著者
濱田 啓義 中山 貴弘 ダハール 佐知子 立入 智恵子 山出 一郎 井上 卓也 矢野 樹理 畑山 博
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.262-268, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
24

【目的】平成28年度より不妊治療に対する特定治療支援事業では43歳以上の患者が対象外となった.その一方,43歳以上で不妊治療により妊娠・出産に至る例を少なからず経験するところであり,43歳以上に対する治療について検討することは喫緊の課題といえる.今回,その一助とすべく当院での不妊治療による43歳以上の妊娠症例を解析,検討した.【方法】2011年から2013年に当院で不妊治療を行い妊娠が成立した3743例のうち,43歳以上の118例について治療歴,治療内容,転帰を検討した.【成績】妊娠成立時の年齢は平均44歳2カ月,最高齢は48歳8カ月であった.治療開始から妊娠成立までの日数は平均508日(27~2260日)であり,40歳以下に比べると有意に長かった.69%(81例)が初回治療であり,71%(84例)に流産を含む何らかの妊娠歴が認められた.妊娠成立時の治療内容はタイミング法13%(15例),人工授精(以下IUI)3%(3例),体外受精および顕微授精(以下ART)85%(100例)であった.他院治療歴のある症例(37例)の95%(35例)と,妊娠歴のない症例(32例)の94%(32例)はARTにより妊娠していた.ARTでの卵巣刺激法はクエン酸クロミフェン周期が54%(54例)と最も多く,36% (36例)がGnRH agonist short protocol(以下short法)であった.また凍結融解胚移植が約半数(49例)を占めた.妊娠の転帰は生産34%(40例,うち帝王切開26例),自然流産58%(68例),3例が異所性妊娠,5例で人工妊娠中絶が行われていた.【結論】今回の検討では85%の症例がARTにより妊娠していた.他院治療歴ありと妊娠歴なしの症例では大多数がARTでの妊娠であり,43歳以上の患者の治療選択において治療歴と妊娠歴が重要と考えられた.またARTの卵巣刺激法ではクエン酸クロミフェン法やshort法を積極的に使用しても良いと考えられた.ただし妊娠の転帰は厳しく,中期中絶症例があることも今後の課題と考えられた.〔産婦の進歩69(3):262-268,2017(平成29年8月)〕
著者
林 嘉彦 高倉 賢二 山出 一郎 石川 弘伸 石 紅 後藤 栄 和久田 晃司 野田 洋一
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.516-527, 1997

子宮内膜内微小環境を修飾することにより胚着床率が改善するか否かを明らかにするために,胚と各種生理活性物質との子宮内膜内共移植を試みた.移植には胚盤胞(ICR)を用い,受卵雌には8~10週齢の同系偽妊娠マウスを用いた.生理活性物質はヒスタミン,プロスタグランジンE2,プロゲステロン,hCGについて検討したが,ヒスタミン(100μM)との共移植でDay2受卵雌の着床率が改善(31.5%)した.マウス子宮内膜間質細胞の培養系にヒスタミンを添加(100μM)したところ脱落膜化の過程にはなんら影響が認められず,また卵孚化胞胚培養系にヒスタミン添加(100μM)を行ってもトロフォブラストの発育にはなんら影響が認められなかった.一方,胚・ヒスタミン共移植後の子宮内膜には著明な間質の浮腫が認められた.以上より着床率改善の機序はヒスタミンによる脱落膜化修飾作用あるいは胚発生促進効果を介したものではなく,血管透過性充進の機序を介した微小環境の変化によるものと考えられた.本研究により胚・生理活性物質の内膜内共移植によって着床率が改善されうる実験的根拠が得られた.〔産婦の進歩49(5);516~527,1997(平成9年9月)〕