著者
工藤 雄大 山下 瑶子 此木 敬一 長 由扶子 安元 健 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2013

<p>テトロドトキシン (TTX, 1)は電位依存性ナトリウムチャネルを特異的に阻害する強力な神経毒である。TTXはフグから単離されたが、その後、カニや巻貝、ヒョウモンダコ、ヒラムシなどの多様な海洋生物、更には陸棲のイモリ、カエルからも同定された。高度に架橋した構造と強力な生理活性、広範な生物種に分布する特徴から、極めて興味深い化合物である。TTX生産細菌を報告し <sup>1)</sup>、その後も数多くの報告があるが、TTXの生合成に関わる出発物質、遺伝子は未だに同定できていない。我々はTTX天然類縁体が生合成経路解明の手がかりになると考え、フグやイモリから種々のTTX類縁体を単離・構造決定してきた <sup>2-4)</sup>。今回HILIC (Hydrophilic interaction liquid chromatography: 親水性相互作用) -LC-MSを用い <sup>5)</sup>、新規TTX類縁体を探索したところ、オキナワシリケンイモリ (Cynops ensicauda popei) 及びヒガンフグ (Takifugu pardalis)から新規TTX類縁体と推測される化合物が数種検出され、これらの単離・構造決定を行った。さらに、各種TTX含有生物における分布を調査し、TTXの生合成経路の推定を試みた。</p><p>1. イモリから得られた新規TTX類縁体の構造と分布</p><p>TTXの生合成中間体は生理活性を持たない可能性が高く、生理活性を指標としたスクリーニングは適切ではなかった。そこで、TTX類縁体の一斉分析が可能なHILIC-LC-MSを用い、既知のTTX類縁体のフラグメントイオンを指標として新規TTX類縁体を探索した。C. e. popeiを希酢酸加熱抽出し、活性炭カラムで粗精製した後、HILIC-LC-MSに供し、新規TTX類縁体を探索した。2種の新規TTX類縁体 (2, 3) (Fig. 1)が検出されたため、これらを弱酸性陽イオン交換カラムBio-Rex70 (Bio-Rad)、HITACHI GEL #3011-C、HITACHI GEL #3013-Cを用いて精製した。3は更なる精製が必要であったため、TSK-gel Amide-80 (Tosoh)を用いて精製した。2はC. e. popeiの全組織170 gから約250 μg得られた。3は内臓組織を除いた身体組織65 gから約300 μg、4,9-anhydroTTXとの混合物 (約1:1)として得られ、そのまま解析に用いた。2, 3の分子式はそれぞれESI-Q-TOF-MSを用いてC<sub>11</sub>H<sub>15</sub>N<sub>3</sub>O<sub>4</sub>及びC<sub>11</sub>H<sub>15</sub>N<sub>3</sub>O<sub>6</sub>と決定した。2: [M+H]<sup>+</sup> m/z254.1136 (calcd. for C<sub>11</sub>H<sub>16</sub>N<sub>3</sub>O<sub>4</sub>254.1135, error: 0.4 ppm), 3: [M+H]<sup>+</sup> m/z 286.1036 (calcd. for C<sub>11</sub>H<sub>16</sub>N<sub>3</sub>O<sub>6</sub>286.1034, error: 0.7 ppm)。</p><p>2の分子式は、4,9-anhydro-5,6,11-trideoxyTTX (4)と一致した。また、2を各種NMR (600 MHz, CD<sub>3</sub>COOD-D<sub>2</sub>O 4:96, v/v)に供したところ、そのシグナルは4 <sup>6</sup><sup>)</sup>に類似していたが、2ではH5のシグナルが一つしか示されず、かつH9の大きな高磁場シフト (-0.73 ppm)が観測された。C5、C10のケミカルシフト (50.7, 107.6 ppm)、及び、C5/H9, C10/H4a, C10/H6のHMBC相関が観測されたことから、2はこれまで報告例のない、C5とC10が直接結合した10-hemiketal構造を持つと考えられた。2のNOESY 1DではH4a/H6のNOEが観測されたが、H4a/H8, H6/H8のNOEは観測されなかった。このことからC6の立体化学はTTXと同じであり、C8位はイモリに特異的な8-epi体であると考えられた <sup>4)</sup>。以上より、2の構造を4,9-anhydro-10-hemiketal-8-epi- 5,6,11-trideoxyTTXと推定した (Fig. 1)。</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>