著者
尾久士 正己 富田 晃彦 曽我 真人 中山 雅哉
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

理科教育の中での天文分野の特徴は、その観察対象のスケールが桁違いに大きいことである。そのため、天文現象を理解するときには、学習者の視点を自身から遠く離れた宇宙空間に置く必要がある。この視点移動は、理科教育だけでなく、大人になるために非常に重要な概念の獲得であるが、子どもたちにとっては難しいとされてきた。そこで、我々は、身近な天体である地球、金星、太陽の位置関係を学ぶ教材として、金星の太陽面通過のインターネット中継とe-learning教材を、また、地球、月、太陽の位置関係を学ぶ教材として、日食の全天周映像のインターネット中継を使った教材を開発し、教育実践した。金星の太陽面通過の教材では、視点を太陽系内に置き、地球上の離れた2点からの観測データから、宇宙のスケールの基本単位である、地球=太陽間の平均距離(1天文単位)を求める教材を開発した。また、日食教材では、現地にいる観測者にしか経験できない、月の影に入るという感覚を、疑似体験できるよう、観測地の全天周映像をすべて、インターネットで遠隔地のプラネタリウムドームで再現するという実験を行った。その結果、ほとんどの被験者が、日食は月の影に入る現象であることを認識し、視点を地球から離れた宇宙空間に容易に移動することができた。また、同時に取得した気温や地表面温度のデータから、よりリアルな疑似体験の実現についても方向性を示すことができた。この成果から、今後はプラネタリウムが星座の動きを学習するだけの施設ではなく、様々な疑似体験が可能な空間であることを示すことができた。