本大学所有の最新の顕微鏡画像解析システムを用いて,微化石標本の写真撮影を行った.この顕微鏡写真は,学会発表などで既に用いられ,また現在執筆中の論文にも掲載される予定である.