著者
工藤 雄大 千葉 親文 長 由扶子 此木 敬一 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP63, 2015 (Released:2018-10-01)

[背景・目的] テトロドトキシン (tetrodotoxin, TTX, 1) は、電位依存性ナトリウムチャネルを強力かつ選択的に阻害する神経毒であり、致死性の食中毒を引き起こす。TTXはフグ、巻貝、カニなどの海洋生物、および陸棲の両生類であるイモリやカエルに含まれ、世界中に分布する。この特異な構造が自然界でどのように構築されるかは予測が困難であり、TTXの生合成経路は未だ解明されていない。既に我々も含めた複数の研究グループが海洋由来のバクテリアによるTTXの生産を報告しており1)、TTXは食物連鎖により海洋生物へと蓄積されると考えている。一方、陸上におけるTTXの生産生物は未同定である。唯一のラベル化合物の投与実験として、清水らによるイモリへのarginine, acetate等の投与例があるがTTXはラベル化されず2)、遺伝子解析からTTXの生合成経路に言及した研究もこれまでない。そこで我々は、TTX類縁体の化学構造が生合成経路を反映していると考え、新規TTX類縁体(生合成中間体)を得るために質量分析器を駆使した網羅的な探索を実施してきた3)。そして最近、有毒のオキナワシリケンイモリ (Cynops ensicauda popei) から、TTXのC5-C10が直接炭素-炭素結合した10-hemiketal-typeの類縁体の4,9-anhydro-10-hemiketal-5-deoxyTTX (2) を発見した。化合物2は国内外の複数の有毒イモリに共通して存在していたため生合成中間体であると考え、2の特徴的な骨格構造からモノテルペンを出発物とする新たな生合成経路の可能性を考えた (Fig. 1)4)。本研究では、推定した経路を基に更なる生合成中間体を探索したので報告する。また未解明であるイモリにおけるTTXの起源を追及した。Figure 1. Proposed biosynthetic pathway towards TTX based on the structure of 2.4) 1. 新規環状グアニジン化合物群とTTX生合成経路の考察 質量分析器を用いて推定した生合成経路における中間体を探索した。これまで我々は水溶性の高いTTX類縁体の探索法として、希酢酸加熱抽出、活性炭による前処理、HILIC-LC-MS/MS3c, 5)による解析を行ってきた。しかし、本研究のターゲットとなる生合成中間体はTTX類縁体よりも親水性が低いことが予想されたので、探索のステップをそれぞれメタノール抽出、ODSによる前処理、逆相カラムによるLC-MSへと変更し、より初期の生合成中間体に焦点を当てた探索法を新たに構築した。この疎水性化合物用の探索法と従来の親水性化合物用の探索法の二つの方法で予想生合成中間体の発見を目指した。1-1. Cep-210, Cep-212の構造解析疎水性化合物の探索では、C. e. popeiのメタノール抽出物から[M+H]+ m/z 210.1606 (C11H20N3O, err. 2.2 ppm, ESI-TOF-MS) の微量新規成分 (Cep-210, 3) を検出した。その分子式から、化合物3は予想生合成中間体に相当する可能性が考えられたため、大量抽出および単離・構造決定を試みた。化合物3をC. e. popeiの身体組織 (415 g、約70匹) からメタノールで抽出して分配操作を行った後、数種の逆相カラムと弱酸性陽イオン交換カラムを用いて単離した。得られた3(69 nmol、マレイン酸を内部標準として1H NMRの積分値より算出)をCD(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
工藤 雄大 山下 瑶子 此木 敬一 長 由扶子 安元 健 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2013

<p>テトロドトキシン (TTX, 1)は電位依存性ナトリウムチャネルを特異的に阻害する強力な神経毒である。TTXはフグから単離されたが、その後、カニや巻貝、ヒョウモンダコ、ヒラムシなどの多様な海洋生物、更には陸棲のイモリ、カエルからも同定された。高度に架橋した構造と強力な生理活性、広範な生物種に分布する特徴から、極めて興味深い化合物である。TTX生産細菌を報告し <sup>1)</sup>、その後も数多くの報告があるが、TTXの生合成に関わる出発物質、遺伝子は未だに同定できていない。我々はTTX天然類縁体が生合成経路解明の手がかりになると考え、フグやイモリから種々のTTX類縁体を単離・構造決定してきた <sup>2-4)</sup>。今回HILIC (Hydrophilic interaction liquid chromatography: 親水性相互作用) -LC-MSを用い <sup>5)</sup>、新規TTX類縁体を探索したところ、オキナワシリケンイモリ (Cynops ensicauda popei) 及びヒガンフグ (Takifugu pardalis)から新規TTX類縁体と推測される化合物が数種検出され、これらの単離・構造決定を行った。さらに、各種TTX含有生物における分布を調査し、TTXの生合成経路の推定を試みた。</p><p>1. イモリから得られた新規TTX類縁体の構造と分布</p><p>TTXの生合成中間体は生理活性を持たない可能性が高く、生理活性を指標としたスクリーニングは適切ではなかった。そこで、TTX類縁体の一斉分析が可能なHILIC-LC-MSを用い、既知のTTX類縁体のフラグメントイオンを指標として新規TTX類縁体を探索した。C. e. popeiを希酢酸加熱抽出し、活性炭カラムで粗精製した後、HILIC-LC-MSに供し、新規TTX類縁体を探索した。2種の新規TTX類縁体 (2, 3) (Fig. 1)が検出されたため、これらを弱酸性陽イオン交換カラムBio-Rex70 (Bio-Rad)、HITACHI GEL #3011-C、HITACHI GEL #3013-Cを用いて精製した。3は更なる精製が必要であったため、TSK-gel Amide-80 (Tosoh)を用いて精製した。2はC. e. popeiの全組織170 gから約250 μg得られた。3は内臓組織を除いた身体組織65 gから約300 μg、4,9-anhydroTTXとの混合物 (約1:1)として得られ、そのまま解析に用いた。2, 3の分子式はそれぞれESI-Q-TOF-MSを用いてC<sub>11</sub>H<sub>15</sub>N<sub>3</sub>O<sub>4</sub>及びC<sub>11</sub>H<sub>15</sub>N<sub>3</sub>O<sub>6</sub>と決定した。2: [M+H]<sup>+</sup> m/z254.1136 (calcd. for C<sub>11</sub>H<sub>16</sub>N<sub>3</sub>O<sub>4</sub>254.1135, error: 0.4 ppm), 3: [M+H]<sup>+</sup> m/z 286.1036 (calcd. for C<sub>11</sub>H<sub>16</sub>N<sub>3</sub>O<sub>6</sub>286.1034, error: 0.7 ppm)。</p><p>2の分子式は、4,9-anhydro-5,6,11-trideoxyTTX (4)と一致した。また、2を各種NMR (600 MHz, CD<sub>3</sub>COOD-D<sub>2</sub>O 4:96, v/v)に供したところ、そのシグナルは4 <sup>6</sup><sup>)</sup>に類似していたが、2ではH5のシグナルが一つしか示されず、かつH9の大きな高磁場シフト (-0.73 ppm)が観測された。C5、C10のケミカルシフト (50.7, 107.6 ppm)、及び、C5/H9, C10/H4a, C10/H6のHMBC相関が観測されたことから、2はこれまで報告例のない、C5とC10が直接結合した10-hemiketal構造を持つと考えられた。2のNOESY 1DではH4a/H6のNOEが観測されたが、H4a/H8, H6/H8のNOEは観測されなかった。このことからC6の立体化学はTTXと同じであり、C8位はイモリに特異的な8-epi体であると考えられた <sup>4)</sup>。以上より、2の構造を4,9-anhydro-10-hemiketal-8-epi- 5,6,11-trideoxyTTXと推定した (Fig. 1)。</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
工藤 雄大 此木 敬一 長 由扶子 安元 健 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
no.53, pp.367-372, 2011-09-02

Tetrodotoxin (TTX) is distributed in wide range of animals, marine puffer fish and terrestrial newts and frogs, for examples. We have isolated various TTX analogs from these animals, and attempted to obtain clues to biosynthetic pathway of TTX from the structures of these analogs. Here we isolated four new analogs of TTX from the Okinawan newt Cynops ensicauda popei, and determined their structures as 8-epi-5,6,11-trideoxyTTX, its 4,9-anhydro derivative, its 1-hydroxy derivative, and its 1-hydroxy-4,4a-anhydro derivative, by spectroscopic method. These analogs are not detected in puffer fish, instead, 5,6,11-trideoxyTTX is detected as a major analog in puffer fish eggs. 1-Hydroxy type analog might be specific to newts, since 1-hydroxy-5,11-dideoxyTTX was previously isolated from the other species of newt, Taricha granulosa, by other group. This is the first identification of 4,4a-anhydro type analog of TTX from the natural source.